[0509] 消化器外科術後患者のせん妄と離床進行程度との関係
キーワード:せん妄, 周術期理学療法, 早期離床
【はじめに,目的】集中治療領域でのせん妄は独立した予後決定因子とされ,全身管理をしていく上で極めて重要な合併症とされている。せん妄を発症した場合には医療・看護ケアの妨げになる上に,患者自身が傷付く危険性もある。一方,挿管人工呼吸管理中の患者であっても,理学療法介入によりせん妄を抑制したと報告されている。しかし,外科手術後のせん妄発症と理学療法士による離床介入の関連性についての報告は少なく,また確立したせん妄の評価法を用いた報告は皆無である。そこで本研究の目的は,消化器外科術後患者のせん妄の発症と手術後の離床進行状況の関連性を検討する事である。
【方法】対象は当院外科にて消化器外科を実施予定である患者を募集した。
理学療法介入は,術前は評価と術後離床の意義・重要性について,疼痛コントロールについて,呼吸法指導,排痰法指導(Active Cycle Breathing technique,咳嗽時疼痛軽減法),起居動作指導,術後離床スケジュールの説明など指導を中心に実施した。術後は1日からはヘッドアップ位での深呼吸練習,排痰訓練を中心に実施した。2日以降はクリニカルパスに合わせ離床を中心に実施し,歩行自立するまでは2回/日の頻度で介入した。歩行自立した後は評価,指導を中心に介入した。
調査項目はPrimary Outcomeをせん妄発症の有無,発症までの期間とした。せん妄の評価はConfusion Assessment Methods for the ICU(CAM-ICU)を用いて術後7日まで実施した。Secondary Outcomeを離床状況とし,術後離床開始までの期間,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間をそれぞれ記録した。せん妄の関連因子とされる以下の項目についても調査した。術前項目は年齢,性別,Body Mass Index(BMI),全身状態(ASA Physical Status:ASA-PS),術前併存症(Charlson Comorbidity Index:CCI),認知機能(Mini Mental State Examination:MMSE),精神症状(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADs),日常生活活動(Barthel Index:BI)とした。術中項目は麻酔時間,手術時間,術中出血量。術後項目は鎮痛用麻薬(フェンタニル)総投与量とした。また,術後在院日数についても調査した。
検討方法は,せん妄の発症数と発症率を算出した。せん妄群,非せん妄群の2群に分け,離床進行状況を含め,各指標を両群間で比較した。
統計解析は,せん妄群と非せん妄群の2群間の比較を,各指標を尺度のタイプ別に対応のないt検定,マンホイットニーのU検定,χ二乗検定を用いて検討した。危険率は有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会より認証された(平成24年度第139号)。対象症例にはエントリー前に口頭および紙面にて説明し,同意を得た。
【結果】エントリーされた対象症例は66例であった。除外症例は手術前に16例(拒否7例,術前歩行能力低下6例,評価法理解不能2例,手術中止1例),手術後に7例(術後状態悪化4例,術後安静度変更2例,術後転科1例)あり,抽出された対象は43例(平均年齢74.6±6.8歳,男性33例,女性10例)であった。せん妄の発症数は43例中3例(発症率7.0%)であった。発症までの期間は,術後1日が2例,術後4日が1例であった。離床進行状況は,離床開始までの期間は両群とも2.0±0.0日と差は認めなかったが,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間はせん妄群が非せん妄群に比べ有意に延長した(2.7±0.6日vs. 2.0±0.0日;p<0.01,4.7±2.9日vs. 2.7±1.1日;p=0.02)。また両群における各因子の比較ではCCIがせん妄群で有意に高かった(6.3±1.5vs. 4.4±1.9;p=0.03)。その他の各指標では両群間に有意な差は認めなかった。
【考察】せん妄発生率は7.0%と低値を示した。発症までの期間が術後1日に集中し,術後2日,3日には認めなかった。本研究で結果は先行研究と比較しても明らかにせん妄発症率が低値である。これは術後1日からヘッドアップまでの制限内でも積極的に介入した事,術後2日から離床を確実に進めた事が発症率に影響を与えたかもしれない。
離床進行状況では歩行開始までの期間,歩行自立までの期間がせん妄群において有意に延長した。これは,せん妄が離床の阻害因子となった為と考える。
