[0495] THA術前・術後のバランス能力変化(第2報)
Keywords:THA, バランス, MINI-BESTest
【はじめに】
人工股関節全置換術(THA)の効果判定において,股関節機能の変化に着目した報告は多いが,バランス能力の変化についての報告は少ない。また,先行研究ではBerg Balance Scale(BBS)やFunctional Reach Test(FRT),重心動揺計による報告があるが,それらの評価ではバランス障害の問題点を明確にし,治療介入に直接結び付けるには不十分であるとの指摘もある。近年,バランス障害に特異的に介入できるようにBalance Evaluation Systems Test(BESTest)が開発され,その簡易版としてMINI-Balance Evaluation Systems Test(MINI-BESTest)が報告されている。MINI-BESTestはI.予測姿勢制御,II.姿勢反応,III.感覚適応,IV.歩行安定性の4つのセクションから構成されている。本研究は包括的なバランス能力評価法として開発されたMINI-BESTestを用いてTHAのバランス能力変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は低侵襲人工股関節全置換術(MIS-AL法THA)を施行された11名とした。(男性1名,女性10名,平均年齢68.7±5.0歳,平均在院日数19.1±4.7日)MINI-BESTest測定は手術前日(術前)と退院前日(術後),THA施行3か月後(3か月)の3回実施した。また,股関節機能評価として,筋力(MMT),可動域(ROM),疼痛(NRS)を同時に測定した。
術前と比較し3か月でMINI-BESTest総合得点が改善した6例を改善群,低下した5例を低下群とした。改善群,低下群ともにMINI-BESTest各セクション得点,股関節機能評価項目において術前,術後,3か月で差があるかを反復測定分散分析および多重比較(Tukey法)を用いて分析した。有意水準はいずれも5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当センター倫理委員会の承認を受けた(承認番号H24-24)。対象者には書面にて説明し,同意を得られた者のみ実施した。
【結果】
MINI-BESTest得点は(以下,術前/術後/3か月)改善群でI:4.3(±0.94)/3.8(±1.34)/5(±0.81),II:2.8(±1.07)/2.3(±2.05)/4.5(±1.71),III:5.7(±0.75)/5.6(±0.75)/5.8(±0.37),IV:6.0(±2.31)/5.5(±2.63)/8.7(±1.11),合計:18.8(±3.89)/17.3(±5.62)/24.0(±2.83)であった。低下群はI:4.4(±1.02)/3.6(±1.5)/4.2(±0.4),II:3.8(±0.75)/4.2(±1.6)/3.6(±1.36),III:6.0(±0)/5.6(±0.8)/5.2(±0.75),IV:8.0(±1.26)/6.8(±2.71)/7.0(±0.63),合計:22.2(±1.47)/21.0(±5.33)/20.0(±2.19)であった。改善群のセクションIIとIVにおいて有意差を認め,多重比較法による分析の結果,術後と3か月後の間に有意差を認めた。低下群においてはすべてのセクションで有意差を認めなかった。股関節伸展のROM(°)は改善群で-0.8/5.8/13.3,低下群は1.0/4.0/9.0であった。股関節伸展MMTでは改善群で2.7/2.8/3.7,低下群で3.0/3.0/3.6であった。改善群では股関節伸展のROMとMMTに有意差を認め,低下群では股関節伸展に有意差を認めた。他の項目には有意差はなかった。
【考察】
MINI-BESTest得点を比較すると,改善群だけにセクションIIとIVに有意差を認めた。セクションIIはステップ反応,セクションIVは歩行能力を評価する項目であり,術側股関節機能に何らかの差が生じ,バランス能力の改善群と低下群に分けているのではないかと考えた。そこで,立位・歩行に影響を与える可能の高い股関節機能について検定と分析を行った。結果は股関節伸展のROMは両群ともに改善するが,MMTは改善群のみ有意差を認めた。先行研究によりTHA患者の股関節伸展可動域の減少が円滑な重心移動の阻害要因となることが報告されている。本研究では,THAにより可動域制限の主要因である骨の器質的な問題点が改善されることで関節の自由度は戻るが,関節運動を制御する筋力に改善が得られない群では3か月後に術前までのバランス能力に戻っていないことが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
THA術後のバランス能力には,股関節伸展筋力の改善が重要であることが示唆された。このことは,THA術後の理学療法プログラム立案の一助となると考える。
