第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法,脊髄損傷理学療法,発達障害理学療法

2014年5月30日(金) 15:20 〜 18:50 第13会場 (5F 503)

座長:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院), 岡野生也(兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部)

神経 セレクション

[0448] 脳卒中患者の退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因の検討

小沼佳代1, 竹中晃二2 (1.早稲田大学大学院人間科学研究科, 2.早稲田大学人間科学学術院)

キーワード:脳卒中, 社会的活動性, health action process approach

【はじめに,目的】
リハビリテーション(以下,リハ)の最終目標は,QOLの最大限の向上である(上田,1981)。そのため,リハ専門家は,患者の機能や能力のみならず,退院後の生活を想定した介入を行う必要がある。しかし,回復期リハ対象者の5割を占める脳卒中患者について,退院後に活動量やADL能力が低下している(細井,2011;芳野,2010)と報告されている。活動量の低下は,身体・精神機能が低下する悪循環を生じさせ,QOLの低下につながる(佐浦,2006)。すなわち,リハ本来の目的が達成されていない現状がうかがえる。退院後の社会的活動性は,健康関連QOL(Almborg,2010)や生活満足度(Boosman,2011)に影響を及ぼすことが明らかとなっており,最終目標であるQOLの向上を図るためには,退院後の社会的活動性の向上に着目する必要があるといえる。しかし,社会的活動性を向上させる効果的な介入方略は確立されていない。
一方,健康行動の促進に対する介入においては,多くの行動科学の理論が用いられている。多くの理論では,行おうとする「意図」が行動の予測因子となるとされている。中でも,Health Action Process Approach(以下,HAPA)は,意図に加えて,詳細な「プランニング」(アクションプラン・コーピングプラン)や「セルフエフィカシー」(以下,SE)が行動を促進し,心疾患や整形外科疾患患者の身体運動の促進にも適用可能であるとされる(Schwarzer,2008)。
本研究では,退院3ヵ月後から6ヵ月後にかけての,社会的活動性,および意図の変化を明らかにすること,また,HAPAの要素を踏まえ,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
回復期リハ病院から自宅へ退院する患者のうち,主病名が初発の脳卒中で,活動を制限する重篤な既往症がなく,担当言語聴覚士との合議により自記式の質問紙への回答が可能と判断された患者を対象とした。
対象者の自宅に,退院から3ヵ月経過時に,随時,調査票と返信用封筒を送付した。調査票の項目は,①社会的活動性尺度(Social Activity Scale),②社会的活動実施意図尺度(Implementation Intention of Social Activity Scale),③産医大版Barthel Index自記式質問紙(以下,BI),④アクションプラン,⑤コーピングプラン,⑥タスクSE,⑦メンテナンスSEであった。退院3ヵ月後の調査に回答のあった者には,退院から6ヵ月経過時に,再度,同様の調査票を送付し回答を得た。
退院3ヵ月後と6ヵ月後の社会的活動性,および意図の比較は,対応のあるt検定,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因は,重回帰分析を用いて検討した。統計処理にはPASW(Ver.21)を使用した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
退院時に,研究の目的,方法,および協力の拒否や同意の撤回による不利益のないことを,同意説明文書を用いて説明し,同意が得られた者を対象者とした。また,本研究の実施にあたっては,協力施設倫理審査委員会(承認番号:014),および早稲田大学倫理審査委員会(承認番号:2012-254)の承認を得た。
【結果】
退院3ヵ月後,6ヵ月後の調査の両方を完遂した45名(男性29名。平均年齢±標準偏差:64.2±12.1歳)を分析対象とした。
退院3ヵ月後と6ヵ月後の社会的活動性,および意図の比較では,意図に有意差は認められなかった(t=.333,p=.740)ものの,社会的活動性は,有意に低下していた(t=2.043,p<.05)。
退院6ヵ月後の社会的活動性を従属変数,意図,BI,アクションプラン,コーピングプラン,タスクSE,メンテナンスSEを独立変数とする重回帰分析の結果,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因として,アクションプラン(β=.334,p<.05),コーピングプラン(β=.259,p<.05),タスクSE(β=.344,p<.05)が明らかとなった(調整済みR2=.758)。
【考察】
本研究の結果から,退院後の社会的活動性は低下することが明らかとなり,低下を防ぐ介入方略の必要性が示された。これまで,退院後の活動性の向上に向けた取り組みは,退院後のリハの継続やケアプランの工夫等,退院後のサポートの利用を促すものが中心であったが,本研究の結果から,アクションプラン・コーピングプランの立案や,SEの向上を促すような,患者自身への教育的介入が重要である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,回復期リハ病院退院後の社会的活動性に関連する要因を明らかにした。これは,退院後の社会的活動性向上のための介入方略開発の基礎研究となる。本研究をもとに,退院後の社会的活動性向上のための介入方略が開発されれば,退院後の社会的活動性の低下を防ぐことができる可能性がある。これは,リハの最終目標である患者のQOLの向上につながると考えられる。