[0497] 変形性股関節症に罹患して人工股関節置換術を受けた患者の身体機能および活動に術後の運動介入が及ぼす影響
キーワード:人工股関節置換術, 身体機能, メタアナリシス
【はじめに,目的】
人工股関節置換術(以下,THA)は,変形性股関節症(以下,股OA)患者の治療方法の一つである。梅原ら(2013)は,股OAに罹患してTHAを受けた患者の在院日数は,術後の通常のリハビリテーションプログラム(以下,リハプログラム)に追加された運動介入により短縮することを報告している。在院日数の短縮には杖歩行獲得日数が影響し(石原,2010),杖歩行獲得には身体機能や活動の改善が必要と考えられる。先行研究のメタアナリシスでは身体機能や活動に運動介入が及ぼす影響が検討されているが,一次研究がランダム化比較試験(以下,RCT)以外であることや介入方法が運動以外であるといった問題があり,運動介入による真の効果とは言い難い。そこで,本研究の目的は,RCTに限定してメタアナリシスを行い,股OAに罹患してTHAを受けた患者の術後の運動介入が身体機能や活動に及ぼす影響を検討することとした。
【方法】
文献検索に使用した電子データベースは,PubMed,PEDro,CINAHL,CENTRALであった。また,電子データベースの検索に加えて,論文を網羅的に収集するためにハンドサーチを行った。文献の組み入れ基準は以下のとおりとした;(1)研究デザインがRCTである,(2)対象者は股OAによりTHAを施行している,(3)介入手段が運動であり術後1ヶ月以内に運動が開始されている,(4)アウトカムに身体機能または活動が含まれている,(5)言語が英語である。同じアウトカムを測定していた論文が複数あり,かつ数値データを入手できた論文をメタアナリシスの対象とした。データはRevMan5を用いて統合され,異質性の判定指標にはI2を使用し,効果量として標準化平均値差(以下,SMD)を算出した。
【結果】
検索の結果,最終的に22編の論文を抽出した。22編のうち,メタアナリシスに必要な統計量の記載があった論文は8編であった。8編が扱っていた介入内容は,早期運動介入が2編,術後の通常のリハプログラムに追加された運動介入が6編であった。8編の論文が扱っていたアウトカムは,疼痛(2編),股関節外転筋の筋力(3編),最大酸素摂取量(2編),歩行率(2編),歩行速度(2編)であった。なお,早期運動介入による効果は疼痛についてのみ検討されていた。統合の結果,有意な効果を認めなかったアウトカムは,疼痛[SMD:0.03,95%信頼区間:-0.21~0.26,I2:0%],歩行速度[0.39,-0.03~0.81,40%]であった。一方,有意な効果を認めたアウトカムは,股関節外転筋の筋力[0.90,0.39~1.41,38%],最大酸素摂取量[2.33,0.03~4.63,0%],歩行率[1.28,0.64~1.91,0%]であった。股関節外転筋の筋力に有意な効果を認めた3編の一次研究では,股関節を中心とした筋力増強運動,関節可動域運動(以下,ROM ex),あるいは日常生活動作練習など,運動介入の内容は一貫していなかった。最大酸素摂取量に有意な効果を認めた2編の一次研究の運動介入には,上肢あるいは下肢エルゴメーターが含まれていた。歩行率に有意な効果を認めた2編の一次研究では,股関節を中心とした筋力増強運動,ROM exや有酸素運動が実施されていた。
【考察】
統合の結果,運動介入の内容により統計学的にさらなる有意な改善が示されたアウトカムは,股関節外転筋の筋力,最大酸素摂取量および歩行率であった。股関節外転の筋力について,統合結果は中等度の異質性を示し(I2=38%),そのうえ一次研究の介入内容には一貫性がなかった。運動内容の特性は不明のままであるが,術後の通常のリハプログラムに運動介入を追加して工夫することで,股関節外転筋の筋力は増強できるというエビデンスが本研究によって明らかにされた。最大酸素摂取量に有意な効果を認め,かつ効果量の統計学的異質性は検出されなかった2編の一次研究の運動介入には,エルゴメーターを使用した有酸素運動という共通点が認められた。ただし,これらエルゴメーターは上肢用あるいは下肢用であり,研究間で使用方法は一致していなかった。このことから,最大酸素摂取量の改善には,術後のリハプログラムにエルゴメーターを使用した有酸素運動を追加することが効果的であると考えられる。歩行率に有意な効果を与えた一次研究の運動介入の共通点は,股関節を中心とした筋力増強運動やROM exであった。運動の方向や頻度までは一致していなかったが,統合された効果量の異質性は検出されなかった。このことから,歩行率の改善には,少なくとも筋力増強運動やROM exを術後の通常のリハプログラムに追加する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後に行われる通常のリハプログラムに特定の運動を追加することで,股関節外転筋の筋力,最大酸素摂取量,および歩行率はより改善されるという科学的根拠を示した。
