[0506] 感覚障害が慢性期脳卒中後片麻痺患者に対する低頻度反復性経頭蓋磁気刺激と集中的作業療法の併用療法の治療効果に与える影響
キーワード:脳卒中, 経頭蓋磁気刺激, 感覚障害
【目的】
当院では慢性期脳卒中後片麻痺患者を対象に,低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下低頻度rTMS)と集中的作業療法を15日間併用するNEURO-15(NovEl Intervention Using Repetitive TMS and Intensive Occupational Therapy-15 Days Protocol)を行っている。現在,NEURO-15実施後に脳卒中後の上肢麻痺の回復が促されたとの報告が散見されているが,これまでのNEURO-15の報告の中で感覚障害が治療効果に与える影響を検討したものは少ない。本研究は感覚障害がNEURO-15の治療効果に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2010年10月26日から2013年8月23日までに当院でNEURO-15を実施した脳卒中後片麻痺患者のうち,上肢と手指のBrunnstrom stageが4から5であった55名(平均年齢63±10歳,男性38名,女性17名,発症後経過月数13~201ヵ月)とした。対象に対して1Hz,20分間(1200発)の健側大脳への低頻度rTMS,60分間の個別リハビリテーション(以下個別リハ),60分間の自主トレーニングからなるセッションを15日間の入院期間中に計21セッション行った。評価項目として,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS),Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF),Fugl-meyer Assessment,Wolf Motor Function Test,筋緊張評価として改訂Ashworthスケールを用いた。対象をSIASの下位項目である上肢触覚と位置覚に基づいて,感覚障害が認められなかった群をA群(22名),感覚障害が認められた群をB群(33名)に分類した。さらにB群を触覚のみに低下が認められた群をB1群(14名),触覚と位置覚ともに低下が認められた群をB2群(18名)に分類した。位置覚のみの低下は1名と少数だったため除外した。各群の全評価項目について入院時と退院時の変化量を算出し,A群とB群の2群間とA群,B1群,B2群の3群間における変化量の差異を検討した。2群間における変化量の比較はMann-Whitneyの検定,3群間における比較にKruskal-Wallis検定を行い,多重比較にはScheffeの方法を使用した。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
全対象者には治療の説明とともに,研究内容を説明し同意を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
全対象者が副作用なくNEURO-15を完遂した。A群とB群の2群間における変化量の比較では,STEFのみに有意差が認められた(p<0.05)。3群間における変化量の比較においても,STEFのみに有意差が認められ(p<0.01),各群の比較ではA群とB2群(p<0.01),B1群とB2群(p<0.05)において有意差が認められた。その他の評価項目においては有意な差は認められなかった。
【考察】
感覚障害によりNEURO-15の治療効果に影響があることが示唆された。2群間,3群間の比較はともに上肢の巧緻性や動きの速さを評価する検査であるSTEFにおいてのみ有意差が認められたことから,感覚障害は上肢運動機能,特に手指巧緻性の改善に影響していると考える。さらに各群の比較では,A群とB1群の変化量との間に有意差はなく,B2群はA群とB1群との間において有意差が認められたことから,NEURO-15の治療効果には感覚障害の中でも特に位置覚が手指巧緻性の改善に影響を与えていることが示唆された。今後は,感覚障害の重症度別の検討や対象者,評価法などのさらなる検討が必要と思われる。また,感覚障害を有する症例に対してrTMSを施行する際の刺激部位や強度等の検討や,個別リハでのアプローチ方法の検討も必要と思われる。
【理学療法研究としての意義】
感覚障害は脳卒中後片麻痺患者に対するNEURO-15の治療効果に影響することが示唆された。麻痺側上肢の運動麻痺に感覚障害を合併する症例は多く,今後は感覚障害に対して,rTMSの施行方法や個別リハでのアプローチ方法を検討する必要があると考える。
当院では慢性期脳卒中後片麻痺患者を対象に,低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下低頻度rTMS)と集中的作業療法を15日間併用するNEURO-15(NovEl Intervention Using Repetitive TMS and Intensive Occupational Therapy-15 Days Protocol)を行っている。現在,NEURO-15実施後に脳卒中後の上肢麻痺の回復が促されたとの報告が散見されているが,これまでのNEURO-15の報告の中で感覚障害が治療効果に与える影響を検討したものは少ない。本研究は感覚障害がNEURO-15の治療効果に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2010年10月26日から2013年8月23日までに当院でNEURO-15を実施した脳卒中後片麻痺患者のうち,上肢と手指のBrunnstrom stageが4から5であった55名(平均年齢63±10歳,男性38名,女性17名,発症後経過月数13~201ヵ月)とした。対象に対して1Hz,20分間(1200発)の健側大脳への低頻度rTMS,60分間の個別リハビリテーション(以下個別リハ),60分間の自主トレーニングからなるセッションを15日間の入院期間中に計21セッション行った。評価項目として,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS),Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF),Fugl-meyer Assessment,Wolf Motor Function Test,筋緊張評価として改訂Ashworthスケールを用いた。対象をSIASの下位項目である上肢触覚と位置覚に基づいて,感覚障害が認められなかった群をA群(22名),感覚障害が認められた群をB群(33名)に分類した。さらにB群を触覚のみに低下が認められた群をB1群(14名),触覚と位置覚ともに低下が認められた群をB2群(18名)に分類した。位置覚のみの低下は1名と少数だったため除外した。各群の全評価項目について入院時と退院時の変化量を算出し,A群とB群の2群間とA群,B1群,B2群の3群間における変化量の差異を検討した。2群間における変化量の比較はMann-Whitneyの検定,3群間における比較にKruskal-Wallis検定を行い,多重比較にはScheffeの方法を使用した。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
全対象者には治療の説明とともに,研究内容を説明し同意を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
全対象者が副作用なくNEURO-15を完遂した。A群とB群の2群間における変化量の比較では,STEFのみに有意差が認められた(p<0.05)。3群間における変化量の比較においても,STEFのみに有意差が認められ(p<0.01),各群の比較ではA群とB2群(p<0.01),B1群とB2群(p<0.05)において有意差が認められた。その他の評価項目においては有意な差は認められなかった。
【考察】
感覚障害によりNEURO-15の治療効果に影響があることが示唆された。2群間,3群間の比較はともに上肢の巧緻性や動きの速さを評価する検査であるSTEFにおいてのみ有意差が認められたことから,感覚障害は上肢運動機能,特に手指巧緻性の改善に影響していると考える。さらに各群の比較では,A群とB1群の変化量との間に有意差はなく,B2群はA群とB1群との間において有意差が認められたことから,NEURO-15の治療効果には感覚障害の中でも特に位置覚が手指巧緻性の改善に影響を与えていることが示唆された。今後は,感覚障害の重症度別の検討や対象者,評価法などのさらなる検討が必要と思われる。また,感覚障害を有する症例に対してrTMSを施行する際の刺激部位や強度等の検討や,個別リハでのアプローチ方法の検討も必要と思われる。
【理学療法研究としての意義】
感覚障害は脳卒中後片麻痺患者に対するNEURO-15の治療効果に影響することが示唆された。麻痺側上肢の運動麻痺に感覚障害を合併する症例は多く,今後は感覚障害に対して,rTMSの施行方法や個別リハでのアプローチ方法を検討する必要があると考える。