[0408] 高齢肺切除術患者における術前の日常生活関連活動度が術後経過に及ぼす影響
キーワード:肺切除術, 高齢者, 日常生活関連動作
【はじめに,目的】肺切除術は肺癌の有効な根治的治療として確立されている一方で,特に高齢者における肺切除術後には肺合併症の発症や全身持久力の低下が顕著であり,これらの予防手段として周術期における呼吸理学療法が有効とする報告が多い。一方で,高齢患者においては術前の日常生活関連動作の活動度(活動度)や不安・抑うつといった背景因子が術後に影響すると考えられているが,未だ十分に検討されていない。本研究では,高齢肺切除術患者における術前の活動度が,術後肺合併症,全身持久力,運動機能および呼吸機能に及ぼす影響,ならびに術前における活動度と不安・抑うつの関係を検討した。
【方法】対象は,2012年6月から2013年10月までに当院で肺切除術と周術期呼吸理学療法を行った65歳以上の高齢患者のうち,歩行が自立し,術前および術後退院時に下記の評価を完遂した16例(年齢72±5歳,身長157±8 cm,体重57±12 kg,男:女=8:8,開胸術6例,胸腔鏡視下術10例)とした。患者背景因子では年齢,性別,出血量,手術時間,手術方法,切除領域および修正Medical research council dyspnea scaleを,また,術前の活動度の指標としてFrenchay activities index(FAI),不安・抑うつの指標としてHospital anxiety depression scale(HADS)を調査した。およそ手術1週前から外来にて,等尺性膝伸展筋力,努力性肺活量(FVC),随意的咳嗽時最大呼気流量(CPF),ならびに全身持久力指標として6分間歩行距離(6MWD)を測定した。術前に流量型インセンティブスパイロメトリー,腹式呼吸練習,ハフィングおよび創部固定による咳嗽練習,呼吸筋ストレッチ,ならびに術後早期離床の指導を2~3回行ったうえで全例手術翌日から離床し,術前内容に加えて可及的早期に歩行練習や全身持久力運動を行った。術後経過として,手術日から歩行開始,歩行自立および退院までの日数を調査した。退院時には等尺性膝伸展筋力,FVC,CPF,6MWDを測定した。統計学的解析では,FAIを各対象者の年代の標準値(蜂須賀,2000)に対する割合を算出して標準化し,対象者を術前FAIの中央値に基づき2群(高FAI群,低FAI群)に分類した。術前の2群間比較には,χ²検定とMann-Whitney U検定,各群における術前と退院時の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた(有意水準:危険率5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理規定に従って本研究の承認を得た。対象者には,研究内容やプライバシー保護,承諾の自由を説明後,書面で同意を得た。
【結果】FAIは,高FAI群129±18%,低FAI群80±86%であった。2群間比較では,患者背景因子,術前における呼吸機能,等尺性膝伸展筋力,FVC,CPFおよび6MWDに有意差を認めなかった。術前HADSのうち,抑うつには有意差を認めなかったが,不安は高FAI群に比べて低FAI群で有意な高値を示した(4±2 vs. 7±4点,p<0.05)。また,手術から歩行開始(高FAI群1±0 vs.低FAI群1±1日),歩行自立および退院までの日数(7±3 vs. 8±3日)にも有意差を認めず,両群ともに術後肺合併症を生じた患者はいなかった。退院時のFVCとCPFは,術前に比べて両群ともそれぞれ有意な低値を示した(p<0.05)。術前と退院時の6MWDについては,高FAI群では有意差を認めなかった(術前420±63 vs.退院時401±74 m)が,低FAI群では退院時に有意な低値を示した(381±75 vs. 325±110 m,p<0.05)。術前と術後の等尺性膝伸展筋力には,両群ともそれぞれ有意差を認めなかった。
【考察】退院時のFVCおよびCPFは術前の活動度に関係なく,術前に比べて有意に減少しており,高齢肺切除患者の呼吸機能は,肺切除による残存肺容量の影響が大きい(中原,1983)と考えられた。また,退院時の等尺性膝伸展筋力は術前の活動度に関係なく術前と同等に維持されており,早期離床が寄与したものと考えられた。一方で,全身持久力は術前に比して肺切除術後1週で低下する(Nomori, 2003)と報告されており,今回も術前の活動度が低い高齢肺切除患者の全身持久力は術後1週退院時では術前よりも有意に低下し,さらに術前の不安が増強していた。しかし,活動度が高い患者の術後全身持久力は術前と同等に維持されていた。これらのことから,高齢肺切除術患者の術後全身持久力の回復には,術前の活動度や心理的要素が深く関与している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】高齢肺切除術患者における術後の回復に対して,術前の活動度が及ぼしている影響を明らかすることで,周術期呼吸理学療法におけるリスク層別ならびにプログラムの立案に貢献できる。
