第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 基礎理学療法 セレクション

運動制御・運動学習

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 5:05 PM 第3会場 (3F 301)

座長:坂本年将(神戸学院大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻), 金子文成(北海道公立大学法人札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0395] 運動イメージが脊髄抑制性介在ニューロンに与える影響

山口智史1,2, 藤原俊之1, 田辺茂雄3, 里宇明元1 (1.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室, 2.東京湾岸リハビリテーション病院, 3.藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科)

Keywords:H反射, 相反性抑制, シナプス前抑制

【はじめに,目的】
運動イメージ(Motor imagery:MI)は,実際の運動と類似した中枢神経系賦活を起こすことが知られており,中枢神経疾患のリハビリテーションとしての有効性が報告されている(Langhorne et al., 2011)。脊髄におけるIa抑制性介在ニューロンは,主動作筋と拮抗筋の運動を調整しているため重要である。この抑制性介在ニューロンは,動作筋からのIa線維を介して抑制されるが,皮質運動野など上位中枢から修飾を受ける。そのため,皮質興奮性を高めるMIにより抑制が修飾される可能性があるが,MIが脊髄抑制性介在ニューロンに与える効果は検討されていない。MIによる脊髄抑制性介在ニューロンへの影響を検討することは,MIの効果メカニズムの解明や新しい治療手法への応用を可能にすると考えられる。本研究では,MIがIa抑制性介在ニューロンに与える影響を検討した。
【方法】
対象は健常者10名(年齢25.3±4.1歳,男女5名)。実験条件は(1)安静条件,(2)足関節背屈のMI課題を実施する条件(背屈イメージ条件),(3)5%最大随意収縮による背屈運動を実施する条件(5%背屈条件),(4)足関節底屈のMI課題を実施する条件(底屈イメージ条件),(5)5%最大随意収縮による底屈運動を実施する条件(5%底屈条件)を行い,それぞれの条件で前脛骨筋からヒラメ筋への抑制性介在ニューロンによる抑制量の違いを比較した。実験条件はランダムに実施した。
MI課題は,右足関節の背屈運動および底屈運動とし,足底が接地した状態から2秒間で最大角度となるイメージを行った。対象者の正面のモニタ上に課題ビデオを提示し,ビデオの動きに合わせてイメージするよう教示した。なお,H反射誘発のための試験刺激前100msのRMS値を算出し,イメージ中に前脛骨筋とヒラメ筋の筋活動が起こっていないことを確認した。評価は,ヒラメ筋H反射を用いた条件-試験刺激法により,相反性抑制(RI)とシナプス前抑制(D1)を測定した。試験刺激は右脛骨神経へ行い,刺激強度はM波最大振幅の15~20%の振幅のH波を誘発する強度とした。条件刺激は腓骨頭下部で総腓骨神経を刺激し,強度は前脛骨筋のM波閾値とした。条件-試験刺激間隔(ISI)は2および20msとした。
解析は,試験刺激によって得られるH反射振幅に対する条件刺激を与えたH波振幅の減少率によりISIが2msをRI,20msをD1の抑制量の強さ(%)とした。また実験終了直後に,イメージ能力の指標として,vividness of movement imagery questionnaire-2(VMIQ-2)を調査した。統計解析は反復測定分散分析後に,多重比較検定としてBonferroni補正した対応のあるt検定を用いた。また安静条件からMI条件の差を算出し,MIによる抑制量の変化とイメージ能力との相間関係について,Pearson積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設における倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
RIの抑制量(%)は安静,背屈イメージ,5%背屈,底屈イメージ,5%底屈の順に,18.4±10.4,39.2±12.2,36.5±11.8,12.8±11.5,2.84±9.8であった。D1の抑制量は,22.8±9.9,24.0±13.2,24.1±9.0,10.8±16.2,13.5±9.7であった。
反復測定分散分析の結果,RI【F(4,36)=34.09,p<0.001】およびD1【F(4,36)=3.66,p=0.03】において主効果を認めた。多重比較検定の結果,RIにおいては,安静時と比較して,背屈イメージ(p=0.007)および5%背屈(p=0.003)において有意にRI増大を認めた。また安静時と比較して,5%底屈運動(p<0.001)において有意にRIが減少した。背屈イメージと5%背屈運動,および底屈イメージと5%底屈運動においては,有意差を認めなかった。D2においては,すべての課題で有意差を認めなかった(p>0.05)。背屈イメージ条件でのRI抑制量の変化とVMIQ-2のkinesthetic imagery項目との間に有意な負の相関関係を認めた(r=-0.65,p=0.043)。
【考察】
MIはRIによる拮抗筋への抑制を増強し,この抑制量の変化には,イメージ能力が関与していることが示唆された。RIは,運動皮質からの投射を受けていることが知られている。MIは,運動皮質の興奮性を高めることから,MIがRIの抑制に修飾したと考えられる。また健常者によるMI中の皮質興奮性の変化には,イメージ能力が関係することが報告されており(Williams et al.,2012),MIによるRI抑制量の変化においても個々のイメージ能力の違いが影響すると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
MIが脊髄相反性抑制を修飾し,その抑制量の変化にはイメージ能力が影響することを初めて明らかにした。これは中枢神経疾患に対する理学療法介入ならびに新しい治療手法の開発などに示唆を与える点で意義がある。