[0406] 肺がん患者に対する胸腔鏡下肺葉切除術(VATS)後の身体機能および精神心理機能の変化に関する検証
Keywords:VATS, 周術期呼吸理学療法, 前向きコホート研究
【はじめに,目的】現在,我が国における死亡原因の第1位は「がん」であり,疾病対策上の最重要課題として対策が進み,周術期呼吸理学療法の重要性も高まっている。当院では呼吸器外科で肺がんと診断され胸腔鏡下手術(以下,Video-assisted thoracic surgery:VATS)が施行された患者に対し,周術期呼吸理学療法を実施している。そこで本研究の目的は,術前の身体機能,精神心理機能が,退院時にどのように変化しているか検討し,VATS施行患者の術後経過を検証することとした。
【方法】本研究デザインは前向きコホート研究とし,調査期間は平成23年5月から平成23年11月とした。研究参加者は,当院呼吸器外科でVATSが施行され,周術期呼吸理療法を実施した13名(男性9名,女性4名)であった。研究参加者の特性は,平均年齢71.2±5.0歳,平均BMI 22.3±3.0,平均予測比肺活量93.9±18.1%,平均1秒率74.1±8.2%であった。調査は術前,退院前の2時期とした。呼吸理学療法は,術前オリエンテーションから介入し,術後1病日目より早期離床を行い,インセンティブ・スパイロメトリーと運動療法を実施した。
測定指標は,コーチ2の最大吸気量,呼吸筋力として予測比最大呼気口腔内圧(%MEP),予測比最大吸気口腔内圧(%MIP),筋力として握力,体重比膝伸展筋力,歩行能力としてTimed up and go test(TUG)の所要時間,運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),がんによる倦怠感評価としてCancer fatigue scale(CFS),精神心理機能評価としてHospital anxiety depression scale(HADS),健康関連QOL評価としてShort-form 8 items health survey(SF-8)を測定した。統計学的分析は,各測定項目の術前と術後の比較を対応のあるt検定とWilcoxon順位和検定を用い検討した。なお,これらの検定に先立って,データが正規分布に従うかShapiro-wilk検定で確認した。すべての検定における帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。統計解析ソフトにはSPSS ver.19を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】研究参加者に研究の趣旨,方法,同意の撤回などについて文書と口頭で説明を行い,同意を得た。なお,本研究は,当院研究倫理委員会にて研究の倫理性に関する審査,承認を得て実施した。
【結果】平均在院日数は,9.1±3.9日であった。術後に有意差を認めた測定項目は,コーチ2の最大吸気量が1758.3 mlから1120.8 mlに減少(p=0.008),TUGが5.5秒から6.1秒へと所要時間が延長(p<0.001),6MWDが517.8 mから459.4 mに減少(p=0.004),6MWT時の疼痛(Visual analog scale)が0から2.6へと増加(p=0.008)した。一方,%MEP(p=0.089),%MIP(p=0.456),握力(p=0.089),体重比膝伸展筋力(p=0.090),CFS(p=0.487),HADS-anxiety(p=0.128),HADS-depression(p=0.774),SF-8 physical component summary(p=0.254),SF-8 mental component summary(p=0.929)については有意な変化は認められず,基準値より低値のままであった。
【考察】本研究は,VATS後の身体機能および精神心理機能の変化を前向きに検証した結果,TUGの所要時間の延長,6MWDの有意な減少が認められた。VATSは低侵襲であるため,早期離床が容易に可能であるが,歩行時における疼痛や呼吸機能の低下が原因で,それらの能力が低下したものと考えられる。その一方,術後1週間程度では,倦怠感や不安などの精神心理機能面や健康関連QOLの改善には至っていない。これらの変化については,期間を延長した時点での評価測定が必要になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,VATS後の身体機能や精神心理機能,健康関連QOLなどを前向きに検討した研究である。我々は限られた在院日数と多忙な診療の中で,いかに有効な周術期理学療法を提供することができるかが課題であり,本研究はその足掛かりとなる可能性を示唆した。
【方法】本研究デザインは前向きコホート研究とし,調査期間は平成23年5月から平成23年11月とした。研究参加者は,当院呼吸器外科でVATSが施行され,周術期呼吸理療法を実施した13名(男性9名,女性4名)であった。研究参加者の特性は,平均年齢71.2±5.0歳,平均BMI 22.3±3.0,平均予測比肺活量93.9±18.1%,平均1秒率74.1±8.2%であった。調査は術前,退院前の2時期とした。呼吸理学療法は,術前オリエンテーションから介入し,術後1病日目より早期離床を行い,インセンティブ・スパイロメトリーと運動療法を実施した。
測定指標は,コーチ2の最大吸気量,呼吸筋力として予測比最大呼気口腔内圧(%MEP),予測比最大吸気口腔内圧(%MIP),筋力として握力,体重比膝伸展筋力,歩行能力としてTimed up and go test(TUG)の所要時間,運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),がんによる倦怠感評価としてCancer fatigue scale(CFS),精神心理機能評価としてHospital anxiety depression scale(HADS),健康関連QOL評価としてShort-form 8 items health survey(SF-8)を測定した。統計学的分析は,各測定項目の術前と術後の比較を対応のあるt検定とWilcoxon順位和検定を用い検討した。なお,これらの検定に先立って,データが正規分布に従うかShapiro-wilk検定で確認した。すべての検定における帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。統計解析ソフトにはSPSS ver.19を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】研究参加者に研究の趣旨,方法,同意の撤回などについて文書と口頭で説明を行い,同意を得た。なお,本研究は,当院研究倫理委員会にて研究の倫理性に関する審査,承認を得て実施した。
【結果】平均在院日数は,9.1±3.9日であった。術後に有意差を認めた測定項目は,コーチ2の最大吸気量が1758.3 mlから1120.8 mlに減少(p=0.008),TUGが5.5秒から6.1秒へと所要時間が延長(p<0.001),6MWDが517.8 mから459.4 mに減少(p=0.004),6MWT時の疼痛(Visual analog scale)が0から2.6へと増加(p=0.008)した。一方,%MEP(p=0.089),%MIP(p=0.456),握力(p=0.089),体重比膝伸展筋力(p=0.090),CFS(p=0.487),HADS-anxiety(p=0.128),HADS-depression(p=0.774),SF-8 physical component summary(p=0.254),SF-8 mental component summary(p=0.929)については有意な変化は認められず,基準値より低値のままであった。
【考察】本研究は,VATS後の身体機能および精神心理機能の変化を前向きに検証した結果,TUGの所要時間の延長,6MWDの有意な減少が認められた。VATSは低侵襲であるため,早期離床が容易に可能であるが,歩行時における疼痛や呼吸機能の低下が原因で,それらの能力が低下したものと考えられる。その一方,術後1週間程度では,倦怠感や不安などの精神心理機能面や健康関連QOLの改善には至っていない。これらの変化については,期間を延長した時点での評価測定が必要になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,VATS後の身体機能や精神心理機能,健康関連QOLなどを前向きに検討した研究である。我々は限られた在院日数と多忙な診療の中で,いかに有効な周術期理学療法を提供することができるかが課題であり,本研究はその足掛かりとなる可能性を示唆した。