[0398] 下腿周径の性差について
Keywords:下腿周径, ヒラメ筋, 底屈筋力
【はじめに,目的】
四肢周径は筋の太さの指標としてよく知られている。中でも下腿最大部周径は,下肢筋力のみならず,体型や栄養状態といった全身的な状態との関連も報告されており,虚弱高齢者の体型・体力やSarcopeniaを評価する指標として注目されている。しかし,Sarcopenic Obesityなど,筋量が選択的に減少することもあるため,体脂肪率の高い対象においては,四肢周径の解釈は注意が必要である。また,体組成には明確な性差があるため,男女の四肢周径は別に解釈すべきである。
本研究の目的は,2部位の下腿周径と筋機能の関係を男女別に比較することで,下腿周径の内容的な性差を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人69名(男性34名,女性35名,平均年齢21.4±1.8歳)とした。
基礎情報として年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index(BMI)を測定した。測定項目は下腿最大部周径,ヒラメ筋筋腹を皮膚直下に触れる高さの下腿周径(皮下ヒラメ筋部周径),膝屈曲位での等尺性底屈最大筋力とした。
身長と体重は一般的なアナログ身長計とヘルスメーターで測定した。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で除して算出した。
2つの周径と下腿長は,一般的な採寸用メジャーにて0.1cm単位で測定した。なお,測定の精度を上げるため,メジャーを用いた全ての測定に先立って皮膚にマーキングを行った。下腿最大部周径は,下腿外側から目視にて下腿最大部を決定し測定した。測定肢位は腓骨頭と外果を結ぶラインが床面と垂直になる肢位とした。同肢位で皮下ヒラメ筋部周径も測定した。皮下ヒラメ筋部周径の高さは,SENIAMが定める表面筋電計測時の電極貼付け位置とした。どちらの周径も,3回測定の平均を使用した。また,外果遠位端から周径測定高までの距離を測定した。
膝屈曲位での等尺性底屈最大筋力は等尺性筋力計(アニマ社製μTas F-1)にて測定した。対象を腹臥位とし,足底が床と平行になるよう,膝を約130度屈曲させ足関節を軽度背屈した姿勢を測定肢位とした。筋力計は母趾球のやや内側に設置し,専用の固定ベルトで大腿から回り込むように固定した。測定中に膝が伸展しないよう,腓腹部に台を設置し,対象に「測定中,台から下腿を離さないように」と指示をして,十分な練習を行った上で測定に臨んだ。測定は3回行い最大値を採択した。各測定間には1分間の休憩を設けた。
統計学的検討として,対応のないt検定にて測定値の男女差を比較した。また,2つの周径と他の測定値とのPearsonの相間係数を男女別に算出した。その後,2つの周径と有意な相間を認めた基本情報で調整した2つの周径と他の筋力との相間を男女別に検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画された。対象者の研究への参加に際して,事前に研究の目的や測定内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
対象のBMIは男性22.3±3.5kg/m2,女性22.6±3.6kg/m2であった。下腿最大部周径は男性37.2±3.1cm,女性37.3±3.2cmで,皮下ヒラメ筋部周径は男性31.6±3.3cm,女性30.8±3.7cmであった。底屈筋力は男性492±191N,女性282±134Nであった。性別,2つの周径とBMIには性差が認められなかった。
男性の底屈筋力は,下腿最大部周径と有意な正の相関関係にあった(r=0.48,p<0.01)が,皮下ヒラメ筋部周径との間には有意な相間を認めなかった。女性の底屈筋力は,下腿最大部周径との間には有意な相関を認めなかったが,皮下ヒラメ筋部周径と有意な負の相関関係にあった(r=-0.39,p<0.05)。BMIで調整後,女性の底屈筋力と皮下ヒラメ筋部周径との相間係数の有意性がなくなったが,男女ともに変数間の相関性に大きな変化は認められなかった。
【考察】
皮下脂肪に富む女性において,下腿最大部周径は必ずしも筋の状態を反映しないことが示唆された。筋と脂肪を平均的な状態から更に増加させることを想定した場合,筋よりも脂肪の方が少ない努力で増加させることができ,上限も大きいと考えられる。日常生活を送る上で必要十分な筋量を有する健常若年成人女性の下腿周径は,筋よりも脂肪の寄与が大きいと推察される。外見的には体組成が保たれていると思われる高齢者においても同様の傾向があるとすれば,サルコペニック・オベシティーなどにより一層の留意が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
下腿周径は,簡便で対象に負担をかけない身体計測値であり,基本動作能力が著しく低下していたり,下肢に重度の拘縮や変形を有していても測定が可能である。したがって下腿周径について検討を進めることは,寝たきり高齢者の全身状態スクリーニングにおいて有意義であると考える。
