[0484] パス解析モデルを用いた勤労者における抑うつ症状に関わる諸因子の検証
Keywords:勤労者医療, うつ状態, 運動習慣
【はじめに,目的】
メンタルヘルスの不調を訴える勤労者は近年増加し,産業保健領域で大きな課題となっている。抑うつは最も有症率の高い疾患であり,医療費の増大に加え,労働の生産性低下や作業障害につながる。労働環境における抑うつ関連因子として,労働時間,睡眠状況,労働環境における心理・社会的要因,疼痛,運動習慣などが個々に報告されているが,それらを包括的に検討し,促進・緩和因子の関係性や独立性,影響度について検討した報告はない。作業関連疼痛や身体活動習慣が抑うつとの関連性が示されれば,産業保健領域におけるメンタルヘルス対策という視点でも理学療法士の活動の可能性を支持する根拠となると考える。本研究の目的は,勤労者における抑うつ症状の促進・緩和因子の関係性をモデル化し,予防方策に寄与することである。
【方法】
対象は,A社 定期健康診断を受診した勤労者354名(男性253名,平均41.9歳)とした。Self-rating Depression Scale(SDS)を用いて抑うつ症状を評価し,軽度の抑うつ性ありと判定される40点以上を抑うつ群,未満を非抑うつ群としてグループ分けした。労働条件として,深夜勤務およびVDT作業の有無を調査した。労働環境での心理・社会的要因として,仕事のやりがいをVisual Analogue Scale(VAS)を用いて聴取し,物的環境・人間関係・仕事量に対する気掛かり,およびストレスの有無を調査した。ライフスタイル関連因子として,平均的な睡眠時間,飲酒・喫煙習慣の有無を聴取した。また,International Physical Activity Questionnaireを用いて仕事中・移動中・余暇中における身体活動を聴取し,1週間に10分以上の活動がある場合を身体活動習慣有として判定した。さらに,身体活動継続への見込み感を調査する運動セルフエフィカシー尺度を測定した。慢性筋骨格系疼痛として,3週間以上続く頚部痛,肩痛,腰痛をVASにより評価した。統計解析として,対応のないt検定およびx2検定を用いて,抑うつの有無による比較を行った。単変量解析で有意な群間差がみられた変数と年齢・性別を独立変数とし,従属変数をSDSとした重回帰分析を行った。抑うつ症状と独立した関連性がみられた変数を用いて,測定項目間の関係性をモデル化した後,パス解析にて修正し,その適合性を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。実施主体施設の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
単変量解析の結果,抑うつ群は非抑うつ群に比較して,仕事のやりがいが少なく(p<0.001),物的環境(p=0.01)・人間関係(p<0.001)・仕事量(p<0.001)への気掛かり,ストレス(p<0.001),および頚部痛(p=0.04),腰痛(p=0.005)を有する割合が高く,睡眠時間が短く(p=0.02),移動中(p=0.004)および余暇中(p=0.014)の身体活動習慣を有する割合,運動セルフエフィカシーが低かった(p=0.03)。このうち,重回帰分析により,独立した抑うつ症状の関連要因として抽出されたのは,仕事のやりがい(β=-0.27),ストレス(β=0.25),睡眠時間(β=-0.15),余暇中の身体活動(β=-0.14),人間関係への気掛かり(β=0.16),年齢(β=-0.15),頚部痛(β=0.11)であった(R2=0.33)。これらの変数を用いてモデルを作成し,パス解析を実施したところ,高い適合性が得られた(x2=13.2,p=0.59,GFI=0.99,RMSEA=0.001)。人間関係への気掛かりは直接的,ならびにストレスや仕事のやりがいを介して間接的に抑うつ症状に影響を与えていた。また,余暇中の身体活動習慣は,直接的な影響とともに,頚部痛の緩和を介して間接的に抑うつ症状を緩和する効果を示した。
【考察】
抑うつ症状の関連要因はおおむね先行研究と一致する結果となり,本研究はパス解析によりそれらをモデル化し,関係性を明確に示した。作業時の動作・姿勢指導などによる作業関連疼痛の治療や予防,および個人や集団に合わせて余暇時間における身体活動を向上させることは,勤労者の抑うつ症状の予防・緩和に寄与する可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,勤労者の代表的な健康問題であるメンタルヘルスに対して,運動・動作の専門家である理学療法士の関与が有効である可能性を示唆しており,産業衛生分野への理学療法士の可能性を支持する根拠を示した点で理学療法研究としての意義を有するものと考える。
