第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節8

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (運動器)

座長:伊藤康弘(香川大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0379] 股関節運動時と荷重時の中殿筋の筋活動について

山崎和博, 平井友和 (九州労災病院中央リハビリテーション部)

Keywords:中殿筋, 筋活動, 股関節

【目的】寛骨臼移動術は骨頭の被覆を改善し関節の安定性を得て変形性股関節症の進行を防止しようとする手術法である。この手術では大転子の切骨を伴うため,当院では中殿筋の筋力トレーニングは荷重開始以降の術後2,3週目より開始の許可を得ている。しかし,その負荷量については一定の見解が得られていなかった。一方,術側下肢の荷重は術後2週より1/3荷重から開始となり,3週で1/2荷重,4週で2/3から3/4荷重と1週毎に増加していく。そこで各荷重時と股関節の各運動時での中殿筋の筋活動を比較し,寛骨臼移動術後における安全な股関節運動の検討を目的とした。
【方法】対象は下肢・体幹に整形外科的疾患の既往がない健常男子12名(年齢27.3±5.0歳,身長173.3±7.0cm,体重64.6±7.9kg)とした。荷重は測定側を体重計(タニタ社製),非測定側を台に乗せた安静立位を開始肢位とし,まず被験者に体重計を確認しながら荷重を行わせた。荷重量が安定したところで5秒間の静止立位時の筋活動を測定した。荷重課題は体重の1/2荷重,2/3荷重,3/4荷重,全荷重の計4つとした。股関節の各運動は側臥位股関節外転,腹臥位股関節伸展,SLR,両脚ブリッジ,片脚ブリッジを5秒間の等尺性運動で行わせ筋活動を測定した。また背臥位股関節外転運動を,ベッド上(以下ベッド上外転)と股関節中間位でのスリング使用懸垂時(以下スリング外転)で行わせた。股関節中間位を開始位置とし,1秒に1回の外転動作を10回反復させ筋活動を測定した。全ての課題は測定前に練習を行わせ実施した。筋活動の測定には表面筋電計MyoSystem1200(Noraxon社製)を用いた。被験筋は右中殿筋(腸骨稜の中点より2.5cmほど遠位)とし,電極中心距離は2.0cmとした。解析にはMyoResearchXP(Noraxon社製)を用い,中殿筋の最大等尺性収縮時の最大値を100%として正規化し,各課題の%MVCを求めた。荷重時と股関節等尺性運動時は安定した3秒間の%MVCの平均値,反復運動は10回のピーク%MVCの平均値を算出した。統計処理は各荷重時と各股関節運動時の%MVCの比較,各運動時の%MVCの比較に一元配置分散分析を用い,多重比較にはGames-Howell法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】被験者には書面にて本研究の内容を説明し同意を得て実施した。
【結果】各荷重時の%MVCは,1/2荷重で5.7±2.9%,2/3荷重で10.0±3.7%,3/4荷重で12.6±4.2%,全荷重で20.7±8.3%であった。各股関節運動時の%MVCは側臥位股関節外転で21.2±4.5%,腹臥位股関節伸展で12.0±4.4%,SLRで6.2±3.1%,両脚ブリッジで4.9±4.0%,片脚ブリッジで29.2±11.5%であった。また,ベッド上外転で12.0±5.5%,スリング外転で6.4±3.4%であった。各荷重時と各股関節運動時の比較では,SLR,両脚ブリッジ,スリング外転は,3/4荷重(p<0.05),全荷重(p<0.01)と比べ有意に低値であった。側臥位股関節外転と片脚ブリッジは,1/2,2/3,3/4荷重に比べ有意に高値であった(p<0.01)。腹臥位股関節伸展は1/2荷重に比べ有意に高値であった(p<0.05)。各運動の比較では,側臥位股関節外転と片脚ブリッジは腹臥位股関節伸展,SLR,両脚ブリッジ,ベッド上外転,スリング外転と比べ有意に高値であった。
【考察】スリング外転,両脚ブリッジ,SLRは,1/2荷重時と比べ中殿筋の筋活動が同程度であり3/4荷重時と比べ低値であった。腹臥位股関節伸展,ベッド上外転は,3/4荷重時と同程度の筋活動であり,腹臥位股関節伸展は1/2荷重時と比べ有意に高い筋活動であった。背臥位股関節外転運動でスリングを使用することは,ベッドとの摩擦が無くなり低い筋活動で行えるため,初期の中殿筋トレーニングとして有用である。またスリングの位置をより股関節外転位とすることで,さらに中殿筋の筋活動を抑えることも可能と予測できる。腹臥位股関節伸展は,中殿筋の筋活動を考慮すると寛骨臼移動術後早期には慎重になるべきと思われる。術後4週以降の2/3~3/4荷重時を基準とした場合,中殿筋に関して片脚ブリッジと側臥位股関節外転は高負荷,腹臥位股関節伸展とベッド上外転は中程度負荷,スリング外転と両脚ブリッジ,SLRは低負荷の運動と言える。
【理学療法学研究としての意義】大転子切骨を伴う寛骨臼移動術後のリハビリテーションの一助となり,その他の大転子切骨を伴う手術後で股関節運動を行う上での参考となりうる。