[0424] 動作分析熟達に向けた画像処理能力の分析
Keywords:動作分析, 熟達化, 評価技術
【はじめに,目的】臨床における動作分析は理学療法介入を行う上で重要な情報であり,医学的・社会的情報などとの照合や原因を推察し,目標設定や介入内容を決定する重要な評価項目である。この評価はさまざまな装置を利用した客観的なデータ収集も可能だが,医療現場では装置が高価で導入は難しく,また,データ解析にも熟練を要するため,多くの現場では理学療法士(以下,PT)自身の評価に委ねられている。分析は観察から得られる視覚的情報が多く,得られた情報を分析する能力はPTの技能に左右されやすい。しかし,現状では決められた到達基準やトレーニング法はなく,組織内研修を中心に行われている。動作分析の重要性はPTにとって周知されているにもかかわらず,到達レベルの設定やトレーニング手法が開発されていないことは,動作分析が質的な情報を扱うことで暗黙知的な部分が解明されていないことによると思われる。本研究は動作分析の熟達度を解明する手がかりを解明することを目的に熟達群及び対照群にビデオ撮影した歩行動画を提示し評価を行わせた,また,評価後に分析能力に関するアンケート調査を実施した。
【方法】ビデオ動画課題は脳血管障害による片麻痺者2名(以下,課題症例)で日常生活での歩行は自立している。熟達群は7名で,PT免許取得からの平均年数は24.57±7.76年,平均臨床経験年数は12.4±5.3年,属性は養成校(大学)教員6名,医療機関勤務1名であった。一方,対照群は73名で,免許取得からの平均年数は3.86±4.89年,臨床経験年数は3.9±4.9年であった。課題症例の歩行条件はトレッドミル上で本人が快適に歩行できる速度を設定し,矢状面(麻痺側:左),前額面(後方)より撮影した動画を各20秒に編集したものを作成した。熟達群および対照群には作成した動画を矢状面・前額面を続けて提示した後,指定した評価用紙に記載する作業を5回施行した。記載時間は5分以内とし,評価用紙は1回ごとに新しいものを使用し,回数を重ねるごとに気付いた評価を加筆させた。評価は自由記載とし,分析に使用する用語は臨床で日常使用しているものとした。回収後の回答は,解析前に用語を統一変換し,使用された用語数をキーワード数(以下,KW)として集計した。解析内容は1回ごとの動画から得られた情報量と正誤性,経験年数とし,熟達群と対照群を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】すべての協力者には本研究の目的と趣旨について同意が得られた者を対象とした。また,個人情報の取り扱いについて十分配慮し,データは本研究以外に使用しないこと,個人が特定できないように統計処理を行った。
【結果】熟達群の歩行分析は2症例とも全KW数の8割以上が2回目までで終了していた。熟達群は前額面および矢状面で40秒間の画像の分析を1クールとすると,概ね4クールで殆どの情報が収集されていた。一方,対照群は3クール目の情報収集が8割弱であった。また,熟達群の回答を基準とした対照群の誤答比率は2から3%だった。今回の調査では熟達群と対照群では時間的要因による特性差が大きい傾向を認め,免許取得年数との関係では取得後7から9年と10年以上でKW数における統計的有意差が認められた。アンケート調査では対照群の3割が視覚的に動作を追えない,情報との関連付け,現象と原因の追究に関して不十分であると回答していた。
【考察】対照群における評価能力の課題は分析内容ではなく,分析に要する時間に課題があることがわかった。評価技術の向上には,認知領域と標準的な評価技術の習得が得られた後,短時間で必要な情報量を収集できるようなトレーニングを行うことが必要と思われる。熟練した理学療法士は我が国の医療を支えてきた。理学療法士のマンパワーが不足していた時代には限られた時間で多くの患者を診療することが通常であり,日常業務は評価と診療技術向上のトレーニングの位置づけも担っていた。現在は患者一人当たりの診療に費やす時間は保証され,若手理学療法士は時間をかけて介入することができる。評価の精度は向上しても,分析速度が伴うには相当の時間が必要であることがわかる。この乖離を小さくすることが今後の重要な課題と考える。アンケート調査では臨床推論に関して課題を抱えていることが示唆された。理学療法士の人口構造はひずみを抱えている。現状の改善には,現場管理者の認識と改善に向けた早急な取り組みが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究により,熟達群と対照群では分析にかかる時間に課題がある事が示唆された。動作分析の標準化は,大きな課題である。現状を整理し,改善に向けた策を講じる手掛かりとしたい。
