[0450] 脊髄不全損傷者の歩行予後予測に関する研究
キーワード:脊髄損傷, 歩行, 予後予測
【はじめに,目的】
脊髄不全損傷者の歩行予後予測に関する先行研究は,受傷後早期の神経学的変数をもとに予測するとした報告が多い。わが国では回復期リハビリテーション制度が導入されたのに伴い,回復期病棟を含む一般リハビリテーション病院(リハ病院)を経由して自宅退院する脊髄損傷者が増加した。これらのリハ病院では,受傷直後や急性期における神経学的回復に関する情報が十分得られないことが多く,入院時点での身体及び動作能力から予後予測をする必要がある。我々は第48回日本理学療法学術大会においてリハ病院入院時点での各指標から脊髄不全損傷者の歩行予後に関わる要因を明らかにすることを目的に検討を行い,報告した。しかし前回の報告では,独自に設定した順序尺度の従属変数に対し重回帰分析を行ったため,結果の解釈が不十分であった。今回は更に症例数を増やし,分析方法についても再検討を行ったため報告する。
【方法】
対象は2001年3月から2012年12月までに当院へ入院した脊髄障害を有する者のうち,受傷から3ヶ月以内かつASIA impairment scale(AIS)C,Dの者(motor incomplete Spinal Cord Injury,以下miSCI)87名(平均年齢57.8±14.2歳,男性66名,女性21名)とした。手術目的で入院者,その他特筆すべき既往歴を有する者は除外した。
調査項目は入院時・退院時の基本情報(『年齢』『性別』『受傷原因』),疾患情報(『麻痺分類』),初期カンファレンス時点での神経学的機能(『AIS』)及び動作能力(『寝返り』『起き上がり』『座位』『立ち上がり』『立位』『Walking Index for Spinal Cord InjuryII(WISCI)』『排尿方法』『FIM運動』『FIM認知』)の計14項目をとし,診療録より後方視的に情報を抽出した。退院時の歩行自立度はSpinal Cord Independence MeasureIII(SCIM)のitem12・14を基準とし,『歩行非自立』・『屋内自立』・『屋外自立』の3群へと分類した。調査は事前に評価基準の統一を十分に図った理学療法士3名が実施した。
歩行自立度に関わる要因の分析は,まず歩行可否(非歩行自立群と歩行自立群)の判別を行った後,歩行自立群を対象として屋外歩行可否(屋内自立群と屋外自立群)の判別を行った。判別は単相関分析(spearmanの順位相関係数)及びχ2検定を用いて独立変数の絞り込みを行った上で,歩行自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析(変数減少法)にて実施した。各項目のランク付けの検者間信頼性はκ係数を用いて検討した。データ解析はSPSS(ver.20)を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:516)。
【結果】
受傷から予後予測実施日までの期間は79.3±18.9日,受傷から当院退院までの期間は188.9±53.3日であった。歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,麻痺分類・AIS・寝返り・FIM認知・WISCIが要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率88.5%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-17.688+1.756×麻痺分類+2.399×AIS+0.756×寝返り+0.159×FIM認知+0.223×WISCI)}であった。また,屋外歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,受傷年齢・立位・FIM認知が要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率86.0%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-5.766-0.08×年齢+1.739×立位+0.185×FIM認知)}であった。。
【考察】
歩行予後予測に関する先行研究は急性期病院における報告がほとんどであり,歩行獲得に関する要因として神経学的要因と年齢を挙げるものが多い。本研究においても歩行可否に関する要因として麻痺分類・AISが挙げられ,自立歩行獲得には神経学的要因が主として関係することが示唆された。一方で屋外歩行獲得の要因には年齢・認知機能が挙げられ,活動範囲を規定する要因としては認知機能を含む加齢変化の影響が大きいことが示唆された。また,両方に共通して寝返り・立位・WISCI(練習場面での歩行手段)という実際の動作能力を示す指標も要因として挙げられた。受傷後早期の急性期病院では安静度の問題から実際に動作を行い評価することは困難であるが,リハ病院では実際の動作指標を用いて歩行予後予測を可能なことが示唆された。この2つの判別式は共に判別率が80%を超えており,miSCIの歩行予後予測に有用な指標であるといえる。
【理学療法学研究としての意義】
近年増加傾向にあるmiSCIの歩行予後に関する要因を明らかにすることは,計画的かつ効率の良い介入内容の選択や退院準備を行う際に重要である。特に,近年は受傷から退院までを脊髄損傷専門病院で過ごすだけでなく,急性期病院から一般病院を経由して自宅退院を目指すケースも増加しており,受傷後ある程度経過した時点で使用可能な予後予測の指標を作成することは有用である。
