[0417] クリニカルクラークシップによる臨床実習が学生の心理的ストレスへ及ぼす影響
キーワード:臨床実習, クリニカルクラークシップ, 不安
【目的】近年,臨床実習における教育方略はクリニカル・クラークシップ(以下CCS)への移行が推奨されている。CCSは学習理論を基軸に,デスクワークではなくクリニカルワークを中心とした教育システムである。当校では,平成24年度第3学年(13期生)の臨床実習からコンプライスの改善,臨床実習の教育化を目的にCCSを導入した。患者担当制による従来の実習方式では,先行研究においてState-Trait Anxiety Inventory(以下STAI)で計測した不安が臨床実習前および実習中で高いとされている。Profile of Mood States(以下POMS)での検討においても,実習開始1ヶ月前の段階で健常学生と比較して不安が強く,実習終了後と比較して実習中の不安が強いことが示されている。藤井らは,心理的ストレスの原因としては,レポートなどの課題遂行が47.3%と最も多いと報告した。これらのデスクワークによる心理的ストレスは,CCSの導入によって軽減することが予測される。そこで,今回,我々はCCS導入前との比較によって,CCS導入により学生の心理的ストレスが軽減しうるか明確にすることを目的に研究を行った。
【方法】対象はC専門学校12期生25名(F群),13期生47名(CCS群)であった。F群は年齢23.5±3.6歳,男性20名,女性5名,CCS群は年齢22.7±3.0歳,男性35名,女性12名であった。F群の臨床実習は到達度評価,症例発表・レポート,課題レポートの存在する患者担当制での実習形態であった。CCS群の臨床実習は形成的評価,技術単位診療参加システム,見学・模倣・実施の原則,脱レポートなどに基づくCCSによる教育スタイルであった。第4学年2期総合臨床実習(7週間)を研究の対象とした。心理的ストレスの評価は,STAIとPOMSを用いた。実習開始前に記入方法について説明し,評価用紙を配布した。実習前(開始1~4日前),実習中(開始後3週目終了時)に自宅にて評価用紙に各個人で記入した。実習終了後に評価用紙を回収した。STAIは特性不安と状態不安における不安存在項目(P),不安不在項目(A),合計を得点化した。POMSは「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気」「疲労」「混乱」の各尺度を得点化した。統計解析は,IBM SPSS statistics 21.0を用い,危険率5%未満を有意水準とした。反復測定の2元配置分散分析およびBonferroniの多重比較を同時に実施した。
【説明と同意】研究目的,方法,個人情報保護に関して口頭にて説明し同意を得た。
【結果】実習前の特性不安合計得点およびP得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,F群と比較してCCS群で不安が強い傾向にあった(47.6±9.2 vs 53.5±9.3,21.0±5.6 vs 25.3±6.2,48.4±11.1 vs 54.3±9.3,28.8±5.9 vs 32.6±5.3,14.7±7.6 vs 18.5±7.0;P<0.05)。CCS群の特性不安合計得点およびA得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,実習前と比較して実習中に不安が軽減する傾向にあった(53.5±9.3 vs 50.0±11.0,28.2±5.2 vs 26.0±6.0,54.3±9.3 vs 48.9±10.3,32.6±5.3 vs 28.3±6.2,18.5±7.0 vs 16.5±6.9;P<0.05)。POMSの「疲労」では,群の主効果がみられ,交互作用はなかった。多重比較では,F群と比較してCCS群で実習中の不安が軽減していた(16.2±6.7 vs 12.3±7.0;P<0.05)。3度の臨床実習期間中にF群では3名の実習中断がみられたが,CCS群では存在しなかった。
