[0471] サルコペニアは食道がん患者の周術期の体組成,身体機能,健康関連QOL,身体症状に影響を与えるか
Keywords:食道がん, サルコペニア, 周術期
【はじめに】
近年,骨格筋の減少(以下,サルコペニア)は,がん患者の治療関連合併症や死亡率と関連することが報告されている。周術期に発生する体組成や身体機能,健康関連QOL,身体症状の変化に術前のサルコペニアが影響を与えると予想されるが,その関連については明らかではない。そこで本研究では,術前のサルコペニアの有無が,食道がん患者の周術期の体組成,身体機能,健康関連QOL,身体症状の変化に与える影響について検討した。
【方法】
研究デザインは前向きコホート研究である。対象者は,2011年9月から2013年9月の間に当院にて食道切除再建術を施行した患者の中で,研究参加に同意を得られ,術前後の評価が可能であった54名とした。術前と術後30日に,体組成(体重,体脂肪量,骨格筋量)と身体機能(握力,等尺性膝伸展筋力,6分間歩行),健康関連QOL(Functional Assessment of Cancer Therapy-Generalの総合得点),身体症状(Japanese version of the M.D.Anderson Symptom Inventoryの症状と日常生活障害の各得点)を評価した。サルコペニアの診断には,European Working
Group on Sarcopenia in Older Peopleによる診断基準と真田らの骨格筋指数を使用した。統計解析は,各測定変数の変化量(術後30日-術前)を求め,術前サルコペニアの有無による2群間の差をStudentのt検定を用いて比較した。統計解析ソフトJMP version8.0.1を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は神戸大学大学院保健学研究科の倫理委員会の承認を受けており,対象者には事前に本研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
対象者の中でサルコペニアに該当したものは24名(44.4%)であった。サルコペニア群(年齢69.6±8.4歳,男性18名,女性6名,clinical stage0/I/II/III/IV:1名/3名/5名/11名/4名,術前化学療法施行割合79.2%,術後在院日数50.2±34.9日)は,非サルコペニア群(年齢63.9±6.6歳,男性26名,女性4名,clinical stage0/I/II/III/IV:1名/7名/9名/11名/2名,術前化学療法施行割合70.0%,術後在院日数39.9±23.9日)に比べて,有意に高齢(p<0.01)であったが,その他の患者背景に有意差は存在しなかった。また非サルコペニア群に比べて,サルコペニア群では,術前の体重(サルコペニア群vs非サルコペニア群;51.9±7.4kg vs 63.0±9.8kg,p<0.01)と骨格筋量(14.4±2.9kg vs 19.5±3.9kg,p<0.01),握力(23.9±7.2kg vs 33.8±6.4kg,p<0.01),6分間歩行(416.9±81.8m vs 480.5±77.0m,p<0.01)が有意に低値であった。
周術期の各測定変数の変化量について,サルコペニア群では非サルコペニア群に比べて,体重(-3.0±1.7kg vs -4.5±2.0kg,p=0.01)と骨格筋量(-0.2±1.0kg vs -1.9±1.5kg,p<0.01)が有意に低下していた。その他の変数の変化量には有意差を認めなかった。
【考察】
安藤らは,60歳代の地域在住高齢者のサルコペニア有病率は,男性21.2%,女性18.3%と報告しており,本研究の対象者のサルコペニア有病率は高かった。食道がん患者では,食道通過障害による低栄養等の影響を受け,サルコペニアを発症しやすいことが示唆された。
がん患者の周術期にサルコペニアが与える影響について,Lieffersらは,術後の感染症発生率が高まり,術後回復が遅延し,術後リハビリテーションがより必要となることを報告している。一般的に,食道がんでは大腸がんに比べて過大な手術侵襲が加わるため,本研究では,術前の患者の状態が周術期の変化に影響を与えなかったと考えられる。また,術前の骨格筋量が高い患者のほうが体重や骨格筋量が低下した要因として,手術侵襲による蛋白異化亢進の影響をサルコペニア群に比べて受けやすい可能性が考えられるが,本研究でその要因を明らかにするには限界であり,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
がん治療において,周術期の合併症予防や早期離床の支援だけでなく,術後の回復促進や再発予防において我々理学療法士が担う役割は大きい。周術期の体重減少や健康関連QOLの低下は,がん患者の予後や再発と関連することが報告されており,周術期から予防策を講じていくことが重要である。本研究は,今後の予防策の構築の一助となると考える。