人工股関節置換術(以下,THA)は,変形性股関節症(以下,股OA)患者の治療方法の一つである。梅原ら(2013)は,股OAに罹患してTHAを受けた患者の在院日数は,術後の通常のリハビリテーションプログラム(以下,リハプログラム)に追加された運動介入により短縮することを報告している。在院日数の短縮には杖歩行獲得日数が影響し(石原,2010),杖歩行獲得には身体機能や活動の改善が必要と考えられる。先行研究のメタアナリシスでは身体機能や活動に運動介入が及ぼす影響が検討されているが,一次研究がランダム化比較試験(以下,RCT)以外であることや介入方法が運動以外であるといった問題があり,運動介入による真の効果とは言い難い。そこで,本研究の目的は,RCTに限定してメタアナリシスを行い,股OAに罹患してTHAを受けた患者の術後の運動介入が身体機能や活動に及ぼす影響を検討することとした。
【方法】
文献検索に使用した電子データベースは,PubMed,PEDro,CINAHL,CENTRALであった。また,電子データベースの検索に加えて,論文を網羅的に収集するためにハンドサーチを行った。文献の組み入れ基準は以下のとおりとした;(1)研究デザインがRCTである,(2)対象者は股OAによりTHAを施行している,(3)介入手段が運動であり術後1ヶ月以内に運動が開始されている,(4)アウトカムに身体機能または活動が含まれている,(5)言語が英語である。同じアウトカムを測定していた論文が複数あり,かつ数値データを入手できた論文をメタアナリシスの対象とした。データはRevMan5を用いて統合され,異質性の判定指標にはI2を使用し,効果量として標準化平均値差(以下,SMD)を算出した。
【結果】
検索の結果,最終的に22編の論文を抽出した。22編のうち,メタアナリシスに必要な統計量の記載があった論文は8編であった。8編が扱っていた介入内容は,早期運動介入が2編,術後の通常のリハプログラムに追加された運動介入が6編であった。8編の論文が扱っていたアウトカムは,疼痛(2編),股関節外転筋の筋力(3編),最大酸素摂取量(2編),歩行率(2編),歩行速度(2編)であった。なお,早期運動介入による効果は疼痛についてのみ検討されていた。統合の結果,有意な効果を認めなかったアウトカムは,疼痛[SMD:0.03,95%信頼区間:-0.21~0.26,I2:0%],歩行速度[0.39,-0.03~0.81,40%]であった。一方,有意な効果を認めたアウトカムは,股関節外転筋の筋力[0.90,0.39~1.41,38%],最大酸素摂取量[2.33,0.03~4.63,0%],歩行率[1.28,0.64~1.91,0%]であった。股関節外転筋の筋力に有意な効果を認めた3編の一次研究では,股関節を中心とした筋力増強運動,関節可動域運動(以下,ROM ex),あるいは日常生活動作練習など,運動介入の内容は一貫していなかった。最大酸素摂取量に有意な効果を認めた2編の一次研究の運動介入には,上肢あるいは下肢エルゴメーターが含まれていた。歩行率に有意な効果を認めた2編の一次研究では,股関節を中心とした筋力増強運動,ROM exや有酸素運動が実施されていた。
【考察】
統合の結果,運動介入の内容により統計学的にさらなる有意な改善が示されたアウトカムは,股関節外転筋の筋力,最大酸素摂取量および歩行率であった。股関節外転の筋力について,統合結果は中等度の異質性を示し(I2=38%),そのうえ一次研究の介入内容には一貫性がなかった。運動内容の特性は不明のままであるが,術後の通常のリハプログラムに運動介入を追加して工夫することで,股関節外転筋の筋力は増強できるというエビデンスが本研究によって明らかにされた。最大酸素摂取量に有意な効果を認め,かつ効果量の統計学的異質性は検出されなかった2編の一次研究の運動介入には,エルゴメーターを使用した有酸素運動という共通点が認められた。ただし,これらエルゴメーターは上肢用あるいは下肢用であり,研究間で使用方法は一致していなかった。このことから,最大酸素摂取量の改善には,術後のリハプログラムにエルゴメーターを使用した有酸素運動を追加することが効果的であると考えられる。歩行率に有意な効果を与えた一次研究の運動介入の共通点は,股関節を中心とした筋力増強運動やROM exであった。運動の方向や頻度までは一致していなかったが,統合された効果量の異質性は検出されなかった。このことから,歩行率の改善には,少なくとも筋力増強運動やROM exを術後の通常のリハプログラムに追加する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後に行われる通常のリハプログラムに特定の運動を追加することで,股関節外転筋の筋力,最大酸素摂取量,および歩行率はより改善されるという科学的根拠を示した。