【方法】ビデオ動画課題は脳血管障害による片麻痺者2名(以下,課題症例)で日常生活での歩行は自立している。熟達群は7名で,PT免許取得からの平均年数は24.57±7.76年,平均臨床経験年数は12.4±5.3年,属性は養成校(大学)教員6名,医療機関勤務1名であった。一方,対照群は73名で,免許取得からの平均年数は3.86±4.89年,臨床経験年数は3.9±4.9年であった。課題症例の歩行条件はトレッドミル上で本人が快適に歩行できる速度を設定し,矢状面(麻痺側:左),前額面(後方)より撮影した動画を各20秒に編集したものを作成した。熟達群および対照群には作成した動画を矢状面・前額面を続けて提示した後,指定した評価用紙に記載する作業を5回施行した。記載時間は5分以内とし,評価用紙は1回ごとに新しいものを使用し,回数を重ねるごとに気付いた評価を加筆させた。評価は自由記載とし,分析に使用する用語は臨床で日常使用しているものとした。回収後の回答は,解析前に用語を統一変換し,使用された用語数をキーワード数(以下,KW)として集計した。解析内容は1回ごとの動画から得られた情報量と正誤性,経験年数とし,熟達群と対照群を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】すべての協力者には本研究の目的と趣旨について同意が得られた者を対象とした。また,個人情報の取り扱いについて十分配慮し,データは本研究以外に使用しないこと,個人が特定できないように統計処理を行った。
【結果】熟達群の歩行分析は2症例とも全KW数の8割以上が2回目までで終了していた。熟達群は前額面および矢状面で40秒間の画像の分析を1クールとすると,概ね4クールで殆どの情報が収集されていた。一方,対照群は3クール目の情報収集が8割弱であった。また,熟達群の回答を基準とした対照群の誤答比率は2から3%だった。今回の調査では熟達群と対照群では時間的要因による特性差が大きい傾向を認め,免許取得年数との関係では取得後7から9年と10年以上でKW数における統計的有意差が認められた。アンケート調査では対照群の3割が視覚的に動作を追えない,情報との関連付け,現象と原因の追究に関して不十分であると回答していた。
【考察】対照群における評価能力の課題は分析内容ではなく,分析に要する時間に課題があることがわかった。評価技術の向上には,認知領域と標準的な評価技術の習得が得られた後,短時間で必要な情報量を収集できるようなトレーニングを行うことが必要と思われる。熟練した理学療法士は我が国の医療を支えてきた。理学療法士のマンパワーが不足していた時代には限られた時間で多くの患者を診療することが通常であり,日常業務は評価と診療技術向上のトレーニングの位置づけも担っていた。現在は患者一人当たりの診療に費やす時間は保証され,若手理学療法士は時間をかけて介入することができる。評価の精度は向上しても,分析速度が伴うには相当の時間が必要であることがわかる。この乖離を小さくすることが今後の重要な課題と考える。アンケート調査では臨床推論に関して課題を抱えていることが示唆された。理学療法士の人口構造はひずみを抱えている。現状の改善には,現場管理者の認識と改善に向けた早急な取り組みが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究により,熟達群と対照群では分析にかかる時間に課題がある事が示唆された。動作分析の標準化は,大きな課題である。現状を整理し,改善に向けた策を講じる手掛かりとしたい。