【考察】本研究では,実習開始前にCCS群で不安が強かった。しかし,状態不安だけでなく,個人が元来備えている心理状態である特性不安でも差がみられた。従って,CCS群は,F群と比較してやや心理的不安の強い傾向の集団であった可能性がある。先行研究においては,実習前および実習中に心理的ストレスが強かった。しかし,本研究ではCCS群で実習中の不安が軽減した。楽しさや創造性などの前向きな気分を反映するA得点で改善がみられ,POMSの結果でもCCS群は心理的疲労感が少なかった。これらは,日々のデスクワークが心理的ストレスの原因であるとした先行研究の結果を考えると,クリニカルワークを中心とした教育システムが臨床における理学療法技術の獲得に対して前向きに取り組む心理状態を生み出し,心理的な疲労を減少させたためであると推測される。CCSによる心理的ストレスの軽減は実習中断の減少にもつながっているであろう。以上のようにCCSによる臨床実習は心理的ストレスを軽減させたが,今後は,本来の目的である教育効果に関して検討を加えていく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臨床実習における精神的健康度の悪化という問題を解決するための一つの方略を提示したという点で意義がある。
【方法】対象はC専門学校12期生25名(F群),13期生47名(CCS群)であった。F群は年齢23.5±3.6歳,男性20名,女性5名,CCS群は年齢22.7±3.0歳,男性35名,女性12名であった。F群の臨床実習は到達度評価,症例発表・レポート,課題レポートの存在する患者担当制での実習形態であった。CCS群の臨床実習は形成的評価,技術単位診療参加システム,見学・模倣・実施の原則,脱レポートなどに基づくCCSによる教育スタイルであった。第4学年2期総合臨床実習(7週間)を研究の対象とした。心理的ストレスの評価は,STAIとPOMSを用いた。実習開始前に記入方法について説明し,評価用紙を配布した。実習前(開始1~4日前),実習中(開始後3週目終了時)に自宅にて評価用紙に各個人で記入した。実習終了後に評価用紙を回収した。STAIは特性不安と状態不安における不安存在項目(P),不安不在項目(A),合計を得点化した。POMSは「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気」「疲労」「混乱」の各尺度を得点化した。統計解析は,IBM SPSS statistics 21.0を用い,危険率5%未満を有意水準とした。反復測定の2元配置分散分析およびBonferroniの多重比較を同時に実施した。
【説明と同意】研究目的,方法,個人情報保護に関して口頭にて説明し同意を得た。
【結果】実習前の特性不安合計得点およびP得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,F群と比較してCCS群で不安が強い傾向にあった(47.6±9.2 vs 53.5±9.3,21.0±5.6 vs 25.3±6.2,48.4±11.1 vs 54.3±9.3,28.8±5.9 vs 32.6±5.3,14.7±7.6 vs 18.5±7.0;P<0.05)。CCS群の特性不安合計得点およびA得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,実習前と比較して実習中に不安が軽減する傾向にあった(53.5±9.3 vs 50.0±11.0,28.2±5.2 vs 26.0±6.0,54.3±9.3 vs 48.9±10.3,32.6±5.3 vs 28.3±6.2,18.5±7.0 vs 16.5±6.9;P<0.05)。POMSの「疲労」では,群の主効果がみられ,交互作用はなかった。多重比較では,F群と比較してCCS群で実習中の不安が軽減していた(16.2±6.7 vs 12.3±7.0;P<0.05)。3度の臨床実習期間中にF群では3名の実習中断がみられたが,CCS群では存在しなかった。
【考察】本研究では,実習開始前にCCS群で不安が強かった。しかし,状態不安だけでなく,個人が元来備えている心理状態である特性不安でも差がみられた。従って,CCS群は,F群と比較してやや心理的不安の強い傾向の集団であった可能性がある。先行研究においては,実習前および実習中に心理的ストレスが強かった。しかし,本研究ではCCS群で実習中の不安が軽減した。楽しさや創造性などの前向きな気分を反映するA得点で改善がみられ,POMSの結果でもCCS群は心理的疲労感が少なかった。これらは,日々のデスクワークが心理的ストレスの原因であるとした先行研究の結果を考えると,クリニカルワークを中心とした教育システムが臨床における理学療法技術の獲得に対して前向きに取り組む心理状態を生み出し,心理的な疲労を減少させたためであると推測される。CCSによる心理的ストレスの軽減は実習中断の減少にもつながっているであろう。以上のようにCCSによる臨床実習は心理的ストレスを軽減させたが,今後は,本来の目的である教育効果に関して検討を加えていく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臨床実習における精神的健康度の悪化という問題を解決するための一つの方略を提示したという点で意義がある。