[0380] 健側股関節伸展可動域が患側股関節屈曲可動域に与える影響
Keywords:股関節屈曲可動域, 股関節伸展可動域, ストレッチ
【はじめに】
股関節屈曲可動域の不足は和式生活におけるしゃがみこみ動作や胡座,靴下の着脱や爪切りなどの動作を困難にさせる。このため,一定以上の屈曲可動域の再獲得は理学療法の重要な目的となる。しかし,人工股関節置換術後や変形性股関節症による可動域の低下ではトレーナビリティーが期待できない場合が少なくない。股関節の屈曲可動域には臼蓋と大腿骨頭の間の運動だけでなく,骨盤・腰椎の後傾・後弯運動が寄与することが知られている。これらの運動は反対側下肢から見ると股関節伸展運動によって実現される。よって,一足の股関節が伸展状態にある際の股関節屈曲可動域には反対側股関節の伸展可動域が影響を与える可能性がある。本研究では,反対側伸展可動域の変化が仰臥位における股関節屈曲可動域に与える影響について検討した。
【方法】
対象は健常者20名(男性17名,女性3名,年齢20.1±1.1歳,身長169.6±9.1cm,体重62.6±11.7kg)と股関節屈曲可動域練習実施中の整形外科疾患患者女性8名(年齢71.6±15歳,身長151.1±9.9cm,体重49.9±9.1kg)である。健常者では,1日目繰り返しの可動域測定が,股関節屈曲可動域に与える影響について検証するため,股関節屈曲可動域の測定を,5分間の間隔をおいて繰り返した。2日目は,仰臥位にて右股関節の自動屈曲可動域を測定したのち,腹臥位において左股関節の自動伸展可動域を測定した。次いで,左股関節伸展の静的ストレッチを30秒間,2セット実施した。そして,左股関節の伸展と右股関節の屈曲可動域を再度計測した。患者群では,患側股関節屈曲可動域と健側の股関節伸展可動域を測定,同様の方法でストレッチを実施後,再度関節可動域の測定を実施した。関節可動域の測定では,自動運動による最終可動域で1名の検査者が大腿を固定し,股関節側方からデジタルカメラで撮影した。画像をPCに取り込み,Image Jを使用し可動域を計測した。測定値の比較にはウィルコクソン符号順位和検定を用い,危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】
対象者には本研究の目的と内容について十分に説明をし,同意を得た後に測定を実施した。
【結果】
1日目の右股関節屈曲可動域は,1回目,2回目の順に109.3±9.4度,111.9±9.4度であり,有意差を認めなかった。2日目の屈曲可動域は,ストレッチ前,ストレッチ後の順に111.9±9.4度,117.6±8.7度であり,ストレッチ後において有意に可動域は増大した(p<0.05)。ストレッチ前後の左股関節自動伸展可動域は,15.3±4.0度から21.6±6.8度へ有意に増大した(p<0.05)。整形外科疾患患者における患側股関節屈曲可動域は,ストレッチ前98.4±12.1度,ストレッチ後103.6±12.5度であり,有意な可動域増加を認めた(p<0.01)。健側股関節自動伸展可動域は,ストレッチ前6.6±4.9度,ストレッチ後9.2±4.8度であり,有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
反対側股関節伸展可動域の増大が,屈曲可動域に与える影響について検討した。股関節伸展方向へのストレッチ後,伸展可動域は有意に増大し,同時に反対側股屈曲可動域も有意に増大した。股関節屈曲可動域測定の繰り返しが,屈曲可動域に与える影響は小さく,ストレッチ後の可動域改善は股関節伸展可動域の改善に起因するものと考えられた。関節可動域訓練によって股関節屈曲可動域の増大が期待できない症例では,反対側股関節の伸展可動域の増大が屈曲可動域の改善に寄与するかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
股関節屈曲可動域の増大が期待できない症例や痛みなどによって患側股関節屈曲方向への運動が難しい症例などに対する関節可動域訓練として有益な方法となるかもしれない。
