第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 神経理学療法 セレクション

脳損傷理学療法,脊髄損傷理学療法,発達障害理学療法

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 6:50 PM 第13会場 (5F 503)

座長:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院), 岡野生也(兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部)

神経 セレクション

[0443] 急性期脳梗塞患者における自宅退院に関連する因子の検討

國枝洋太1, 今井智也1, 三木啓嗣1,2, 野田真理子1, 野村圭1, 松本徹1, 新田收2, 星野晴彦3 (1.東京都済生会中央病院リハビリテーション科, 2.首都大学東京大学院人間健康科学研究科, 3.東京都済生会中央病院神経内科)

Keywords:急性期脳梗塞, 自宅退院, 関連因子

【はじめに,目的】近年,急性期病院における在院日数の短縮が進む中,発症後早期からの効率的な機能回復を促す理学療法の実施が求められる。急性期病院の理学療法士は機能回復と同時に,自宅退院の可否や回復期病院転院の適応などを理学療法介入早期の段階で予測し,医師や看護師,ソーシャルワーカーなどと情報交換を行う必要性が求められている。そこで本研究では,急性期脳梗塞患者の転帰先をより早期かつ正確に予測するために,自宅退院の可否に関連する因子を抽出し,その影響度を検討することを目的とした。
【方法】対象は2012年9月から2013年8月に発症後3日以内に当院に入院した急性期脳梗塞患者108名のうち,当院の離床コースに従って離床を図り,データ欠損のない60名(平均年齢72.7±13.0歳,平均在院日数23.8±18.4日)とした。まず自宅退院の可否に関連する因子を抽出するため,診療録より後方視的に,年齢(75歳以上;ダミー変数1,75歳未満;ダミー変数2),性別(男;1,女;2),世帯構成人数(独居;1,同居者あり;2),入院時血清アルブミン値(alb値)(3.5g/dl未満;1,3.5g/dl以上;2),入院時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)(8点以上;1,8点未満;2),入院から1週後の藤島式嚥下グレード(嚥下Gr)(Gr1~6;1,Gr7~10;2),高次脳機能障害(認知症は除く)(あり;1,なし;2),離床時の20mmHg以上の収縮期血圧低下(あり;1,なし;2)を調査し,ダミー変数(1,2)を用いてそれぞれカテゴリー化した。各項目について自宅退院が可能であった34名(自宅群)と自宅退院が困難で回復期病院や施設へ入所した26名(転院群)に割りつけ,その関連性を比較検討した。統計分析は,SPSSver20を使用し,有意水準は5%とした。カテゴリー化された各検討項目と自宅退院の可否にてクロス集計表を作成し,χ2検定を行った。χ2検定にて有意差を認めた項目に関して,自宅退院の可否に対する影響度を検討するため,尤度比による変数増加法にて多重ロジスティック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】理学療法開始時に内容の説明を全患者本人または家族に行い,書面にて同意を得た上で実施した。この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,得られたデータは匿名化し個人情報が特定できないよう配慮した。
【結果】χ2検定にて自宅退院の可否と関連を認めた項目は,年齢,性別,alb値,入院時NIHSS,嚥下Gr,高次脳機能障害であった。世帯構成人数,離床時の収縮期血圧低下は有意差を認めなかった。次に年齢,性別,alb値,入院時NIHSS,嚥下Gr,高次脳機能障害の6項目を用いて検討した多重ロジスティック回帰分析では,alb値(p=0.017,オッズ比0.085,95%信頼区間:0.011-0.644),高次脳機能障害(p=0.003,オッズ比0.098,95%信頼区間:0.021-0.449),入院時NIHSS(p=0.045,オッズ比0.173,95%信頼区間:0.031-0.963)の3項目が選択された。HosmerとLemeshowの検定結果は,p=0.899で問題はなく,判別的中率も85.0%と比較的良好な結果であった。急性期脳梗塞患者で自宅退院が困難な症例は,年齢が75歳以上の女性で,入院時の栄養状態が悪く,嚥下障害および高次脳機能障害を有する患者が自宅退院に難渋する結果を示した。中でも入院時の栄養状態と高次脳機能障害,脳卒中重症度が,自宅退院の可否に対し高い影響度を示した。
【考察】本研究では脳梗塞患者の自宅退院の可否の予測因子として,先行文献での報告と比較的類似した結果を示したが,世帯構成人数では自宅退院との関連を示さなかった。これは同居者の有無ではなく,介護者の有無が関連している可能性が示唆された。多重ロジスティック回帰分析にて高い影響度を示した項目のうち,高次脳機能障害と脳梗塞の重症度は自宅退院に影響を及ぼす因子として様々な報告があるが,本研究ではalb値が最も自宅退院に強く影響を及ぼす結果であった。一般的にalb値は,栄養状態の指標として臨床場面で頻繁に用いられるが,半減期の問題や他疾患の影響によりその他のデータとの併用が推奨される。急性期病院搬送直後のalb値は,入院前の栄養状態や入院時の全身状態を反映しており,自宅退院の可否にも影響していることが示唆された。よって入院時のalb値が栄養の指標としてだけでなく,転帰の予測因子としての可能性が示唆された。今後の課題は,入院中のalb変化量と転帰の関連や,alb値と社会背景との関連性の検討,施設入所患者の分類方法の検討などである。
【理学療法学研究としての意義】急性期脳梗塞患者の自宅退院の関連因子が客観的により抽出されることで,急性期病院において早期理学療法介入による効率的機能回復に加えて,理学療法士としての立場から発症後早期の段階で転帰予測をより正確に行い,他職種との情報交換が可能となる。