人工股関節全置換術(THA)の効果判定において,股関節機能の変化に着目した報告は多いが,バランス能力の変化についての報告は少ない。また,先行研究ではBerg Balance Scale(BBS)やFunctional Reach Test(FRT),重心動揺計による報告があるが,それらの評価ではバランス障害の問題点を明確にし,治療介入に直接結び付けるには不十分であるとの指摘もある。近年,バランス障害に特異的に介入できるようにBalance Evaluation Systems Test(BESTest)が開発され,その簡易版としてMINI-Balance Evaluation Systems Test(MINI-BESTest)が報告されている。MINI-BESTestはI.予測姿勢制御,II.姿勢反応,III.感覚適応,IV.歩行安定性の4つのセクションから構成されている。本研究は包括的なバランス能力評価法として開発されたMINI-BESTestを用いてTHAのバランス能力変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は低侵襲人工股関節全置換術(MIS-AL法THA)を施行された11名とした。(男性1名,女性10名,平均年齢68.7±5.0歳,平均在院日数19.1±4.7日)MINI-BESTest測定は手術前日(術前)と退院前日(術後),THA施行3か月後(3か月)の3回実施した。また,股関節機能評価として,筋力(MMT),可動域(ROM),疼痛(NRS)を同時に測定した。
術前と比較し3か月でMINI-BESTest総合得点が改善した6例を改善群,低下した5例を低下群とした。改善群,低下群ともにMINI-BESTest各セクション得点,股関節機能評価項目において術前,術後,3か月で差があるかを反復測定分散分析および多重比較(Tukey法)を用いて分析した。有意水準はいずれも5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当センター倫理委員会の承認を受けた(承認番号H24-24)。対象者には書面にて説明し,同意を得られた者のみ実施した。
【結果】
MINI-BESTest得点は(以下,術前/術後/3か月)改善群でI:4.3(±0.94)/3.8(±1.34)/5(±0.81),II:2.8(±1.07)/2.3(±2.05)/4.5(±1.71),III:5.7(±0.75)/5.6(±0.75)/5.8(±0.37),IV:6.0(±2.31)/5.5(±2.63)/8.7(±1.11),合計:18.8(±3.89)/17.3(±5.62)/24.0(±2.83)であった。低下群はI:4.4(±1.02)/3.6(±1.5)/4.2(±0.4),II:3.8(±0.75)/4.2(±1.6)/3.6(±1.36),III:6.0(±0)/5.6(±0.8)/5.2(±0.75),IV:8.0(±1.26)/6.8(±2.71)/7.0(±0.63),合計:22.2(±1.47)/21.0(±5.33)/20.0(±2.19)であった。改善群のセクションIIとIVにおいて有意差を認め,多重比較法による分析の結果,術後と3か月後の間に有意差を認めた。低下群においてはすべてのセクションで有意差を認めなかった。股関節伸展のROM(°)は改善群で-0.8/5.8/13.3,低下群は1.0/4.0/9.0であった。股関節伸展MMTでは改善群で2.7/2.8/3.7,低下群で3.0/3.0/3.6であった。改善群では股関節伸展のROMとMMTに有意差を認め,低下群では股関節伸展に有意差を認めた。他の項目には有意差はなかった。
【考察】
MINI-BESTest得点を比較すると,改善群だけにセクションIIとIVに有意差を認めた。セクションIIはステップ反応,セクションIVは歩行能力を評価する項目であり,術側股関節機能に何らかの差が生じ,バランス能力の改善群と低下群に分けているのではないかと考えた。そこで,立位・歩行に影響を与える可能の高い股関節機能について検定と分析を行った。結果は股関節伸展のROMは両群ともに改善するが,MMTは改善群のみ有意差を認めた。先行研究によりTHA患者の股関節伸展可動域の減少が円滑な重心移動の阻害要因となることが報告されている。本研究では,THAにより可動域制限の主要因である骨の器質的な問題点が改善されることで関節の自由度は戻るが,関節運動を制御する筋力に改善が得られない群では3か月後に術前までのバランス能力に戻っていないことが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
THA術後のバランス能力には,股関節伸展筋力の改善が重要であることが示唆された。このことは,THA術後の理学療法プログラム立案の一助となると考える。