股関節屈曲可動域の不足は和式生活におけるしゃがみこみ動作や胡座,靴下の着脱や爪切りなどの動作を困難にさせる。このため,一定以上の屈曲可動域の再獲得は理学療法の重要な目的となる。しかし,人工股関節置換術後や変形性股関節症による可動域の低下ではトレーナビリティーが期待できない場合が少なくない。股関節の屈曲可動域には臼蓋と大腿骨頭の間の運動だけでなく,骨盤・腰椎の後傾・後弯運動が寄与することが知られている。これらの運動は反対側下肢から見ると股関節伸展運動によって実現される。よって,一足の股関節が伸展状態にある際の股関節屈曲可動域には反対側股関節の伸展可動域が影響を与える可能性がある。本研究では,反対側伸展可動域の変化が仰臥位における股関節屈曲可動域に与える影響について検討した。
【方法】
対象は健常者20名(男性17名,女性3名,年齢20.1±1.1歳,身長169.6±9.1cm,体重62.6±11.7kg)と股関節屈曲可動域練習実施中の整形外科疾患患者女性8名(年齢71.6±15歳,身長151.1±9.9cm,体重49.9±9.1kg)である。健常者では,1日目繰り返しの可動域測定が,股関節屈曲可動域に与える影響について検証するため,股関節屈曲可動域の測定を,5分間の間隔をおいて繰り返した。2日目は,仰臥位にて右股関節の自動屈曲可動域を測定したのち,腹臥位において左股関節の自動伸展可動域を測定した。次いで,左股関節伸展の静的ストレッチを30秒間,2セット実施した。そして,左股関節の伸展と右股関節の屈曲可動域を再度計測した。患者群では,患側股関節屈曲可動域と健側の股関節伸展可動域を測定,同様の方法でストレッチを実施後,再度関節可動域の測定を実施した。関節可動域の測定では,自動運動による最終可動域で1名の検査者が大腿を固定し,股関節側方からデジタルカメラで撮影した。画像をPCに取り込み,Image Jを使用し可動域を計測した。測定値の比較にはウィルコクソン符号順位和検定を用い,危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】
対象者には本研究の目的と内容について十分に説明をし,同意を得た後に測定を実施した。
【結果】
1日目の右股関節屈曲可動域は,1回目,2回目の順に109.3±9.4度,111.9±9.4度であり,有意差を認めなかった。2日目の屈曲可動域は,ストレッチ前,ストレッチ後の順に111.9±9.4度,117.6±8.7度であり,ストレッチ後において有意に可動域は増大した(p<0.05)。ストレッチ前後の左股関節自動伸展可動域は,15.3±4.0度から21.6±6.8度へ有意に増大した(p<0.05)。整形外科疾患患者における患側股関節屈曲可動域は,ストレッチ前98.4±12.1度,ストレッチ後103.6±12.5度であり,有意な可動域増加を認めた(p<0.01)。健側股関節自動伸展可動域は,ストレッチ前6.6±4.9度,ストレッチ後9.2±4.8度であり,有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
反対側股関節伸展可動域の増大が,屈曲可動域に与える影響について検討した。股関節伸展方向へのストレッチ後,伸展可動域は有意に増大し,同時に反対側股屈曲可動域も有意に増大した。股関節屈曲可動域測定の繰り返しが,屈曲可動域に与える影響は小さく,ストレッチ後の可動域改善は股関節伸展可動域の改善に起因するものと考えられた。関節可動域訓練によって股関節屈曲可動域の増大が期待できない症例では,反対側股関節の伸展可動域の増大が屈曲可動域の改善に寄与するかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
股関節屈曲可動域の増大が期待できない症例や痛みなどによって患側股関節屈曲方向への運動が難しい症例などに対する関節可動域訓練として有益な方法となるかもしれない。