四肢周径は筋の太さの指標としてよく知られている。中でも下腿最大部周径は,下肢筋力のみならず,体型や栄養状態といった全身的な状態との関連も報告されており,虚弱高齢者の体型・体力やSarcopeniaを評価する指標として注目されている。しかし,Sarcopenic Obesityなど,筋量が選択的に減少することもあるため,体脂肪率の高い対象においては,四肢周径の解釈は注意が必要である。また,体組成には明確な性差があるため,男女の四肢周径は別に解釈すべきである。
本研究の目的は,2部位の下腿周径と筋機能の関係を男女別に比較することで,下腿周径の内容的な性差を検討することである。
【方法】
対象は,健常成人69名(男性34名,女性35名,平均年齢21.4±1.8歳)とした。
基礎情報として年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index(BMI)を測定した。測定項目は下腿最大部周径,ヒラメ筋筋腹を皮膚直下に触れる高さの下腿周径(皮下ヒラメ筋部周径),膝屈曲位での等尺性底屈最大筋力とした。
身長と体重は一般的なアナログ身長計とヘルスメーターで測定した。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で除して算出した。
2つの周径と下腿長は,一般的な採寸用メジャーにて0.1cm単位で測定した。なお,測定の精度を上げるため,メジャーを用いた全ての測定に先立って皮膚にマーキングを行った。下腿最大部周径は,下腿外側から目視にて下腿最大部を決定し測定した。測定肢位は腓骨頭と外果を結ぶラインが床面と垂直になる肢位とした。同肢位で皮下ヒラメ筋部周径も測定した。皮下ヒラメ筋部周径の高さは,SENIAMが定める表面筋電計測時の電極貼付け位置とした。どちらの周径も,3回測定の平均を使用した。また,外果遠位端から周径測定高までの距離を測定した。
膝屈曲位での等尺性底屈最大筋力は等尺性筋力計(アニマ社製μTas F-1)にて測定した。対象を腹臥位とし,足底が床と平行になるよう,膝を約130度屈曲させ足関節を軽度背屈した姿勢を測定肢位とした。筋力計は母趾球のやや内側に設置し,専用の固定ベルトで大腿から回り込むように固定した。測定中に膝が伸展しないよう,腓腹部に台を設置し,対象に「測定中,台から下腿を離さないように」と指示をして,十分な練習を行った上で測定に臨んだ。測定は3回行い最大値を採択した。各測定間には1分間の休憩を設けた。
統計学的検討として,対応のないt検定にて測定値の男女差を比較した。また,2つの周径と他の測定値とのPearsonの相間係数を男女別に算出した。その後,2つの周径と有意な相間を認めた基本情報で調整した2つの周径と他の筋力との相間を男女別に検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画された。対象者の研究への参加に際して,事前に研究の目的や測定内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
対象のBMIは男性22.3±3.5kg/m2,女性22.6±3.6kg/m2であった。下腿最大部周径は男性37.2±3.1cm,女性37.3±3.2cmで,皮下ヒラメ筋部周径は男性31.6±3.3cm,女性30.8±3.7cmであった。底屈筋力は男性492±191N,女性282±134Nであった。性別,2つの周径とBMIには性差が認められなかった。
男性の底屈筋力は,下腿最大部周径と有意な正の相関関係にあった(r=0.48,p<0.01)が,皮下ヒラメ筋部周径との間には有意な相間を認めなかった。女性の底屈筋力は,下腿最大部周径との間には有意な相関を認めなかったが,皮下ヒラメ筋部周径と有意な負の相関関係にあった(r=-0.39,p<0.05)。BMIで調整後,女性の底屈筋力と皮下ヒラメ筋部周径との相間係数の有意性がなくなったが,男女ともに変数間の相関性に大きな変化は認められなかった。
【考察】
皮下脂肪に富む女性において,下腿最大部周径は必ずしも筋の状態を反映しないことが示唆された。筋と脂肪を平均的な状態から更に増加させることを想定した場合,筋よりも脂肪の方が少ない努力で増加させることができ,上限も大きいと考えられる。日常生活を送る上で必要十分な筋量を有する健常若年成人女性の下腿周径は,筋よりも脂肪の寄与が大きいと推察される。外見的には体組成が保たれていると思われる高齢者においても同様の傾向があるとすれば,サルコペニック・オベシティーなどにより一層の留意が必要であろう。
【理学療法学研究としての意義】
下腿周径は,簡便で対象に負担をかけない身体計測値であり,基本動作能力が著しく低下していたり,下肢に重度の拘縮や変形を有していても測定が可能である。したがって下腿周径について検討を進めることは,寝たきり高齢者の全身状態スクリーニングにおいて有意義であると考える。