[0494] 人工股関節全置換術前後の解剖学的な股関節の位置変化が術後の外転筋力に及ぼす影響
Keywords:人工股関節全置換術, 股関節外転筋力, X線画像
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は,関節の疼痛を除去し,歩行能力を向上させるのに有効である。THA後の股関節外転筋力は,歩行能力改善のための重要な因子の一つであり,THA後の理学療法において積極的な筋力強化運動の対象となる。THA後の外転筋力に影響を与える因子の一つとして,femoral offset(以下FO)が挙げられ,THA後の外転筋力と術後FOとの関連性が報告されている。また,THA後のFOとTrendelenburg徴候陰性との間に関連性があり,FOはTHA後の跛行の改善にも寄与する可能性も報告されている。FOのようにTHAによるX線上の股関節の解剖学的な変化を把握する事は,術後の外転筋の回復の参考になる可能性があるが,FOは大腿骨の形状のみ反映しており,骨頭位置の変化や脚延長の程度を十分反映しているとは言い難い。そこで,今回われわれは,THA前後のX線上の股関節の解剖学的な位置変化を新たな計測方法で捉え,術前後外転筋力の変化との関連性を検討した。
【方法】
対象は2012年8月から2013年8月までに変形性股関節症に対して,THAを施行された22例24関節(男性4例,女性18例)である。手術時年齢は,48~83歳(平均65.1±11.6歳)であった。術前と術後3週時に股関節外転筋力評価とX線評価を実施した。股関節外転筋力の評価は,Hand Held Dynamometer(μTasF-1,アニマ社製)を使用し,背臥位にてセンサー部を膝関節外側上顆に当て,股関節外転0°にて3回等尺性最大筋力を測定した最大値を抽出した。股関節外転筋力は,計測した大腿長を乗じて関節トルクとし,それを体重で正規化(Nm/kg)した後,術前後の変化率(=術後/術前×100)を算出した。X線評価は,すべて両股関節の単純X線正面像を使用した。まず,先行研究を参考に大腿骨頭中心から大腿骨骨軸間の距離であるFOを計測した。次に,上前腸骨棘と大転子最上端を結ぶ線の距離を外転筋の筋長とし,大腿骨頭中心から上前腸骨棘と大転子最上端を結ぶ線に下ろした垂線の距離を外転筋のアーム長とした。体格差を考慮して,FO,筋長,アーム長のそれぞれを両側涙痕間距離にて除し,%FO,%筋長,%アーム長を算出した。さらに,筋長とアーム長の積を筋長×アーム長として算出した。%FO,%筋長,%アーム長,筋長×アーム長のそれぞれの術前後の差を算出した。解析にはPearsonの相関係数を用い,股関節外転筋力の変化率と%FO差,%筋長差,%アーム長差,筋長×アーム長差との相関関係をそれぞれ検討した(有意水準は5%)。さらに,股関節外転筋力の変化率と関係が強い単純X線画像上のパラメーターを検索するために重回帰分析をステップワイズ法にて行い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,対象者に研究目的および測定に関する説明を十分に行い,書面にて同意を得た。
【結果】
%FO差,%筋長差と股関節外転筋力の変化率の間にはそれぞれ有意な相関関係は認められなかった。%アーム長差,筋長×アーム長差と股関節外転筋力の変化率の間にはそれぞれ有意な正の相関関係を認めた。有意な相関関係を認めた項目をステップワイズ法重回帰分析の独立変数として投入すると,筋長×アーム長差のみが,股関節外転筋力の変化率を説明する変数として選択された。
【考察】
今回の検討では,THA後の外転筋力の変化率と%FO差の間に相関関係を認めなった。FOは,大腿骨内での外転筋のレバーアームの計測であり,THA前後における骨盤内での股関節の位置変化を反映しないため,外転筋力の変化率と関連性を認めなかったのではないかと考えられた。本研究で計測を試みた筋長は,中殿筋の走行と類似した線の距離であり,アーム長は大腿骨頭中心から中殿筋の走行と類似した線に下ろした垂線の距離であり,それぞれ外転筋の筋長と力学的な外転筋のてこのうでの長さに類似している。そのため,それらを乗じた値の術前後の差は,THA前後における骨盤内での股関節の位置変化により生じた外転筋の力学的な変化も含めた計測となると推察され,外転筋力の変化率と関連性を認めたのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
THA後の股関節外転筋力は,歩行能力改善のための重要な因子の一つであり,術後筋力が回復するかを予測できれば,術後の理学療法の内容や,目標設定などに大きな利点となる。本研究からTHA前後の外転筋力の変化を把握する上で,股関節の位置変化に伴う外転筋の力学的な変化も考慮する必要性が示された。THA後の股関節外転筋筋力の変化を把握する事は,THA後の理学療法において有用な情報の一つになる可能性があり,理学療法研究として意義があると考えられた。