本研究におけるせん妄の関連因子ではCCIのみせん妄群で有意に高い値を示した。これは,せん妄群の方が身体的予備能が劣っている事を示しており,さらに外科的ストレスが加わる事でせん妄を発症しやすい状態であったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】周手術期理学療法介入下での高齢開腹術後患者の術後せん妄の発生状況を調査した。せん妄発症数は43例中3例(7.0%)と先行研究に比べ非常に少なかった。周術期における計画的な理学療法介入はせん妄の発症を予防するかもしれない。
【方法】対象は当院外科にて消化器外科を実施予定である患者を募集した。
理学療法介入は,術前は評価と術後離床の意義・重要性について,疼痛コントロールについて,呼吸法指導,排痰法指導(Active Cycle Breathing technique,咳嗽時疼痛軽減法),起居動作指導,術後離床スケジュールの説明など指導を中心に実施した。術後は1日からはヘッドアップ位での深呼吸練習,排痰訓練を中心に実施した。2日以降はクリニカルパスに合わせ離床を中心に実施し,歩行自立するまでは2回/日の頻度で介入した。歩行自立した後は評価,指導を中心に介入した。
調査項目はPrimary Outcomeをせん妄発症の有無,発症までの期間とした。せん妄の評価はConfusion Assessment Methods for the ICU(CAM-ICU)を用いて術後7日まで実施した。Secondary Outcomeを離床状況とし,術後離床開始までの期間,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間をそれぞれ記録した。せん妄の関連因子とされる以下の項目についても調査した。術前項目は年齢,性別,Body Mass Index(BMI),全身状態(ASA Physical Status:ASA-PS),術前併存症(Charlson Comorbidity Index:CCI),認知機能(Mini Mental State Examination:MMSE),精神症状(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADs),日常生活活動(Barthel Index:BI)とした。術中項目は麻酔時間,手術時間,術中出血量。術後項目は鎮痛用麻薬(フェンタニル)総投与量とした。また,術後在院日数についても調査した。
検討方法は,せん妄の発症数と発症率を算出した。せん妄群,非せん妄群の2群に分け,離床進行状況を含め,各指標を両群間で比較した。
統計解析は,せん妄群と非せん妄群の2群間の比較を,各指標を尺度のタイプ別に対応のないt検定,マンホイットニーのU検定,χ二乗検定を用いて検討した。危険率は有意水準5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会より認証された(平成24年度第139号)。対象症例にはエントリー前に口頭および紙面にて説明し,同意を得た。
【結果】エントリーされた対象症例は66例であった。除外症例は手術前に16例(拒否7例,術前歩行能力低下6例,評価法理解不能2例,手術中止1例),手術後に7例(術後状態悪化4例,術後安静度変更2例,術後転科1例)あり,抽出された対象は43例(平均年齢74.6±6.8歳,男性33例,女性10例)であった。せん妄の発症数は43例中3例(発症率7.0%)であった。発症までの期間は,術後1日が2例,術後4日が1例であった。離床進行状況は,離床開始までの期間は両群とも2.0±0.0日と差は認めなかったが,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間はせん妄群が非せん妄群に比べ有意に延長した(2.7±0.6日vs. 2.0±0.0日;p<0.01,4.7±2.9日vs. 2.7±1.1日;p=0.02)。また両群における各因子の比較ではCCIがせん妄群で有意に高かった(6.3±1.5vs. 4.4±1.9;p=0.03)。その他の各指標では両群間に有意な差は認めなかった。
【考察】せん妄発生率は7.0%と低値を示した。発症までの期間が術後1日に集中し,術後2日,3日には認めなかった。本研究で結果は先行研究と比較しても明らかにせん妄発症率が低値である。これは術後1日からヘッドアップまでの制限内でも積極的に介入した事,術後2日から離床を確実に進めた事が発症率に影響を与えたかもしれない。
離床進行状況では歩行開始までの期間,歩行自立までの期間がせん妄群において有意に延長した。これは,せん妄が離床の阻害因子となった為と考える。
本研究におけるせん妄の関連因子ではCCIのみせん妄群で有意に高い値を示した。これは,せん妄群の方が身体的予備能が劣っている事を示しており,さらに外科的ストレスが加わる事でせん妄を発症しやすい状態であったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】周手術期理学療法介入下での高齢開腹術後患者の術後せん妄の発生状況を調査した。せん妄発症数は43例中3例(7.0%)と先行研究に比べ非常に少なかった。周術期における計画的な理学療法介入はせん妄の発症を予防するかもしれない。