第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学,運動生理学

2014年5月30日(金) 15:20 〜 17:05 第4会場 (3F 302)

座長:中山彰博(帝京科学大学医療科学部理学療法学科), 磯貝香(常葉大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0397] 急性期心疾患患者の歩行自立度判定に30秒椅子立ち上がりテストは有効か?

佐藤憲明1, 高永康弘1, 椛島寛子1, 星木宏之1, 折口秀樹2 (1.九州厚生年金病院リハビリテーション室, 2.九州厚生年金病院内科)

キーワード:心疾患, 歩行自立度判定, 30秒椅子立ち上がりテスト 

【目的】心疾患に罹患した入院患者は年々高齢者の割合が増加してきており,それに伴って転倒リスクも高まっている。心疾患患者は抗凝固薬や抗血小板薬を服薬していることが多く,転倒すれば重大な事故に繋がる恐れがある。そのため日々変化する急性期患者の歩行状態を把握することは臨床上非常に重要であり,中でも監視から自立へと介助度を変更する時は客観的な評価が必須である。一般的には,下肢筋力,Functional Reach Test(FR),Timed Up & Go test(TUG),片脚立位時間などが,歩行自立度や転倒リスクの判定に臨床上よく用いられている。しかしながら,下肢筋力の測定には筋力測定機器を使用するため手間がかかり,FRやTUGはベッドサイドでは実施しにくいのが実情である。そこで本研究では,特別な機器を使用せず,時間や場所もとらない30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)に着目し,その規定因子を調査するとともに急性期心疾患患者の歩行自立度判定に有効か検討した。
【方法】対象は,平成24年1月~平成25年11月までに当院に入院した心疾患患者55例(男性36例,女性19例,平均年齢71.0±5.4歳)。歩行に支障を来すような運動器疾患や認知症のある患者および循環動態が不安定な患者は除外した。この対象者55例を,病棟内を独歩で自立できている歩行自立群38例(男性29例,女性9例,平均年齢69.7±10.6歳)と歩行補助具や監視が必要な歩行非自立群17例(男性7例,女性10例,平均年齢73.9±12.2歳)の2群に分類した。尚,全例入院前の歩行状態は屋外独歩自立であった。身体機能の測定はCS-30,等尺性膝伸展筋力,FR,TUG,片脚立位時間,通常歩行速度の6項目を実施。6項目の2群間の比較はMann-WhitneyのU検定を用いた。CS-30の規定因子を調べるためCS-30を従属変数,CS-30と有意な相関関係を認めた項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。相関関係はSpearmanの順位相関係数を用い,多重共線性を考慮するために各項目間の相関関係についても検証した。また,歩行自立のCS-30カットオフ値はReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線より求めた。統計処理はSPSS version21を使用し,有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全ての対象者に目的を説明し,全員同意が得られた後に実施した。
【結果】2群間の比較では,歩行自立群の方がTUGは有意に低値を示し,その他の項目は全て高値を示した(p<0.001)。CS-30との相関関係は,等尺性膝伸展筋力(r=0.704 p<0.001),TUG(r=-0.808 p<0.001),FR(r=0.670 p<0.001),片脚立位時間(r=0.699 p<0.001),通常歩行速度(r=0.621 p<0.001)と5項目全てと有意な相関関係を認めた。またCS-30以外の各項目間の相関係数は全て絶対値0.8以下であった。5項目を独立変数とした重回帰分析の結果,CS-30の規定因子は,TUG,等尺性膝伸展筋力の2変数が抽出され,重回帰式CS-30=12.242-0.809×TUG+13.558×等尺性膝伸展筋力が得られた。この式の決定係数は0.751,自由度調整済み決定係数は0.742であった。また,標準偏回帰係数はTUGが-0.568,等尺性膝伸展筋力が0.407であった。CS-30の歩行自立のカットオフ値は11.5回でROC曲線の曲線下面積は0.945であった。このカットオフ値での歩行自立予測は,感度84.2%,特異度88.2%,陽性的中率94.1%,陰性的中率71.4%であった。
【考察】CS-30は簡便な下肢筋力評価として開発されたものであるが,今回の調査で下肢筋力だけでなくTUGが影響度の大きい規定因子であることが分かった。TUGは歩行能力,動的バランス,敏捷性などを総合した機能的移動能力の評価であり,これに下肢筋力も加わったCS-30は総合的な身体機能評価と言える。これが筋力やバランスを規定因子とする歩行自立度を精度よく判定できた要因であると考えた。これまでCS-30に関しては,地域在住の高齢者を対象にした調査で転倒予測のカットオフ値が14.5回であったとの報告があるが,今回得られた歩行自立のカットオフ値11.5回はそれより少ない結果となった。これは病棟内歩行を自立するために必要な基準は,屋外を安定して歩行する基準より低いことによるものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】歩行自立度の評価が簡便にベッドサイドで可能で,且つ高い精度で判定できるCS-30は,歩行状態が日々変化する急性期患者の転倒予防に有効である。