第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸5

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:小幡賢吾(岡山赤十字病院リハビリテーション科)

内部障害 ポスター

[0472] 胸部食道癌患者に対する周術期管理センターの取り組みと術前理学療法の効果について

岩井賢司, 築山尚司, 太田晴之, 萩山明和, 堅山佳美, 馬崎哲朗, 千田益生 (岡山大学病院総合リハビリテーション部)

Keywords:術前理学療法, 胸郭拡張差, 患者教育

【はじめに,目的】2008年8月より医師,歯科医師,リハビリテーション医,理学療法士(以下,PT),看護師,歯科衛生士,薬剤師,管理栄養士により構成される周術期管理センター(perioperative management center:PERIO)が発足した。術前後から多職種で連携し効率的かつ効果的な集学的アプローチを行い手術療法の治療効果を最大限にすることにより,より質の高い医療を提供することを目的に運営されている。今回は,胸部食道癌を対象としてPERIO発足前後での比較検討と,PERIO発足後の術前理学療法の効果について後方視的に調査することを目的とした。
【方法】対象は2008年8月から2012年12月までに当院消化器外科にて胸部食道癌診断のもと,外科的治療を目的とし受診し,I期的食道再建手術を施行した55例(男性45例,女性10例,平均年齢65±9歳)とした。そのうち,2008年から2009年5月までに手術を行い,術後理学療法を行った15例(男性7例,女性8例,平均年齢63±8歳)を非PERIO群とし,2012年1月から2012年12月までに手術を行い,理学療法を行ったPERIO患者40例(男性38例,女性2例,平均年齢65±10歳)をPERIO群とした。非PERIO群は,術前からの介入なく術後は主治医からの指示により理学療法を開始した。PERIO群では術前外来時より多職種が介入し評価と指導を実施し,理学療法は外来時に全身状態と運動機能の把握と手術に向けて柔軟性の向上,呼吸運動,ハッフィングをパンフレットやDVDを用いながら行った。術後は翌日から理学療法を実施した。カルテから年齢,性別,身長,体重,BMI,術式,術前の肺機能検査値,抜管日数,立位開始日,術後ICU入室期間,在院日数を抽出し,非PERIO群とPERIO群で比較検討した。またPERIO群において外来時と手術直前の術前理学療法の治療効果判定として胸郭拡張差と肺機能検査値を抽出し,初回理学療法時と手術直前での比較検討を行った。対象は術前全例歩行可能である症例とし,酸素投与が必要なもの,あるいは日常生活が制限されるようなものは本研究から除外した。統計学的検討は,非PERIO群とPERIO群の比較検討はMann-Whitney’s U検定を,PERIO群における外来時と手術直前の胸郭拡張差と肺機能検査の比較検討はWilcoxon signed-ranks testを使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究,指導を行う上で患者に説明と同意を得た上で実施している。
【結果】術後の抜管日数は非PERIO群で3.2±2.4日,PERIO群で1.2±1.1日,立位開始日は非PERIO群で4.9±3.4日,PERIO群で2.0±1.2日,ICU入室期間は非PERIO群で11±5.2日,PERIO群で5.6±1.7日,在院日数は非PERIO群で43.8±13日,PERIO群で28.2±11.4日ですべてにおいてPERIO群で有意に短縮を認めた。術前理学療法の効果として,胸郭拡張差の腋窩高は初回時4.4±1.8cm,手術直前で5.0±2.0cm,剣状突起部は初回時で5.6±2.2cm,手術直前で6.1±2.2cmと両部位で初回時よりも手術直前で有意に拡大を認めた。肺機能検査の%FVC,FEV1.0%は初回時と手術直前で有意差を認めなかった。
【考察】PTの役割は,術前よりコンディショニングと呼吸器合併症の予防を,そして術後は早期離床を求められている。術前理学療法の成果として胸郭拡張差の向上を獲得できた。%FVC,FEV1.0%の改善までは至らなかったが,その要因は期間的な制約があったためと考えられる。多くの報告では手術前に心肺機能の向上を目指すことでVO2maxを増加させ術後の合併症予防に有効といわれているが,在院日数短縮が進む中ではそのような効果を得ることは難しい。在院日数の短縮が進む中,手術療法の効果を最大限にするために多職種が連携し,それぞれの専門性を生かし治療や患者教育を行っていくことが必要であり,その中でPTの役割は術前より胸郭可動性を向上,患者教育を行っていくことが術後早期離床の一助になると考えている。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果より短期間の術前理学療法による効果を客観的に数値化することは,今後の臨床における治療の効果判定につながると考える。