第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 基礎理学療法 セレクション

生体評価学,運動生理学

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 5:05 PM 第4会場 (3F 302)

座長:中山彰博(帝京科学大学医療科学部理学療法学科), 磯貝香(常葉大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0402] ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なスタティックストレッチングの時間の検討

中村雅俊1,2, 池添冬芽1, 梅垣雄心1, 西下智1, 小林拓也1, 田中浩基3, 藤田康介3, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.日本学術振興会特別研究員, 3.京都大学医学部人間健康学科理学療法学専攻)

Keywords:スタティックストレッチング, ハムストリングス, スティフネス

【はじめに,目的】
スタティックストレッチング(SS)は筋の柔軟性の改善を目的として広く用いられている。SSが筋の柔軟性に与える影響については,関節可動域(ROM)を指標として検討されることが多い。しかし,ROMは対象者の痛みに対する慣れなどの影響があるため,近年では関節を他動的に動かした時に生じる受動トルクあるいは受動的トルクと関節角度との関係(角度―トルク曲線)から求めた筋腱複合体(MTU)全体のスティフネスを柔軟性の指標として用いることが推奨されている。
我々は腓腹筋MTUを対象にSSが受動トルクに及ぼす影響を経時的に検討し,腓腹筋の柔軟性を増加させるには最低2分間以上のSS時間が必要であることを報告した(Man Ther, 2013)。しかし,筋の柔軟性を増加させるために必要なSS時間については対象筋によって異なる可能性が考えられる。そこで本研究は臨床においてSSを行う機会が多いハムストリングスを対象筋とし,5分間のSSがハムストリングスMTUに及ぼす影響を経時的に検討し,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性15名(平均年齢23.4±2.2歳,股関節90°屈曲位での膝最大伸展角度-33.4±6.1,最大膝伸展時の受動的トルク40.6±11.4Nm)の利き脚(ボールを蹴る)側のハムストリングスとした。
スティフネスの評価は等速性筋力測定装置(Biodex社製Biodex system 4.0)を用い,背臥位にて骨盤を軽度前傾位に固定した状態で,股・膝関節90°屈曲位から痛みが生じる直前まで角速度5°/秒で他動的に膝関節を伸展させた際に得られる膝屈曲方向に生じる受動トルクの計測を行った。この受動トルクと膝関節角度との角度―トルク曲線を求め,先行研究に従って最終10%の角度範囲の傾きをスティフネス(Nm/°)と定義した。
SSは等速性筋力測定装置を用い,スティフネスの測定と同様に股関節90°屈曲位で膝関節を伸展していき,痛みが生じる直前の膝関節角度で1分×5回(計5分間)のSSを行った。SS開始前(SS前)とSS開始後1分毎にスティフネスの評価を行った。なお,SS開始後のスティフネスの評価,すなわち最終10%の角度範囲での角度―トルク曲線の傾きの算出については,SS前と同様の角度範囲を用いた。
統計学的処理は,SS前とSS後1分毎のスティフネスについて,一元配置分散分析とScheffe法における多重比較検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。なお,結果は全て平均±標準誤差で示した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て(承認番号E-1877),文書および口頭にて研究の目的・主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした。
【結果】
ハムストリングスのスティフネスはSS前:1.23±0.24Nm/°,SS後1分:1.14±0.17Nm/°,SS後2分:1.08±0.16Nm/°,SS後3分:0.90±0.18Nm/°,SS後4分:0.83±0.16Nm/°,SS後5分:0.74±0.11Nm/°であった。一元配置分散分析の結果,スティフネスに有意な変化が認められ,多重比較の結果,SS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示した。さらに1分目と比較して4,5分目,2分目と比較して5分目で有意に低値を示した。
【考察】
本研究の結果,スティフネスはSS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示したことから,SS開始後3分目以降でハムストリングの柔軟性向上効果が得られることが示された。我々は腓腹筋の柔軟性を増加させるためには最低2分間のSSが必要であることを報告しており,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間と乖離がある。その要因としては,筋の断面積の違いと耐えうる最大の受動的トルク,つまりSS強度に違いがあることが関連していると考えられる。筋の断面積ではハムストリングスの方が腓腹筋よりも大きく,SS強度に関しては腓腹筋の方がハムストリングスよりも強かった(腓腹筋:49.4±12.4Nm,ハムストリングス:40.6±11.4Nm)。これらの結果より,ハムストリングスは腓腹筋よりも断面積が大きく,弱い強度でのSSしか行えなかったため,柔軟性を増加させるためには腓腹筋よりも長い時間である3分間のSS時間が必要になった可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法分野においてSS介入を行うことが多いハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間を検討した結果,最低3分のSS時間が必要であることが示唆された。