[0425] 当院リハビリテーション科における医療安全の現状と今後の課題
Keywords:医療安全, リスク管理, アンケート
【はじめに,目的】
急性期医療を担う当院では,発症や受傷直後からリハビリテーション(以下,リハビリ)を行なっている。さらに在院日数の短縮化や対象者の高齢化・重症化に伴いセラピストに求められるリスク管理が高度化・多様化している。一方,リスクを恐れ積極的な急性期リハビリを実践できない現状は少なからずある。そのため,適切かつ万全なリスク管理が必要とされている。
そこで当院リハビリ科スタッフの医療安全に対する認識を調査し,今後の対策を検討することを目的とした。
【方法】
当院リハビリ科における医療安全対策の現行を,再確認した。また,スタッフ18名を対象に,医療安全に対するアンケートを実施し,結果を集計した。さらに,2012年4月~2013年3月までのインシデントレポート報告(以下,レポート報告)の内容を集計し,アンケート結果との関連を検討した。
アンケート内容は,①医療安全に関心はあるか,②ヒヤリハット(未報告のインシデント)経験の有無・内容,③意識消失事例の経験の有無・対応,④急変時のDr Callをためらうか,⑤レポート報告書作成の有無,⑥レポート報告するレベルを迷うか,⑦インシデントレベルの分類(以下,レベル分類)の認識,⑧医療安全に関する勉強会の必要性の8設問である。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿いアンケートの対象者には事前の説明を行い,同意を得た上で無記名にて実施した。データ収集や集計にあたり個人情報保護,匿名化等に厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)に従って対応した。
【結果】
現行の対策は,スタットコールの掲示,モニターと救急カートの設置,週1回のインシデント報告,年5回程度の院内勉強会や院内ICLSの参加と年1回の科内BLSの開催である。
アンケート結果は,89%(16人)のスタッフが医療安全に関心を持っていた。また78%(14名)がヒヤリハットの経験があり,「ドレーンチューブ類(39%)」が最も多かった。さらに半数のスタッフが意識消失事例を経験し,発生後の対応は,「人を呼ぶ(44%)」が最も多かった。Dr Callは72%(13人)がためらわずに行なえると回答した。レポート報告書は78%(14人)のスタッフが作成したことがあったが,78%(14人)がインシデントを報告するレベルかどうか迷うという結果であった。レベル分類は56%(10人)が把握していなかった。94%(17人)のスタッフが医療安全に関する勉強会の必要性を感じており,事故対応(37%)と事故予防(33%)に関する内容が多かった。
期間内でのレポート報告件数は31件であった。内訳はチューブ・ドレーン類が9件,情報伝達不足が5件,意識消失が7件,転倒が2件,表皮剥離が2件,打撲・骨折が2件,嘔吐が2件,その他が2件だった。報告者の判断したレベル分類(8段階)別の件数は,レベル0は1件,レベル1は13件,レベル2は9件,レベル3は8件であったが,医療安全委員会の判断したレベル分類別の件数は,レベル0は1件,レベル1は11件,レベル2は17件,レベル3は1件だった。
【考察】
スタッフの多数がヒヤリハットの経験があり,またスタッフの半数が意識消失事例を経験していたことから,当院は大きな医療事故に繋がるインシデントやアクシデントが,多く潜む環境であると考えられる。対応として人を呼ぶことやDr Callはためらわずに行えることから,初期段階の応援要請は可能と伺える。また,ヒヤリハット経験の多数がドレーンチューブ類の内容であり,実際のレポート報告と一致する。
インシデント報告については8割のスタッフが経験しているが報告に迷う,レベル分類を把握していない,さらにレポート報告の当事者のレベル分類と医療安全委員会のレベル分類が乖離しているという結果であった。報告基準の明確化や統一化が必要と考える。
多くのスタッフが医療安全に関心を持ち,勉強会の必要性を感じており,事故対応・予防に関する内容が多く求められていた。
以上より,事故対応や事故予防の勉強会を開催し,発生後の対応フローチャートを作成することで,事故を未然に防ぐ知識と技術の向上に加え,発生後迅速に対応できる環境作りに努めていく。さらに,レポート報告の基準を作成することで,判断基準の差異を少なくし,正確かつ積極的なインシデント報告を行なえるようになると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では医療安全に関するスタッフの認識が把握でき,今後の対策を検討することができた。リスク管理の教育におけるシステムの構築に非常に有用と考えられる。また当院と同様の急性期医療施設への情報提供となり,今後の積極的かつ安全なリハビリの普及にも有用と考えられる。