近年,骨格筋の減少(以下,サルコペニア)は,がん患者の治療関連合併症や死亡率と関連することが報告されている。周術期に発生する体組成や身体機能,健康関連QOL,身体症状の変化に術前のサルコペニアが影響を与えると予想されるが,その関連については明らかではない。そこで本研究では,術前のサルコペニアの有無が,食道がん患者の周術期の体組成,身体機能,健康関連QOL,身体症状の変化に与える影響について検討した。
【方法】
研究デザインは前向きコホート研究である。対象者は,2011年9月から2013年9月の間に当院にて食道切除再建術を施行した患者の中で,研究参加に同意を得られ,術前後の評価が可能であった54名とした。術前と術後30日に,体組成(体重,体脂肪量,骨格筋量)と身体機能(握力,等尺性膝伸展筋力,6分間歩行),健康関連QOL(Functional Assessment of Cancer Therapy-Generalの総合得点),身体症状(Japanese version of the M.D.Anderson Symptom Inventoryの症状と日常生活障害の各得点)を評価した。サルコペニアの診断には,European Working
Group on Sarcopenia in Older Peopleによる診断基準と真田らの骨格筋指数を使用した。統計解析は,各測定変数の変化量(術後30日-術前)を求め,術前サルコペニアの有無による2群間の差をStudentのt検定を用いて比較した。統計解析ソフトJMP version8.0.1を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は神戸大学大学院保健学研究科の倫理委員会の承認を受けており,対象者には事前に本研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
対象者の中でサルコペニアに該当したものは24名(44.4%)であった。サルコペニア群(年齢69.6±8.4歳,男性18名,女性6名,clinical stage0/I/II/III/IV:1名/3名/5名/11名/4名,術前化学療法施行割合79.2%,術後在院日数50.2±34.9日)は,非サルコペニア群(年齢63.9±6.6歳,男性26名,女性4名,clinical stage0/I/II/III/IV:1名/7名/9名/11名/2名,術前化学療法施行割合70.0%,術後在院日数39.9±23.9日)に比べて,有意に高齢(p<0.01)であったが,その他の患者背景に有意差は存在しなかった。また非サルコペニア群に比べて,サルコペニア群では,術前の体重(サルコペニア群vs非サルコペニア群;51.9±7.4kg vs 63.0±9.8kg,p<0.01)と骨格筋量(14.4±2.9kg vs 19.5±3.9kg,p<0.01),握力(23.9±7.2kg vs 33.8±6.4kg,p<0.01),6分間歩行(416.9±81.8m vs 480.5±77.0m,p<0.01)が有意に低値であった。
周術期の各測定変数の変化量について,サルコペニア群では非サルコペニア群に比べて,体重(-3.0±1.7kg vs -4.5±2.0kg,p=0.01)と骨格筋量(-0.2±1.0kg vs -1.9±1.5kg,p<0.01)が有意に低下していた。その他の変数の変化量には有意差を認めなかった。
【考察】
安藤らは,60歳代の地域在住高齢者のサルコペニア有病率は,男性21.2%,女性18.3%と報告しており,本研究の対象者のサルコペニア有病率は高かった。食道がん患者では,食道通過障害による低栄養等の影響を受け,サルコペニアを発症しやすいことが示唆された。
がん患者の周術期にサルコペニアが与える影響について,Lieffersらは,術後の感染症発生率が高まり,術後回復が遅延し,術後リハビリテーションがより必要となることを報告している。一般的に,食道がんでは大腸がんに比べて過大な手術侵襲が加わるため,本研究では,術前の患者の状態が周術期の変化に影響を与えなかったと考えられる。また,術前の骨格筋量が高い患者のほうが体重や骨格筋量が低下した要因として,手術侵襲による蛋白異化亢進の影響をサルコペニア群に比べて受けやすい可能性が考えられるが,本研究でその要因を明らかにするには限界であり,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
がん治療において,周術期の合併症予防や早期離床の支援だけでなく,術後の回復促進や再発予防において我々理学療法士が担う役割は大きい。周術期の体重減少や健康関連QOLの低下は,がん患者の予後や再発と関連することが報告されており,周術期から予防策を講じていくことが重要である。本研究は,今後の予防策の構築の一助となると考える。