[0399] 最大歩行速度(1.0m/sec以上)を予測するための要因の検討
Keywords:高齢患者, 最大歩行速度, 歩行能力
【はじめに,目的】
わが国の横断歩道は,青信号点灯時間が最も短い場合,道路の横断には1.0m/sec以上の歩行速度が必要である。そのため,1.0m/sec以上の歩行速度を有することが実用的な歩行速度とされている。しかし,歩行速度の計測には,4m以上の計測区間が必要であるため,病棟や在宅での理学療法施行時に計測のためのスペースを確保する事は容易ではない。
先行研究において我々は,Four Square Step Testを簡易化したTwo Square Step Test(TSST)を開発し,その再現性,およびADLとの関連について報告した(小山ら,2013)。TSSTは2m四方のスペースがあれば測定可能であり,病棟や在宅の環境でも適応できる特徴を持つ。
以上より,TSSTなど,病棟や在宅でも実施可能な評価指標を用いて,実用的な最大歩行速度の有無を予測できれば,理学療法施行にあたり有用な情報の一助になるものと考えられた。
本研究の目的は,病棟や在宅でも実施可能な評価指標を用いて,歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かの予測式を算出することである。
【方法】
対象は,当病院に入院し,理学療法を施行した10m以上の連続歩行が可能な65歳以上の高齢患者114例である。除外基準は,不良な心血管反応が運動の制限因子になっている例,片麻痺や荷重関節痛などの運動器疾患を有する例,認知症を有する例である。
測定項目は,10m最大歩行速度,下肢筋力,およびバランス能力である。最大歩行速度は10m歩行時の最大歩行速度[m/seとし,1.0 m/sec以上の対象者を1.0以上群,1.0 m/sec未満の対象者を未満群の2群に選別した。下肢筋力の指標に,等尺性膝伸展筋力を用い,左右の平均値を体重で除した値を膝伸展筋力[kgf/kg]とした。バランス能力の指標には,TSST,前方リーチ距離[cm],片脚立位時間(OLS)[seを採用した。TSSTの測定方法について以下に記す。検者は,床に角材(長さ90 cm,2.5×2.5 cm)を置き2区画を作製した。被験者は,作製した2区画を前後,左右方向の2条件で各15秒間連続して出来るだけ速く反復ステップを行った。検者は,15秒間でのステップ回数と角材に接触した接触回数を測定し,前後ステップと左右ステップの合計回数から,接触回数を差し引いた回数をTSSTスコア[点]と定義した。なお,基本属性として,基礎疾患,年齢,性別,身長,Body Mass Index(BMI)を診療記録より後方視的に調査した。
統計学的解析には,SPSS12.0を用いた。1.0以上群と未満群の群間比較には,カイ二乗,対応のないt検定,U検定を用いた。また,ロジスティック解析を用いて,歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子を抽出し,抽出された因子を用いて,歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かの予測式を算出した。なお,統計学的判定の基準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当大学生命倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:第1967号)。また,ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究の主旨を説明し,同意を得た。
【結果】
全114例中,1.0以上群は69例(60%),未満群は45例(40%)であった。1.0以上群と未満群の群間比較では,年齢(p<0.04),性別(p<0.04),BMI(p<0.03),膝伸展筋力(p<0.01),TSST(p<0.01),前方リーチ距離(p<0.01),OLS(p<0.01)で有意差を認めた。歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子にはTSSTとOLSが抽出された。最大歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かを予測する式は,Model【+;1.0m/sec以上-;1.0m/sec未満】=(TSST×0.272)+(OLS×0.199)-10.931(判別的中率:86.0%)であった。
【考察】
最大歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子は,TSSTとOLSが抽出された。膝伸展筋力と前方リーチ距離は,歩行自立度に関連があると報告されていることから,今回の検討でも影響があると予測していた。しかし,本研究の対象群では,最大歩行速度とTSSTの関わりが強く,抽出されるには至らなかった。その理由は,膝伸展筋力と前方リーチ距離が,TSSTの介在変数として関わっていた可能性が考えられる。
本研究の結果から,最大歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かを予測する式が明らかとなった。予測に必要な因子は,TSSTとOLSであり,いずれも病棟や在宅で実施可能な評価指標であるため,歩行路が確保できなくとも,実用的な歩行速度の有無を予測することが可能と考えられた。
本研究の限界は,症例数が少なく,横断研究あるため,実効果を明らかにできていない。また,あくまで予測値でるため予測式の使用には注意が必要と思われる。今後は,縦断的な介入研究が必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究においてける結果は,病棟や在宅での理学療法実施における問題点の抽出,治療プログラムの立案,効果判定,および目標設定の際の指導方策の一助になるものと考えられた