急性期医療を担う当院では,発症や受傷直後からリハビリテーション(以下,リハビリ)を行なっている。さらに在院日数の短縮化や対象者の高齢化・重症化に伴いセラピストに求められるリスク管理が高度化・多様化している。一方,リスクを恐れ積極的な急性期リハビリを実践できない現状は少なからずある。そのため,適切かつ万全なリスク管理が必要とされている。
そこで当院リハビリ科スタッフの医療安全に対する認識を調査し,今後の対策を検討することを目的とした。
【方法】
当院リハビリ科における医療安全対策の現行を,再確認した。また,スタッフ18名を対象に,医療安全に対するアンケートを実施し,結果を集計した。さらに,2012年4月~2013年3月までのインシデントレポート報告(以下,レポート報告)の内容を集計し,アンケート結果との関連を検討した。
アンケート内容は,①医療安全に関心はあるか,②ヒヤリハット(未報告のインシデント)経験の有無・内容,③意識消失事例の経験の有無・対応,④急変時のDr Callをためらうか,⑤レポート報告書作成の有無,⑥レポート報告するレベルを迷うか,⑦インシデントレベルの分類(以下,レベル分類)の認識,⑧医療安全に関する勉強会の必要性の8設問である。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿いアンケートの対象者には事前の説明を行い,同意を得た上で無記名にて実施した。データ収集や集計にあたり個人情報保護,匿名化等に厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)に従って対応した。
【結果】
現行の対策は,スタットコールの掲示,モニターと救急カートの設置,週1回のインシデント報告,年5回程度の院内勉強会や院内ICLSの参加と年1回の科内BLSの開催である。
アンケート結果は,89%(16人)のスタッフが医療安全に関心を持っていた。また78%(14名)がヒヤリハットの経験があり,「ドレーンチューブ類(39%)」が最も多かった。さらに半数のスタッフが意識消失事例を経験し,発生後の対応は,「人を呼ぶ(44%)」が最も多かった。Dr Callは72%(13人)がためらわずに行なえると回答した。レポート報告書は78%(14人)のスタッフが作成したことがあったが,78%(14人)がインシデントを報告するレベルかどうか迷うという結果であった。レベル分類は56%(10人)が把握していなかった。94%(17人)のスタッフが医療安全に関する勉強会の必要性を感じており,事故対応(37%)と事故予防(33%)に関する内容が多かった。
期間内でのレポート報告件数は31件であった。内訳はチューブ・ドレーン類が9件,情報伝達不足が5件,意識消失が7件,転倒が2件,表皮剥離が2件,打撲・骨折が2件,嘔吐が2件,その他が2件だった。報告者の判断したレベル分類(8段階)別の件数は,レベル0は1件,レベル1は13件,レベル2は9件,レベル3は8件であったが,医療安全委員会の判断したレベル分類別の件数は,レベル0は1件,レベル1は11件,レベル2は17件,レベル3は1件だった。
【考察】
スタッフの多数がヒヤリハットの経験があり,またスタッフの半数が意識消失事例を経験していたことから,当院は大きな医療事故に繋がるインシデントやアクシデントが,多く潜む環境であると考えられる。対応として人を呼ぶことやDr Callはためらわずに行えることから,初期段階の応援要請は可能と伺える。また,ヒヤリハット経験の多数がドレーンチューブ類の内容であり,実際のレポート報告と一致する。
インシデント報告については8割のスタッフが経験しているが報告に迷う,レベル分類を把握していない,さらにレポート報告の当事者のレベル分類と医療安全委員会のレベル分類が乖離しているという結果であった。報告基準の明確化や統一化が必要と考える。
多くのスタッフが医療安全に関心を持ち,勉強会の必要性を感じており,事故対応・予防に関する内容が多く求められていた。
以上より,事故対応や事故予防の勉強会を開催し,発生後の対応フローチャートを作成することで,事故を未然に防ぐ知識と技術の向上に加え,発生後迅速に対応できる環境作りに努めていく。さらに,レポート報告の基準を作成することで,判断基準の差異を少なくし,正確かつ積極的なインシデント報告を行なえるようになると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では医療安全に関するスタッフの認識が把握でき,今後の対策を検討することができた。リスク管理の教育におけるシステムの構築に非常に有用と考えられる。また当院と同様の急性期医療施設への情報提供となり,今後の積極的かつ安全なリハビリの普及にも有用と考えられる。