メンタルヘルスの不調を訴える勤労者は近年増加し,産業保健領域で大きな課題となっている。抑うつは最も有症率の高い疾患であり,医療費の増大に加え,労働の生産性低下や作業障害につながる。労働環境における抑うつ関連因子として,労働時間,睡眠状況,労働環境における心理・社会的要因,疼痛,運動習慣などが個々に報告されているが,それらを包括的に検討し,促進・緩和因子の関係性や独立性,影響度について検討した報告はない。作業関連疼痛や身体活動習慣が抑うつとの関連性が示されれば,産業保健領域におけるメンタルヘルス対策という視点でも理学療法士の活動の可能性を支持する根拠となると考える。本研究の目的は,勤労者における抑うつ症状の促進・緩和因子の関係性をモデル化し,予防方策に寄与することである。
【方法】
対象は,A社 定期健康診断を受診した勤労者354名(男性253名,平均41.9歳)とした。Self-rating Depression Scale(SDS)を用いて抑うつ症状を評価し,軽度の抑うつ性ありと判定される40点以上を抑うつ群,未満を非抑うつ群としてグループ分けした。労働条件として,深夜勤務およびVDT作業の有無を調査した。労働環境での心理・社会的要因として,仕事のやりがいをVisual Analogue Scale(VAS)を用いて聴取し,物的環境・人間関係・仕事量に対する気掛かり,およびストレスの有無を調査した。ライフスタイル関連因子として,平均的な睡眠時間,飲酒・喫煙習慣の有無を聴取した。また,International Physical Activity Questionnaireを用いて仕事中・移動中・余暇中における身体活動を聴取し,1週間に10分以上の活動がある場合を身体活動習慣有として判定した。さらに,身体活動継続への見込み感を調査する運動セルフエフィカシー尺度を測定した。慢性筋骨格系疼痛として,3週間以上続く頚部痛,肩痛,腰痛をVASにより評価した。統計解析として,対応のないt検定およびx2検定を用いて,抑うつの有無による比較を行った。単変量解析で有意な群間差がみられた変数と年齢・性別を独立変数とし,従属変数をSDSとした重回帰分析を行った。抑うつ症状と独立した関連性がみられた変数を用いて,測定項目間の関係性をモデル化した後,パス解析にて修正し,その適合性を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。実施主体施設の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
単変量解析の結果,抑うつ群は非抑うつ群に比較して,仕事のやりがいが少なく(p<0.001),物的環境(p=0.01)・人間関係(p<0.001)・仕事量(p<0.001)への気掛かり,ストレス(p<0.001),および頚部痛(p=0.04),腰痛(p=0.005)を有する割合が高く,睡眠時間が短く(p=0.02),移動中(p=0.004)および余暇中(p=0.014)の身体活動習慣を有する割合,運動セルフエフィカシーが低かった(p=0.03)。このうち,重回帰分析により,独立した抑うつ症状の関連要因として抽出されたのは,仕事のやりがい(β=-0.27),ストレス(β=0.25),睡眠時間(β=-0.15),余暇中の身体活動(β=-0.14),人間関係への気掛かり(β=0.16),年齢(β=-0.15),頚部痛(β=0.11)であった(R2=0.33)。これらの変数を用いてモデルを作成し,パス解析を実施したところ,高い適合性が得られた(x2=13.2,p=0.59,GFI=0.99,RMSEA=0.001)。人間関係への気掛かりは直接的,ならびにストレスや仕事のやりがいを介して間接的に抑うつ症状に影響を与えていた。また,余暇中の身体活動習慣は,直接的な影響とともに,頚部痛の緩和を介して間接的に抑うつ症状を緩和する効果を示した。
【考察】
抑うつ症状の関連要因はおおむね先行研究と一致する結果となり,本研究はパス解析によりそれらをモデル化し,関係性を明確に示した。作業時の動作・姿勢指導などによる作業関連疼痛の治療や予防,および個人や集団に合わせて余暇時間における身体活動を向上させることは,勤労者の抑うつ症状の予防・緩和に寄与する可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,勤労者の代表的な健康問題であるメンタルヘルスに対して,運動・動作の専門家である理学療法士の関与が有効である可能性を示唆しており,産業衛生分野への理学療法士の可能性を支持する根拠を示した点で理学療法研究としての意義を有するものと考える。