[0400] 3D-CTを用いたポイントクラスター法の誤差検証
キーワード:三次元動作解析, 体表マーカー, 誤差
【はじめに,目的】
体表マーカーによる関節キネマティクスの計測は,非侵襲的に自然な運動を計測することが可能であり近年広く用いられている。しかし本手法は体表すなわち皮膚上にマーカーを設置し,その位置情報を基に骨運動や関節キネマティクスを推定するため計測誤差の問題が指摘されている。体表マーカー計測において生じる計測誤差の主要因として,運動中に生じる皮膚のズレによる誤差とマーカー設置時に生じる体表からの骨ランドマークの同定誤差が挙げられる。骨ランドマークの同定誤差とは,骨に関節座標系を設定するために用いられるリファレンス・マーカーを体表から骨ランドマークを触診しながら設置する際に生じる誤差である。これに対してポイントクラスター法(PCT)は多数の体表マーカーの使用(クラスターマーカー)により計測中に生じる皮膚のズレを検出・補正し,精度を向上させる手法の一つであり近年注目されている。Alexanderらによると運動中の皮膚のズレによるPCTの計測誤差は最大に生じたものでも角度で約4°,並進移動で約3mmと報告されている。しかし体表からの骨ランドマークの同定誤差がPCTで算出される膝関節キネマティクスの結果に与える影響は不明である。本研究の目的は体表からの骨ランドマークの同定誤差がPCTによる膝関節キネマティクスの算出結果に与える影響を3D-CTを用いて明らかにすることである。
【方法】
健常15膝(男性7例,女性8例,年齢26.4±15.0歳,身長164.2±7.2cm,体重68.3±19.0kg)を対象とした。体表マーカーはポイントクラスター法に習熟した一人の検者が一定の手順に従って設置した。次に体表マーカーを貼付した状態で3D-CT(LightSpeed VCT,GE)を撮影した。3D-CTデータを用いて詳細な3次元骨モデルを作成し,骨ランドマークの3次元座標位置を取得した(INTAGE Realia)。その後,体表から同定した骨ランドマークに基づき従来通りのPCTにより定常歩行中の3次元動作解析を施行し,膝関節キネマティクス(屈伸,内外反,内外旋,前後並進,内外側並進,上下並進)を算出した(体表法)。次に3D-CTによる骨ランドマークの3次元座標位置を追加した以外は体表法と同様の方法で膝関節キネマティクスを算出した(3D-CT法)。なお膝関節キネマティクスは一歩行周期を100%として規格化した。体表法と3D-CT法によって算出された膝関節キネマティクスについて各々の波形パターンおよび歩行周期5%毎の数値を両群間で比較検討した。また一歩行周期全体で生じた差の平均値を算出した。統計検定は対応のあるt検定を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に準拠し実施された。また研究実施前に倫理委員会の承認を受け,全ての被験者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た。
【結果】
体表法と3D-CT法における一歩行周期全体で生じた差の平均値は屈曲,内外反,回旋,前後並進,内外側並進,上下並進にてそれぞれ平均1.0±0.9°,4.3±1.2°,2.9±1.1°,1.2±0.6mm,2.4±0.8mm,6.1±0.6mmであった。体表法では3D-CT法に比し,60%から90%以外の歩行周期にて有意に外反位であり(p=0.003~0.021),また歩行周期70%から80%を除く全周期において大腿骨が上方に有意に変位していた(p=0.009~0.039)。体表法と3D-CT法の比較において波形パターンは全てのパラメーターで同様であった。
【考察】
本研究結果から従来の体表からの骨ランドマークの同定による変位基準点の決定はPCTによる膝関節キネマティクスに影響を与え,特に内外反および上下並進のパラメーターは留意を要することが明らかとなった。また,3D-CTによる骨ランドマークの3次元座標位置の追加によりPCTの精度向上が期待できると考えられた。体表法と3D-CT法の比較において全てのパラメーターで波形パターンが同様であったことから,体表法でも膝関節キネマティクスの定性評価は問題ないと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人の運動を治療対象とする理学療法において,自然な運動を計測し数値化できる体表マーカー計測は有用な手法である。その計測手法の特徴と限界を正しく把握することで,算出されたデータの正しい解釈が可能となる。本研究はポイントクラスター法において骨ランドマークの同定誤差が解析結果に与える影響を明らかにした初めての研究である。