人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は,関節の疼痛を除去し,歩行能力を向上させるのに有効である。THA後の股関節外転筋力は,歩行能力改善のための重要な因子の一つであり,THA後の理学療法において積極的な筋力強化運動の対象となる。THA後の外転筋力に影響を与える因子の一つとして,femoral offset(以下FO)が挙げられ,THA後の外転筋力と術後FOとの関連性が報告されている。また,THA後のFOとTrendelenburg徴候陰性との間に関連性があり,FOはTHA後の跛行の改善にも寄与する可能性も報告されている。FOのようにTHAによるX線上の股関節の解剖学的な変化を把握する事は,術後の外転筋の回復の参考になる可能性があるが,FOは大腿骨の形状のみ反映しており,骨頭位置の変化や脚延長の程度を十分反映しているとは言い難い。そこで,今回われわれは,THA前後のX線上の股関節の解剖学的な位置変化を新たな計測方法で捉え,術前後外転筋力の変化との関連性を検討した。
【方法】
対象は2012年8月から2013年8月までに変形性股関節症に対して,THAを施行された22例24関節(男性4例,女性18例)である。手術時年齢は,48~83歳(平均65.1±11.6歳)であった。術前と術後3週時に股関節外転筋力評価とX線評価を実施した。股関節外転筋力の評価は,Hand Held Dynamometer(μTasF-1,アニマ社製)を使用し,背臥位にてセンサー部を膝関節外側上顆に当て,股関節外転0°にて3回等尺性最大筋力を測定した最大値を抽出した。股関節外転筋力は,計測した大腿長を乗じて関節トルクとし,それを体重で正規化(Nm/kg)した後,術前後の変化率(=術後/術前×100)を算出した。X線評価は,すべて両股関節の単純X線正面像を使用した。まず,先行研究を参考に大腿骨頭中心から大腿骨骨軸間の距離であるFOを計測した。次に,上前腸骨棘と大転子最上端を結ぶ線の距離を外転筋の筋長とし,大腿骨頭中心から上前腸骨棘と大転子最上端を結ぶ線に下ろした垂線の距離を外転筋のアーム長とした。体格差を考慮して,FO,筋長,アーム長のそれぞれを両側涙痕間距離にて除し,%FO,%筋長,%アーム長を算出した。さらに,筋長とアーム長の積を筋長×アーム長として算出した。%FO,%筋長,%アーム長,筋長×アーム長のそれぞれの術前後の差を算出した。解析にはPearsonの相関係数を用い,股関節外転筋力の変化率と%FO差,%筋長差,%アーム長差,筋長×アーム長差との相関関係をそれぞれ検討した(有意水準は5%)。さらに,股関節外転筋力の変化率と関係が強い単純X線画像上のパラメーターを検索するために重回帰分析をステップワイズ法にて行い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では,対象者に研究目的および測定に関する説明を十分に行い,書面にて同意を得た。
【結果】
%FO差,%筋長差と股関節外転筋力の変化率の間にはそれぞれ有意な相関関係は認められなかった。%アーム長差,筋長×アーム長差と股関節外転筋力の変化率の間にはそれぞれ有意な正の相関関係を認めた。有意な相関関係を認めた項目をステップワイズ法重回帰分析の独立変数として投入すると,筋長×アーム長差のみが,股関節外転筋力の変化率を説明する変数として選択された。
【考察】
今回の検討では,THA後の外転筋力の変化率と%FO差の間に相関関係を認めなった。FOは,大腿骨内での外転筋のレバーアームの計測であり,THA前後における骨盤内での股関節の位置変化を反映しないため,外転筋力の変化率と関連性を認めなかったのではないかと考えられた。本研究で計測を試みた筋長は,中殿筋の走行と類似した線の距離であり,アーム長は大腿骨頭中心から中殿筋の走行と類似した線に下ろした垂線の距離であり,それぞれ外転筋の筋長と力学的な外転筋のてこのうでの長さに類似している。そのため,それらを乗じた値の術前後の差は,THA前後における骨盤内での股関節の位置変化により生じた外転筋の力学的な変化も含めた計測となると推察され,外転筋力の変化率と関連性を認めたのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
THA後の股関節外転筋力は,歩行能力改善のための重要な因子の一つであり,術後筋力が回復するかを予測できれば,術後の理学療法の内容や,目標設定などに大きな利点となる。本研究からTHA前後の外転筋力の変化を把握する上で,股関節の位置変化に伴う外転筋の力学的な変化も考慮する必要性が示された。THA後の股関節外転筋筋力の変化を把握する事は,THA後の理学療法において有用な情報の一つになる可能性があり,理学療法研究として意義があると考えられた。