【方法】対象は,2012年6月から2013年10月までに当院で肺切除術と周術期呼吸理学療法を行った65歳以上の高齢患者のうち,歩行が自立し,術前および術後退院時に下記の評価を完遂した16例(年齢72±5歳,身長157±8 cm,体重57±12 kg,男:女=8:8,開胸術6例,胸腔鏡視下術10例)とした。患者背景因子では年齢,性別,出血量,手術時間,手術方法,切除領域および修正Medical research council dyspnea scaleを,また,術前の活動度の指標としてFrenchay activities index(FAI),不安・抑うつの指標としてHospital anxiety depression scale(HADS)を調査した。およそ手術1週前から外来にて,等尺性膝伸展筋力,努力性肺活量(FVC),随意的咳嗽時最大呼気流量(CPF),ならびに全身持久力指標として6分間歩行距離(6MWD)を測定した。術前に流量型インセンティブスパイロメトリー,腹式呼吸練習,ハフィングおよび創部固定による咳嗽練習,呼吸筋ストレッチ,ならびに術後早期離床の指導を2~3回行ったうえで全例手術翌日から離床し,術前内容に加えて可及的早期に歩行練習や全身持久力運動を行った。術後経過として,手術日から歩行開始,歩行自立および退院までの日数を調査した。退院時には等尺性膝伸展筋力,FVC,CPF,6MWDを測定した。統計学的解析では,FAIを各対象者の年代の標準値(蜂須賀,2000)に対する割合を算出して標準化し,対象者を術前FAIの中央値に基づき2群(高FAI群,低FAI群)に分類した。術前の2群間比較には,χ²検定とMann-Whitney U検定,各群における術前と退院時の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた(有意水準:危険率5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理規定に従って本研究の承認を得た。対象者には,研究内容やプライバシー保護,承諾の自由を説明後,書面で同意を得た。
【結果】FAIは,高FAI群129±18%,低FAI群80±86%であった。2群間比較では,患者背景因子,術前における呼吸機能,等尺性膝伸展筋力,FVC,CPFおよび6MWDに有意差を認めなかった。術前HADSのうち,抑うつには有意差を認めなかったが,不安は高FAI群に比べて低FAI群で有意な高値を示した(4±2 vs. 7±4点,p<0.05)。また,手術から歩行開始(高FAI群1±0 vs.低FAI群1±1日),歩行自立および退院までの日数(7±3 vs. 8±3日)にも有意差を認めず,両群ともに術後肺合併症を生じた患者はいなかった。退院時のFVCとCPFは,術前に比べて両群ともそれぞれ有意な低値を示した(p<0.05)。術前と退院時の6MWDについては,高FAI群では有意差を認めなかった(術前420±63 vs.退院時401±74 m)が,低FAI群では退院時に有意な低値を示した(381±75 vs. 325±110 m,p<0.05)。術前と術後の等尺性膝伸展筋力には,両群ともそれぞれ有意差を認めなかった。
【考察】退院時のFVCおよびCPFは術前の活動度に関係なく,術前に比べて有意に減少しており,高齢肺切除患者の呼吸機能は,肺切除による残存肺容量の影響が大きい(中原,1983)と考えられた。また,退院時の等尺性膝伸展筋力は術前の活動度に関係なく術前と同等に維持されており,早期離床が寄与したものと考えられた。一方で,全身持久力は術前に比して肺切除術後1週で低下する(Nomori, 2003)と報告されており,今回も術前の活動度が低い高齢肺切除患者の全身持久力は術後1週退院時では術前よりも有意に低下し,さらに術前の不安が増強していた。しかし,活動度が高い患者の術後全身持久力は術前と同等に維持されていた。これらのことから,高齢肺切除術患者の術後全身持久力の回復には,術前の活動度や心理的要素が深く関与している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】高齢肺切除術患者における術後の回復に対して,術前の活動度が及ぼしている影響を明らかすることで,周術期呼吸理学療法におけるリスク層別ならびにプログラムの立案に貢献できる。