脊髄不全損傷者の歩行予後予測に関する先行研究は,受傷後早期の神経学的変数をもとに予測するとした報告が多い。わが国では回復期リハビリテーション制度が導入されたのに伴い,回復期病棟を含む一般リハビリテーション病院(リハ病院)を経由して自宅退院する脊髄損傷者が増加した。これらのリハ病院では,受傷直後や急性期における神経学的回復に関する情報が十分得られないことが多く,入院時点での身体及び動作能力から予後予測をする必要がある。我々は第48回日本理学療法学術大会においてリハ病院入院時点での各指標から脊髄不全損傷者の歩行予後に関わる要因を明らかにすることを目的に検討を行い,報告した。しかし前回の報告では,独自に設定した順序尺度の従属変数に対し重回帰分析を行ったため,結果の解釈が不十分であった。今回は更に症例数を増やし,分析方法についても再検討を行ったため報告する。
【方法】
対象は2001年3月から2012年12月までに当院へ入院した脊髄障害を有する者のうち,受傷から3ヶ月以内かつASIA impairment scale(AIS)C,Dの者(motor incomplete Spinal Cord Injury,以下miSCI)87名(平均年齢57.8±14.2歳,男性66名,女性21名)とした。手術目的で入院者,その他特筆すべき既往歴を有する者は除外した。
調査項目は入院時・退院時の基本情報(『年齢』『性別』『受傷原因』),疾患情報(『麻痺分類』),初期カンファレンス時点での神経学的機能(『AIS』)及び動作能力(『寝返り』『起き上がり』『座位』『立ち上がり』『立位』『Walking Index for Spinal Cord InjuryII(WISCI)』『排尿方法』『FIM運動』『FIM認知』)の計14項目をとし,診療録より後方視的に情報を抽出した。退院時の歩行自立度はSpinal Cord Independence MeasureIII(SCIM)のitem12・14を基準とし,『歩行非自立』・『屋内自立』・『屋外自立』の3群へと分類した。調査は事前に評価基準の統一を十分に図った理学療法士3名が実施した。
歩行自立度に関わる要因の分析は,まず歩行可否(非歩行自立群と歩行自立群)の判別を行った後,歩行自立群を対象として屋外歩行可否(屋内自立群と屋外自立群)の判別を行った。判別は単相関分析(spearmanの順位相関係数)及びχ2検定を用いて独立変数の絞り込みを行った上で,歩行自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析(変数減少法)にて実施した。各項目のランク付けの検者間信頼性はκ係数を用いて検討した。データ解析はSPSS(ver.20)を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:516)。
【結果】
受傷から予後予測実施日までの期間は79.3±18.9日,受傷から当院退院までの期間は188.9±53.3日であった。歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,麻痺分類・AIS・寝返り・FIM認知・WISCIが要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率88.5%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-17.688+1.756×麻痺分類+2.399×AIS+0.756×寝返り+0.159×FIM認知+0.223×WISCI)}であった。また,屋外歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,受傷年齢・立位・FIM認知が要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率86.0%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-5.766-0.08×年齢+1.739×立位+0.185×FIM認知)}であった。。
【考察】
歩行予後予測に関する先行研究は急性期病院における報告がほとんどであり,歩行獲得に関する要因として神経学的要因と年齢を挙げるものが多い。本研究においても歩行可否に関する要因として麻痺分類・AISが挙げられ,自立歩行獲得には神経学的要因が主として関係することが示唆された。一方で屋外歩行獲得の要因には年齢・認知機能が挙げられ,活動範囲を規定する要因としては認知機能を含む加齢変化の影響が大きいことが示唆された。また,両方に共通して寝返り・立位・WISCI(練習場面での歩行手段)という実際の動作能力を示す指標も要因として挙げられた。受傷後早期の急性期病院では安静度の問題から実際に動作を行い評価することは困難であるが,リハ病院では実際の動作指標を用いて歩行予後予測を可能なことが示唆された。この2つの判別式は共に判別率が80%を超えており,miSCIの歩行予後予測に有用な指標であるといえる。
【理学療法学研究としての意義】
近年増加傾向にあるmiSCIの歩行予後に関する要因を明らかにすることは,計画的かつ効率の良い介入内容の選択や退院準備を行う際に重要である。特に,近年は受傷から退院までを脊髄損傷専門病院で過ごすだけでなく,急性期病院から一般病院を経由して自宅退院を目指すケースも増加しており,受傷後ある程度経過した時点で使用可能な予後予測の指標を作成することは有用である。