[0473] 当院乳癌術後リハビリテーションアルゴリズム作成における一考察
キーワード:乳癌術後, リハビリテーション, アルゴリズム
【はじめに,目的】
近年乳癌手術は縮小傾向にあり,当院でも2006年以降,センチネルリンパ節生検(以下SNB)導入に伴い,腋窩リンパ節郭清の省略が増え,術後に起因する疼痛や機能障害は減少した。しかし術式の変遷に伴い,従来の術式との回復過程に相違がみられ,術後リハビリテーション(以下リハ)も術式による対応の変化が求められている。そこで今回の目的として,各術式後の経過を調査し,術式別対応の迅速化が図れるよう,当院乳癌術後のリハアルゴリズムを試作すべく検証したので報告する。
【方法】
対象は当院外科にて2009年~2012年に乳癌手術を行った症例のうち,理学療法が処方された134例。性別は全て女性。年齢分布は23歳~92歳,平均年齢60.1(SD±14.7)歳。評価表及び経過記録より,術式別に①平均入院日数②肩関節可動域(以下肩ROM)回復率(術前肩ROMを100%とした際の退院時の回復割合)③術後初回リハ介入前後での肩ROM改善率(退院時肩ROMを100%とした際の術後初回介入時の改善割合)④術後・退院時疼痛保有者の割合⑤ドレーン抜去後平均在院日数について後方視的にデータを収集した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいた規定に遵守し,個人が特定されないように匿名化し,データの取り扱いには十分注意した。
【結果】
対象者の術式は,i群:乳房部分切除術(以下乳温)+SNBのみが60例,ii群:乳温+腋窩リンパ節レベルI以上郭清(以下郭清)が23例,iii群:胸筋温存乳房切除術(以下乳切)+SNBのみが27例,iv群:乳切+郭清が24例であった。尚,術式の分類はNational Clinical Database(NCD)を参考に実施した。下記①~⑤のデータについて特徴的な結果のみ以下に記す。①i群にて4.4日と早期に退院していた。②ii群,iv群では回復率80~90%,i群,iii群ではほぼ術前同様に回復していた。③全群で介入後に改善あり。特にi群では90%以上の改善率が得られ,初回介入にてほぼ退院時の状態まで改善していた。④鎮痛剤使用の有無に関らず,術後全群にて高い確率で疼痛を有していた。退院時でもii~iv群では50~60%が疼痛を有していた。⑤ドレーン挿入が必要なii~iv群では,抜去後2~3日での退院となっていた。
【考察】
乳癌術後の術式別傾向を調査した結果,リハ介入方法の検討点が示された。肩ROM運動については,初回リハ介入前後での肩ROM改善率に向上が得られ,各群とも術後1日目より実施する意義があると考えられた。しかし文献考察や複数の症例経過より,ドレーン留置期間中の積極的なROM運動は,諸問題を誘発する恐れがあると推察され,ドレーン挿入の有無によりROM運動内容は変化させる必要があると検証された。更に全群共に短期入院となるため,退院後の肩ROM運動方法や生活指導が必要だが,術式により指導開始時期や留意点は異なることが検証できた。また乳癌術後疼痛は身体的要因のみでなく心因的要因も大きく影響しており,多職種を含めたアセスメントのもと,更なる機能改善が図れるよう今後の課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,当院における乳癌術後リハを実施する上で,より効率的なリハ提供を可能にするものとなった。2011年版乳癌診療ガイドラインにおいて,「今後は,より明確で統一された上肢機能の評価方法と治療のプロトコールの作成が望まれる。」との一文がある。今後の諸研究により,体制の検討がなされていく事を期待しつつ,当院においても更なる体制の強化を図りたい。
近年乳癌手術は縮小傾向にあり,当院でも2006年以降,センチネルリンパ節生検(以下SNB)導入に伴い,腋窩リンパ節郭清の省略が増え,術後に起因する疼痛や機能障害は減少した。しかし術式の変遷に伴い,従来の術式との回復過程に相違がみられ,術後リハビリテーション(以下リハ)も術式による対応の変化が求められている。そこで今回の目的として,各術式後の経過を調査し,術式別対応の迅速化が図れるよう,当院乳癌術後のリハアルゴリズムを試作すべく検証したので報告する。
【方法】
対象は当院外科にて2009年~2012年に乳癌手術を行った症例のうち,理学療法が処方された134例。性別は全て女性。年齢分布は23歳~92歳,平均年齢60.1(SD±14.7)歳。評価表及び経過記録より,術式別に①平均入院日数②肩関節可動域(以下肩ROM)回復率(術前肩ROMを100%とした際の退院時の回復割合)③術後初回リハ介入前後での肩ROM改善率(退院時肩ROMを100%とした際の術後初回介入時の改善割合)④術後・退院時疼痛保有者の割合⑤ドレーン抜去後平均在院日数について後方視的にデータを収集した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいた規定に遵守し,個人が特定されないように匿名化し,データの取り扱いには十分注意した。
【結果】
対象者の術式は,i群:乳房部分切除術(以下乳温)+SNBのみが60例,ii群:乳温+腋窩リンパ節レベルI以上郭清(以下郭清)が23例,iii群:胸筋温存乳房切除術(以下乳切)+SNBのみが27例,iv群:乳切+郭清が24例であった。尚,術式の分類はNational Clinical Database(NCD)を参考に実施した。下記①~⑤のデータについて特徴的な結果のみ以下に記す。①i群にて4.4日と早期に退院していた。②ii群,iv群では回復率80~90%,i群,iii群ではほぼ術前同様に回復していた。③全群で介入後に改善あり。特にi群では90%以上の改善率が得られ,初回介入にてほぼ退院時の状態まで改善していた。④鎮痛剤使用の有無に関らず,術後全群にて高い確率で疼痛を有していた。退院時でもii~iv群では50~60%が疼痛を有していた。⑤ドレーン挿入が必要なii~iv群では,抜去後2~3日での退院となっていた。
【考察】
乳癌術後の術式別傾向を調査した結果,リハ介入方法の検討点が示された。肩ROM運動については,初回リハ介入前後での肩ROM改善率に向上が得られ,各群とも術後1日目より実施する意義があると考えられた。しかし文献考察や複数の症例経過より,ドレーン留置期間中の積極的なROM運動は,諸問題を誘発する恐れがあると推察され,ドレーン挿入の有無によりROM運動内容は変化させる必要があると検証された。更に全群共に短期入院となるため,退院後の肩ROM運動方法や生活指導が必要だが,術式により指導開始時期や留意点は異なることが検証できた。また乳癌術後疼痛は身体的要因のみでなく心因的要因も大きく影響しており,多職種を含めたアセスメントのもと,更なる機能改善が図れるよう今後の課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,当院における乳癌術後リハを実施する上で,より効率的なリハ提供を可能にするものとなった。2011年版乳癌診療ガイドラインにおいて,「今後は,より明確で統一された上肢機能の評価方法と治療のプロトコールの作成が望まれる。」との一文がある。今後の諸研究により,体制の検討がなされていく事を期待しつつ,当院においても更なる体制の強化を図りたい。