第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節10

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (運動器)

座長:川上榮一(同愛記念病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0496] 関節固定術後の人工股関節全置換術を施行した1症例―股関節外転筋力と歩行能力に着目して―

三木麻梨子1, 宗本充2, 堀川博誠3, 北村哲郎1, 尾崎由美1, 田中秀和1, 仲井人士1, 東和成1, 築山義貴1, 井上良太1, 冨田直哉1, 山田修平1, 岩﨑竜太1, 九野里実沙1, 永倉豊1 (1.奈良県立医科大学附属病院医療技術センターリハビリテーション係, 2.奈良県立医科大学整形外科学教室, 3.奈良県立医科大学中央リハビリテーション部)

Keywords:関節固定, 人工股関節全置換術, 股関節外転筋力

【はじめに,目的】
股関節固定術は変形性股関節症に対し若年者で関節温存術,人工股関節全置換術が適応外と考えられる場合に適応となり得ると言われており,長期間の除痛や活動性の向上を目的に行われてきた。しかし,股関節固定術では日常生活動作制限や隣接関節への影響があると言われている。そのような症例に対し人工股関節全置換術が行われてきた。強直股に対する人工股関節全置換術において術前・術後の杖の使用の有無やトレンデレンブルグ徴候の有無に関する歩行能力の報告や股関節外転筋力は2年以上向上し続けるという報告がある。しかし,術後の歩行や筋力に関して客観的な評価を用いた報告は少ない。今回,先天性股関節脱臼に対し股関節固定術施行し,50年間の固定期間を経て人工股関節全置換術を施行した症例を経験したため報告する。
【方法】
症例は66歳女性。身長150cm,体重50.8kg,BMI22。先天性股関節脱臼により左股関節に疼痛生じていたため15歳時に左股関節固定術を施行,今回左人工股関節全置換術を施行した。主訴は爪が切れない,長座位がとれないことであった。術前より理学療法開始した。術後6日目より理学療法再開し,術後11日目より患肢10kg荷重開始した。術後18日目より1/3荷重,術後4週目より1/2荷重開始であった。術後4週で自宅退院し,術後7週目より片松葉杖歩行開始,術後8週目より杖歩行開始,術後10週より独歩開始した。股関節外転筋力は等尺性筋力計μ-tas F-1(ANIMA社)を用いて背臥位で固定用ベルトを使用し測定を行った。歩行は10m歩行速度を快適歩行速度で測定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院規定の書面にて診療情報を研究活動へ用いることに対して同意を得ていることを確認した後,ヘルシンキ宣言に基づき,症例に研究の主旨を説明し同意を得た上で計測を行った。
【結果】
股関節外転筋力の推移は術後4週10.8kgf/4.9kgf,術後8週12.2kgf/7.2kgf,術後10週14.4kgf/9.2kgf,術後16週13.4kgf/9.6kgf,術後25週15.3kgf/7.8kgf,術後36週12kgf/8.1kgfであった。歩行能力について術前は独歩で8.64秒15歩であった。杖歩行における10m歩行速度は術後10週で14.76秒24歩,術後16週で8.61秒19歩であった。独歩における10m歩行速度は術後15週で14.6秒26歩から術後25週で7.69秒29歩,術後36週で7.64秒21歩であった。歩容は独歩開始時に強いデュシャンヌ徴候が認められたが,術後36週の時点で杖歩行ではデュシャンヌ徴候は認められず,独歩では開始時と比較して軽減している。
【考察】
本症例は50年間の股関節固定の後,人工股関節全置換術を施行した。今回の手術で股関節可動域の獲得により主訴であった長座位や爪切り動作が可能となり日常生活動作の改善が認められた。一方で股関節外転筋筋力は4週から16週にかけて向上し,16週以降変化が見られないことがわかる。Kilgusらによると股関節固定術後の人工股関節は股関節外転筋力の回復に時間を要し,2年以上向上し続けると言われている。本症例は股関節形成不全に伴う筋肉の形成不全に加えて手術侵襲,長期の固定による中殿筋の萎縮が考えられ,16週以降に筋力の向上に変化が見られない要因と考えられる。歩行は独歩での歩行速度は15週から25週にかけて改善し,25週から36週にかけて歩数が減少していることがわかる。Hamadoucheらによると術後の歩行能力は股関節外転筋特に中殿筋に依存すると言われている。しかし,本症例は16週目以降股関節外転筋力に変化はないものの歩行能力は向上していることがわかる。これは初期の股関節外転筋力の向上に加えて,歩行練習という刺激により股関節外転筋が賦活され,歩行能力が向上することが示唆されたと考えられる。今後,Kilgusらの報告からも今後股関節外転筋力は向上する可能性がありそれに伴い歩行能力が向上すると考えられ,継続した評価が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
50年間の固定期間を経て人工股関節全置換術を施行した症例の経過を報告した。先行文献では固定術後の人工股関節に関して筋力と歩行能力に関する報告は少なく,その回復の経過は今後同様の症例の治療において参考になると考えた。