第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 セレクション » 基礎理学療法 セレクション

運動制御・運動学習

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 5:05 PM 第3会場 (3F 301)

座長:坂本年将(神戸学院大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻), 金子文成(北海道公立大学法人札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0396] 運動の制御性と学習が疼痛抑制効果に及ぼす影響

前野友希1, 鵜飼正紀1, 上銘崚太1, 城由起子2, 松下由佳3, 松原貴子1 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部, 3.秋田病院リハビリテーション科)

Keywords:疼痛抑制, 運動制御, 運動学習

【はじめに,目的】慢性痛有訴者に対する疼痛マネジメントとして,運動は疼痛および機能障害の改善効果を有するとのエビデンスが示されており,各国のガイドラインにおいて推奨されている(Balague 2012,Koes 2010,Hayden 2005)。この運動による疼痛抑制メカニズムとして,運動野や運動前野の活動が前頭前野,前帯状回などの疼痛関連脳領域を介して中枢性疼痛抑制系を作動させる可能性が示唆されている(Ahmed 2011,Villemure 2009)。一方,疼痛制御に関与する前頭前野は,注意や集中を要するような運動の学習初期過程で活動が増大し,学習により運動が自動化され注意・集中の必要性が減じるとその活動も減弱するといわれている(Sakai 1998)。これらのことから,自動化された単純な運動よりも注意・集中を要するような高い制御性が求められる運動の方が疼痛抑制効果を得られやすい可能性が考えられる。さらに,同じ運動であっても学習過程により運動制御に対する注意・集中の必要性は異なることから,運動による疼痛抑制効果は運動学習の影響を受けることが推察される。しかし,このような運動の制御性や学習による疼痛制御系への影響については明らかでない。そこで本研究では,運動の制御性と学習に着目し,制御運動が疼痛抑制効果に及ぼす影響について検討した。
【方法】対象は健常若年者70名(男性35名,女性35名,年齢20.6±0.98,利き手:右)とし,木球を手掌面上で握り離す低制御運動群と反時計回りに回転させる高制御運動群に無作為に分類した。両群ともに運動は座位,開眼にて右手で30秒間を1セットとし3セット(ex 1,2,3)行い,各セット間隔は5分間とした。測定項目は圧痛閾値(PPT),運動難易度,運動回数,脳波とした。PPTはデジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH社)を用い,運動前,各セット終了直後および5分後に非運動側の前腕外側で測定した。運動難易度はvisual analogue scale(VAS)にて各セット終了直後に聴取し,運動回数は各セットの木球把握回数または回転数をそれぞれ測定した。脳波はバイオフィードバック治療用の簡易脳波測定装置(Mindset,Neuro Sky社)を用い,前頭部脳波を実験中経時的に記録し,周波数解析にて算出した全周波数帯域のパワー値のうち,今回は注意・集中の指標としてθ波(3.50~6.75 Hz),精神的緊張の指標としてβ波(18.00~29.75 Hz)のパワー値を用い,運動前,各セット中および全セット終了5分後の各30秒間の平均値を測定値とした。統計学的解析は,群内比較にFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,群間比較にMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認(番号:12-16)を得た上で実施した。全対象者に対して本研究の主旨を十分に説明し,同意を得た。また実験に際しては,安全対策および個人情報保護に努めた。
【結果】PPTは低制御運動群では変化せず,高制御運動群でのみ運動前と比べex 1,2で有意な上昇を認め,低制御運動群と比べex 1~3で有意に高値を示した。また,高制御運動群でのみex 1と比べex 2,3で難易度が低下,回転数が増加し,ex 1~3すべてにおいて低制御運動群よりも難易度は高かった。脳波においても低制御運動群では変化せず,高制御運動群でのみθ波,β波ともに運動前と比べex 1で有意な増大を認め,低制御運動群と比べθ波はex 1,2で,β波はex 1で有意に高値を示した。
【考察】高い制御性を要する運動でのみ痛覚感受性は低下し,運動中のθ波,β波パワー値の増大を認めた。前頭部のθ波パワー値は注意や集中を伴う課題やワーキングメモリ作動時に増大し,β波パワー値は精神的緊張状態で増大するといわれている(Missonnier 2006,Marrufo 2001)。このことから,注意や集中を要し,適度な緊張感をともなうような運動が疼痛抑制に有効である可能性が示唆された。一方,運動の反復により難易度が低下し,運動回数が増加するとともに圧痛閾値は低下した。またこの際,運動中のθ波,β波パワー値も減衰したことから,運動学習により運動が自動化されることで注意・集中の程度が減少した結果,疼痛抑制効果が減弱したと考えられる。以上のことから,疼痛マネジメントを目的とした運動には,ある程度の難易度が必要であり,運動の学習過程に合わせて方法や難易度を変更する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】疼痛マネジメントとして運動が世界的に推奨されている中,より疼痛抑制効果が得られる運動方法を示した点で本研究は非常に意義深い。さらに運動の学習が疼痛抑制効果を減弱させる可能性を見出したことは,臨床における運動プログラム設定の一助になるものと考える。