体表マーカーによる関節キネマティクスの計測は,非侵襲的に自然な運動を計測することが可能であり近年広く用いられている。しかし本手法は体表すなわち皮膚上にマーカーを設置し,その位置情報を基に骨運動や関節キネマティクスを推定するため計測誤差の問題が指摘されている。体表マーカー計測において生じる計測誤差の主要因として,運動中に生じる皮膚のズレによる誤差とマーカー設置時に生じる体表からの骨ランドマークの同定誤差が挙げられる。骨ランドマークの同定誤差とは,骨に関節座標系を設定するために用いられるリファレンス・マーカーを体表から骨ランドマークを触診しながら設置する際に生じる誤差である。これに対してポイントクラスター法(PCT)は多数の体表マーカーの使用(クラスターマーカー)により計測中に生じる皮膚のズレを検出・補正し,精度を向上させる手法の一つであり近年注目されている。Alexanderらによると運動中の皮膚のズレによるPCTの計測誤差は最大に生じたものでも角度で約4°,並進移動で約3mmと報告されている。しかし体表からの骨ランドマークの同定誤差がPCTで算出される膝関節キネマティクスの結果に与える影響は不明である。本研究の目的は体表からの骨ランドマークの同定誤差がPCTによる膝関節キネマティクスの算出結果に与える影響を3D-CTを用いて明らかにすることである。
【方法】
健常15膝(男性7例,女性8例,年齢26.4±15.0歳,身長164.2±7.2cm,体重68.3±19.0kg)を対象とした。体表マーカーはポイントクラスター法に習熟した一人の検者が一定の手順に従って設置した。次に体表マーカーを貼付した状態で3D-CT(LightSpeed VCT,GE)を撮影した。3D-CTデータを用いて詳細な3次元骨モデルを作成し,骨ランドマークの3次元座標位置を取得した(INTAGE Realia)。その後,体表から同定した骨ランドマークに基づき従来通りのPCTにより定常歩行中の3次元動作解析を施行し,膝関節キネマティクス(屈伸,内外反,内外旋,前後並進,内外側並進,上下並進)を算出した(体表法)。次に3D-CTによる骨ランドマークの3次元座標位置を追加した以外は体表法と同様の方法で膝関節キネマティクスを算出した(3D-CT法)。なお膝関節キネマティクスは一歩行周期を100%として規格化した。体表法と3D-CT法によって算出された膝関節キネマティクスについて各々の波形パターンおよび歩行周期5%毎の数値を両群間で比較検討した。また一歩行周期全体で生じた差の平均値を算出した。統計検定は対応のあるt検定を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に準拠し実施された。また研究実施前に倫理委員会の承認を受け,全ての被験者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た。
【結果】
体表法と3D-CT法における一歩行周期全体で生じた差の平均値は屈曲,内外反,回旋,前後並進,内外側並進,上下並進にてそれぞれ平均1.0±0.9°,4.3±1.2°,2.9±1.1°,1.2±0.6mm,2.4±0.8mm,6.1±0.6mmであった。体表法では3D-CT法に比し,60%から90%以外の歩行周期にて有意に外反位であり(p=0.003~0.021),また歩行周期70%から80%を除く全周期において大腿骨が上方に有意に変位していた(p=0.009~0.039)。体表法と3D-CT法の比較において波形パターンは全てのパラメーターで同様であった。
【考察】
本研究結果から従来の体表からの骨ランドマークの同定による変位基準点の決定はPCTによる膝関節キネマティクスに影響を与え,特に内外反および上下並進のパラメーターは留意を要することが明らかとなった。また,3D-CTによる骨ランドマークの3次元座標位置の追加によりPCTの精度向上が期待できると考えられた。体表法と3D-CT法の比較において全てのパラメーターで波形パターンが同様であったことから,体表法でも膝関節キネマティクスの定性評価は問題ないと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
人の運動を治療対象とする理学療法において,自然な運動を計測し数値化できる体表マーカー計測は有用な手法である。その計測手法の特徴と限界を正しく把握することで,算出されたデータの正しい解釈が可能となる。本研究はポイントクラスター法において骨ランドマークの同定誤差が解析結果に与える影響を明らかにした初めての研究である。