第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 教育・管理理学療法 セレクション

臨床教育系,管理運営系

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 6:50 PM 第8会場 (4F 411+412)

座長:日髙正巳(兵庫医療大学リハビリテーション学部), 酒井吉仁(富山医療福祉専門学校理学療法学科)

教育・管理 セレクション

[0415] 基本動作と日常生活動作の関連性における学生の思考について

藤本静香1, 藤本修平2, 太田隆1, 金丸晶子1 (1.東京都健康長寿医療センター, 2.東京湾岸リハビリテーション病院)

Keywords:教育, 基本動作, 日常生活動作

【はじめに,目的】在宅での日常生活動作や手段的日常生活動作(まとめてADLと称する)を把握することは,在宅生活を安全かつ効率的に送るうえで重要である(Brown et al.,2013)。変形性膝関節症(膝OA)のように,外来で介入する対象では直接在宅生活を見る機会がなく,病院で実施する評価からADLを予測することになる。実施環境の制限から,簡便な基本動作の評価を統合して予測することが求められる。これまで我々は膝OA患者における基本動作とADLの関連について明らかにした(藤本ら,2012)。一方,臨床実習では,学生が様々な基本動作を統合して実用的な動作を予測することは容易ではない。療法士が様々な基本動作からどのようにADLを予測するかを説明し,学生の理解を促すように指導することをしばしば経験する。学生に有効な指導を行うためには,学生がどのように基本動作とADLの関連を捉えているかを明らかにすることが重要である。そこで,本研究の目的は,どのような基本動作がADLに関わると学生は考えているのかを探索的に検討することとした。
【方法】対象は,理学療法士および作業療法士の養成課程に所属する学生95名(男性47名,女性48名;平均年齢21.5±2.9歳;2年生34名,3年生35名,4年生26名)とした。対象に,アンケート調査を行ない,基本動作とADLの関連についてどのように思考しているか検討した。アンケート調査に用いる基本動作,ADLの項目については,日本整形外科学会治療判定基準の膝OA治療成績判定基準や日本版膝OA患者機能評価表,Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis indexなど,国内外15種の膝関節機能評価表から抽出し,基本動作に関連する19項目,ADLに関連する19項目を選択した。アンケート調査は,横列に基本動作,縦列にADLを記載した19×19マスの格子状の評価用紙を用い,関連すると考えられる項目同士の格子に印を付ける様式とした。対象には,膝関節の機能障害を想定した場合に,ADL遂行のために必要と考えられる基本動作を必要なだけ選択するように指示した。評価用紙は,項目順序の影響が相殺されるように,基本動作とADLを各々2分割し,ブロック毎に順序を入れ替え,計4種類の評価用紙をランダムに配布した。解析は,まず全ての対象に関して,基本動作およびADLの項目パターンを分類するため,クラスター分析を実施した。さらに,ADLに関連する基本動作にどのような傾向があるかを検討した。また,就学年数による傾向を検討するため,就学年数ごとに層別化して同様の解析を実施した。クラスター間の距離は平方ユークリット距離を用い,分類法はウォード法とした。以上の解析にはSPSS12.0J for Windowsを利用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り,対象には事前に研究内容を十分に説明し同意を得た。
【結果】全ての対象に関して実施したクラスター分析では,基本動作・ADLともに6群に分類された。基本動作は,A(歩行,立位保持),B(移乗,立ち座り),C(床に身体をかがめる,しゃがむ),D(階段昇降,坂道の上り下り),E(膝立ち,膝を前につく),F(床上動作,片脚立位など)に分類された。ADLは,a(重い物を運ぶ,掃除機の使用,簡単な掃除など),b(食事の後片付け,炊事),c(下衣着脱,靴下着脱),d(床の拭き掃除,床の物を拾う),e(自動車の乗り降り,トイレ動作,入浴),f(外出,買い物,習い事や友達付き合い)に分類された。これらの分類に関して,就学年数ごとの傾向は認められなかった。基本動作とADLの関連について,80%以上の学生がADLに関連すると判断した基本動作は,A>B>Cの順に多く,AはADLのa,b,fに,BはADLのeに,CはADLのfに大きく関わっていた。学生はその他の基本動作を重要とは考えていなかったと,判断された。
【考察】膝関節の機能障害を想定した場合,学生はADLに関連する基本動作として,立位動作およびしゃがみ動作を多く選択することが明らかとなった。一方で,外出や買い物といった手段的日常生活動作に関して,先行研究によって関連性が示されている階段昇降や立ち上がりといった項目については,多くの学生は選択しなかった。これは,学生が手段的日常生活動作に必要な場面を想定できないと考えられ,より実践に近い臨床経験を多く提示することの必要性を示唆した。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,療法士が経験的に予測するような基本動作とADLの関連性について,学生の思考が明らかとなり,効率的な説明やどのような経験が必要かを判断する一助となった。