第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防5

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM 第6会場 (3F 304)

座長:武政誠一(神戸国際大学リハビリテーション学部理学療法学科)

生活環境支援 口述

[0412] 要介護者の転倒に関して主介護者の心理的側面の検討

池上泰友1,2, 中田みずき1,2, 北浦重孝2, 篠原信平2, 清水富男3 (1.愛仁会千船病院リハビリテーション科, 2.訪問看護ステーションほほえみ, 3.愛仁会千船病院整形外科)

Keywords:在宅介護, 自己効力感, 転倒

【はじめに,目的】
近年,高齢者の転倒に関する心理的側面の研究が数多く報告されており,その中で転倒は恐怖感を拡大し,不安や自己効力感の低下といった心理的影響を引き起こすと報告されている。転倒の要因の一つとして,主介護者との関係性が挙げられるが,これまでの研究の多くは要介護者の評価であり,主介護者の心理的側面に関する検討は十分にされていない。そこで,本研究では転倒自己効力感について家族を介護する主介護者と要介護者との間の差異を調査し,転倒回数から主介護者の心理的側面にどのような影響があるのかを検討した。
【方法】
対象は訪問リハビリテーションを実施し,質問紙の回答が得られた主介護者48名(平均年齢80.5±8.1歳),要介護者48名(平均年齢62.1±12.9歳)の48組96名である。調査期間は2013年7~8月にアンケートを配布後,後日回収する手法で行った。測定項目は,要介護者に対して転倒の有無,要介護度,FIM,認知度,自己効力感として征矢野の開発した転倒予防自己効力感尺度(FPSE)を調査し,一方,主介護者に対しては健康状態,介護年数,介護時間,Zarit介護負担感尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8),主観的幸福感としてPCGモラール・スケールを調査した。また,要介護者の行動に対してFPSEの項目を「利用者の行動について自信があるか」と一部変更したFPSE変法を作成し調査した。なお本研究における転倒は,Gibsonの定義に従い過去1年間の転倒既往とした。統計解析には要介護者の転倒回数から,転倒のない群(N群),1-2回の群(A群),3回以上の群(M群)の3群に分類した。また,主介護者および要介護者における各測定項目は2水準因子についてはカイ二乗検定,Mann-WhitneyのU検定で評価し,3水準の因子については一元配置の分散分析を用い,下位検定には,Tukey-Kramerの多重比較を行った。なお,統計処理はSPSS15.0を用い,全ての統計処理において有意水準5%と未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に研究目的,意義,調査は匿名であり,研究によって得られた個人情報は研究以外には使用しないこと,研究協力は任意であり,協力を拒否したことによる損害は一切ないことなど紙面で説明し,同意を得た上で研究を行った。
【結果】
要介護者の転倒率は56.4%であった。要介護者のFPSEは,N群19.1±5.2(平均値±標準偏差)点,A群16.7±4.5点,M群15.3±2.3点で,3群間で比較するとN群とM群の間に有意差を認めた(p<0.05)。また,主介護者のFPSE変法は,N群20.6±6.2点,A群18.3±7.3点,M群17.8±4.2点とM群が低下する傾向であった。要介護者のFIMは,N群とM群の間で有意差を認め,M群が低値を示した(p<0.05)。主介護者のJ-ZBI_8は,N群とM群,A群とM群の間で有意差を認め,いずれもM群が高値を示した(p<0.01)。主介護者のPCGモラール・スケールは,N群とM群の間で有意差を認め,M群が低値を示した(p<0.05)。また,FPSEの主介護者と要介護者の比較において,転倒回数別ではM群の両群間で要介護者が有意に高値を示した(p<0.05)。しかし,その他の項目に関しては各群間に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,要介護者の転倒に着目し,主介護者の心理的側面を中心に検討した。転倒に関しては,70歳以上の要支援・要介護者の転倒率は50.0~65.2%と報告があり(三浦,2007),今回の対象者の転倒率とほぼ同じ結果であった。要介護者と主介護者の転倒回数とFPSEとの関連をみると,いずれも転倒回数が多いほど自己効力感が低くなる結果であった。すなわち,複数回の転倒は要介護者だけでなく,主介護者の自己応力感も低下させていたが,主介護者の方が要介護者より高かった。今回の研究では,どちらに要因があるのか言及することはできないが,乖離が生じることで関係性が崩れる可能性があり,互いにどのように理解しているのかバランスを取っていく必要があると考えた。また,主介護者の主観的幸福感はM群で低下し,介護負担感はM群で増大していた。複数回の転倒は,主介護者の精神状態に影響して心理的な問題を抱える形となることが示唆され,主介護者に対して心理的に支えるようなサポートが必要であると考えられた。以上のことより,要介護者の複数回の転倒は,捉え方に差異はあるものの主介護者の自己効力感も低下させるため要介護者,主介護者双方への心理的な支援が必要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は主介護者の心理的側面に着目し,主介護者と要介護者の転倒不安感の捉え方を明らかにしたものである。我々が介護者の心理状態を把握することで,介護者に対して精神的なサポートをどのようにすべきか介入方法を支援する一助になると考える。