わが国の横断歩道は,青信号点灯時間が最も短い場合,道路の横断には1.0m/sec以上の歩行速度が必要である。そのため,1.0m/sec以上の歩行速度を有することが実用的な歩行速度とされている。しかし,歩行速度の計測には,4m以上の計測区間が必要であるため,病棟や在宅での理学療法施行時に計測のためのスペースを確保する事は容易ではない。
先行研究において我々は,Four Square Step Testを簡易化したTwo Square Step Test(TSST)を開発し,その再現性,およびADLとの関連について報告した(小山ら,2013)。TSSTは2m四方のスペースがあれば測定可能であり,病棟や在宅の環境でも適応できる特徴を持つ。
以上より,TSSTなど,病棟や在宅でも実施可能な評価指標を用いて,実用的な最大歩行速度の有無を予測できれば,理学療法施行にあたり有用な情報の一助になるものと考えられた。
本研究の目的は,病棟や在宅でも実施可能な評価指標を用いて,歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かの予測式を算出することである。
【方法】
対象は,当病院に入院し,理学療法を施行した10m以上の連続歩行が可能な65歳以上の高齢患者114例である。除外基準は,不良な心血管反応が運動の制限因子になっている例,片麻痺や荷重関節痛などの運動器疾患を有する例,認知症を有する例である。
測定項目は,10m最大歩行速度,下肢筋力,およびバランス能力である。最大歩行速度は10m歩行時の最大歩行速度[m/seとし,1.0 m/sec以上の対象者を1.0以上群,1.0 m/sec未満の対象者を未満群の2群に選別した。下肢筋力の指標に,等尺性膝伸展筋力を用い,左右の平均値を体重で除した値を膝伸展筋力[kgf/kg]とした。バランス能力の指標には,TSST,前方リーチ距離[cm],片脚立位時間(OLS)[seを採用した。TSSTの測定方法について以下に記す。検者は,床に角材(長さ90 cm,2.5×2.5 cm)を置き2区画を作製した。被験者は,作製した2区画を前後,左右方向の2条件で各15秒間連続して出来るだけ速く反復ステップを行った。検者は,15秒間でのステップ回数と角材に接触した接触回数を測定し,前後ステップと左右ステップの合計回数から,接触回数を差し引いた回数をTSSTスコア[点]と定義した。なお,基本属性として,基礎疾患,年齢,性別,身長,Body Mass Index(BMI)を診療記録より後方視的に調査した。
統計学的解析には,SPSS12.0を用いた。1.0以上群と未満群の群間比較には,カイ二乗,対応のないt検定,U検定を用いた。また,ロジスティック解析を用いて,歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子を抽出し,抽出された因子を用いて,歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かの予測式を算出した。なお,統計学的判定の基準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当大学生命倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:第1967号)。また,ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究の主旨を説明し,同意を得た。
【結果】
全114例中,1.0以上群は69例(60%),未満群は45例(40%)であった。1.0以上群と未満群の群間比較では,年齢(p<0.04),性別(p<0.04),BMI(p<0.03),膝伸展筋力(p<0.01),TSST(p<0.01),前方リーチ距離(p<0.01),OLS(p<0.01)で有意差を認めた。歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子にはTSSTとOLSが抽出された。最大歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かを予測する式は,Model【+;1.0m/sec以上-;1.0m/sec未満】=(TSST×0.272)+(OLS×0.199)-10.931(判別的中率:86.0%)であった。
【考察】
最大歩行速度1.0m/sec以上の有無に影響を及ぼす因子は,TSSTとOLSが抽出された。膝伸展筋力と前方リーチ距離は,歩行自立度に関連があると報告されていることから,今回の検討でも影響があると予測していた。しかし,本研究の対象群では,最大歩行速度とTSSTの関わりが強く,抽出されるには至らなかった。その理由は,膝伸展筋力と前方リーチ距離が,TSSTの介在変数として関わっていた可能性が考えられる。
本研究の結果から,最大歩行速度1.0m/sec以上を有するか否かを予測する式が明らかとなった。予測に必要な因子は,TSSTとOLSであり,いずれも病棟や在宅で実施可能な評価指標であるため,歩行路が確保できなくとも,実用的な歩行速度の有無を予測することが可能と考えられた。
本研究の限界は,症例数が少なく,横断研究あるため,実効果を明らかにできていない。また,あくまで予測値でるため予測式の使用には注意が必要と思われる。今後は,縦断的な介入研究が必要と思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究においてける結果は,病棟や在宅での理学療法実施における問題点の抽出,治療プログラムの立案,効果判定,および目標設定の際の指導方策の一助になるものと考えられた