[0407] 非小細胞肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術後のPerformance Status悪化の予測因子
Keywords:肺癌, 胸腔鏡下肺葉切除, Performance Status
【はじめに,目的】患者の全身状態(特に身体機能)を表すPerformance status(PS)は,非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)の予後因子や,術後補助化学療法の適応において重要な指標である。本研究の目的は,NSCLCに対する胸腔鏡下肺葉切除術(Thoracoscopic lobectomy:TL)の術後におけるPS悪化の予測因子と,PS悪化と術後アウトカムとの関連を明らかにすることである。
【方法】当院において2005年6月から2012年10月までにTLならびに呼吸リハビリテーションを受けたNSCLC患者(n=267,平均年齢69.1±10.6歳(21~90歳,中央値71歳))を対象とした。呼吸リハプログラムは,術前オリエンテーションから介入し,術後においては術後1病日(POD1)より病棟での早期離床を行い,POD2から退院前日までは,午前・午後と1日2セッション,理学療法室で運動療法を中心に行った。下肢筋力(体重比等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行試験:6MWT)は,手術前,POD2,POD7,退院時に測定した。対象を術後PS悪化(退院時PSが術前値から1以上悪化したもの)の有無により2群に分類し,単変量解析として人口統計学的因子,生理学的因子,腫瘍学的因子,手術・術後関連因子,そして下肢筋力および6MWTを2群間で比較した。連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用いた。多変量解析は術後PS悪化を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を用い,単変量解析でp<0.1となった因子を独立変数とした。変数選択にはp値によるステップワイズ法を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で呼吸リハを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。また当院の研究審査委員会の承認を得た。
【結果】術後PS悪化群は43名(16.1%),PS悪化なし群は224名(83.9%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,術後PS悪化の有意な独立変数は,POD2の6分間歩行距離(<200m)[odds ratio(OR),4.47;95% confidence interval(CI),1.81-11.1;p=0.0012]と,術前の下肢筋力(<40%BW)[OR,2.78;95% CI, 1.10-7.02;p=0.0308]であった。2群間における術後アウトカムの比較では,術後歩行獲得までの日数(p=0.138)を除き,術後心肺合併症発症率(p<0.001),自宅退院率(p=0.0116),術後在院日数(p<0.001)において,有意な差を認めた。
【考察】多変量解析の結果,退院時にPSが悪化する因子は,周術期の下肢筋力や運動耐容能が有意な予測因子であり,肺機能などの生理学的因子,腫瘍因子,手術関連因子ではないことが明らかとなった。また術後アウトカムにおいては,早期離床には有意差がないものの,退院時にPS悪化をきたすようなケースでは,術後における合併症,転帰,在院日数の面において劣っていることが判った。TL患者のPSを退院後も維持させることは,予後や術後補助化学療法導入の面で重要である。したがってTL患者に対する呼吸リハでは,周術期の身体機能評価によってPS悪化のハイリスク患者群を早期に同定し,術前の筋力強化,積極的な合併症予防,術後早期の運動耐容能回復を獲得することが,PSを維持させるために重要であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】肺切除術後の理学療法介入目的に,合併症の予防や早期離床獲得が含まれるのは,周知の通りであるが,今回は更に腫瘍学的な介入目的としてのPerformance Statusの維持を提唱した。本研究の結果,その予測因子が理学療法の対象となる周術期の身体機能であったことは,理学療法学研究としての意義を有すると考えられる。
【方法】当院において2005年6月から2012年10月までにTLならびに呼吸リハビリテーションを受けたNSCLC患者(n=267,平均年齢69.1±10.6歳(21~90歳,中央値71歳))を対象とした。呼吸リハプログラムは,術前オリエンテーションから介入し,術後においては術後1病日(POD1)より病棟での早期離床を行い,POD2から退院前日までは,午前・午後と1日2セッション,理学療法室で運動療法を中心に行った。下肢筋力(体重比等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行試験:6MWT)は,手術前,POD2,POD7,退院時に測定した。対象を術後PS悪化(退院時PSが術前値から1以上悪化したもの)の有無により2群に分類し,単変量解析として人口統計学的因子,生理学的因子,腫瘍学的因子,手術・術後関連因子,そして下肢筋力および6MWTを2群間で比較した。連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用いた。多変量解析は術後PS悪化を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を用い,単変量解析でp<0.1となった因子を独立変数とした。変数選択にはp値によるステップワイズ法を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で呼吸リハを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。また当院の研究審査委員会の承認を得た。
【結果】術後PS悪化群は43名(16.1%),PS悪化なし群は224名(83.9%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,術後PS悪化の有意な独立変数は,POD2の6分間歩行距離(<200m)[odds ratio(OR),4.47;95% confidence interval(CI),1.81-11.1;p=0.0012]と,術前の下肢筋力(<40%BW)[OR,2.78;95% CI, 1.10-7.02;p=0.0308]であった。2群間における術後アウトカムの比較では,術後歩行獲得までの日数(p=0.138)を除き,術後心肺合併症発症率(p<0.001),自宅退院率(p=0.0116),術後在院日数(p<0.001)において,有意な差を認めた。
【考察】多変量解析の結果,退院時にPSが悪化する因子は,周術期の下肢筋力や運動耐容能が有意な予測因子であり,肺機能などの生理学的因子,腫瘍因子,手術関連因子ではないことが明らかとなった。また術後アウトカムにおいては,早期離床には有意差がないものの,退院時にPS悪化をきたすようなケースでは,術後における合併症,転帰,在院日数の面において劣っていることが判った。TL患者のPSを退院後も維持させることは,予後や術後補助化学療法導入の面で重要である。したがってTL患者に対する呼吸リハでは,周術期の身体機能評価によってPS悪化のハイリスク患者群を早期に同定し,術前の筋力強化,積極的な合併症予防,術後早期の運動耐容能回復を獲得することが,PSを維持させるために重要であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】肺切除術後の理学療法介入目的に,合併症の予防や早期離床獲得が含まれるのは,周知の通りであるが,今回は更に腫瘍学的な介入目的としてのPerformance Statusの維持を提唱した。本研究の結果,その予測因子が理学療法の対象となる周術期の身体機能であったことは,理学療法学研究としての意義を有すると考えられる。