第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防6

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM 第6会場 (3F 304)

座長:牧迫飛雄馬(国立長寿医療研究センター自立支援開発研究部自立支援システム開発室)

生活環境支援 口述

[0514] 地域在住高齢者の運動機能と身体活動量に閉塞性換気障害が与える影響

福谷直人, 山田実, 足達大樹, 青山朋樹, 坪山直生 (京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 地域在住高齢者, 身体活動量

【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は不可逆性の閉塞性換気障害を有する進行性疾患である。これまで,病院に入院・外来通院しているCOPD患者においては閉塞性換気障害を起因とする息切れなどの身体症状が運動機能や身体活動量の低下をもたらすことが報告されている。一方,近年では,COPD患者の約95%が診断を受けていないことが明らかにされており,地域には閉塞性換気障害を有する高齢者が数多く潜在していることが予想される。このことから,地域在住高齢者の運動機能と身体活動量に閉塞性換気障害が与える影響は十分に検証されていないのが現状である。
そこで本研究では,地域在住高齢者の運動機能と身体活動量に閉塞性換気障害が与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は男性の地域在住高齢者78名とした(73.7±4.5歳)。顕著な認知機能低下,重度な神経学的・整形外科的疾患の既往のある者,呼吸器疾患の診断歴を有する者は除外した。基本情報として,年齢,BMI,喫煙歴を調査し,さらに,呼吸機能,骨格筋量,運動機能,身体活動量を評価した。呼吸機能検査は電子スパイロメーター(フクダ電子社製SP-370COPD肺Per)を用いて行い,1秒率が70%未満の場合を閉塞性換気障害と定義した。骨格筋量は,生体電気インピーダンス法によって計測した四肢筋量を身長の2乗で補正したSkeletal muscle mass Index(SMI)を使用した。運動機能は,快適10m歩行速度,Timed Up & Go Test,Functional Reach Test,5 Chair Stand Test,握力の計測を行った。さらに,身体活動量の指標には,歩数計と記録用紙を対象者へ配布し,記録された2週間分の歩数データの1日の平均値を用いた。統計解析として,まず1秒率に基づき閉塞群と健常群の2群に分け,カイ二乗検定,対応のないt検定を行った。その後,従属変数に各運動機能を,独立変数に閉塞性換気障害の有無を,調整変数に年齢,SMI,喫煙歴を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。さらに,従属変数を身体活動量とし,独立変数に閉塞性換気障害の有無を,調整変数として,年齢,SMI,喫煙歴,各運動機能を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた者を対象者とした。
【結果】
対象者のうち22名(28.2%)が閉塞性換気障害を有し,その重症度は,閉塞性換気障害の重症度を示すGOLDの分類によるとMildが2名(2.6%),Moderateが20名(25.6%)であった。基本情報における2群間の比較では,閉塞群で有意に年齢が高く(閉塞群:75.9±5.3歳,健常群:73.0±4.1歳;P<0.05),BMIが低く(閉塞群:21.9±3.1 kg/m2,健常群:24.1±2.9 kg/m2;P<0.01),SMIが低く(閉塞群:6.9±0.6 kg/m2,健常群:7.4±0.7 kg/m2;P=0.01),身体活動量が低い(閉塞群:5131±1837 steps/day,健常群:8269±3632 steps/day;P<0.01)結果となった。各運動機能を従属変数とした重回帰分析の結果,閉塞性換気障害とどの運動機能の間にも有意な関連はみられなかった。しかし,身体活動量を従属変数とした重回帰分析の結果では,閉塞性換気障害は,身体活動量低下の有意な関連要因であった(β=-0.399,P<0.01)。
【考察】
本研究結果より,地域在住高齢者における閉塞性換気障害は年齢・筋量・運動機能で調整しても身体活動量に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。一方,閉塞性換気障害による運動機能への影響は認められなかった。したがって,地域在住高齢者において身体活動量を評価する際には,呼吸機能の評価も必要であることが示唆された。短時間の能力発揮を必要とする運動機能は耐久性を必要としないため閉塞性換気障害との関連が認められなかったが,長時間の耐久性を必要とする身体活動量は,労作時の息切れ等の呼吸器症状により低下していることが考えられた。今後は,身体活動量低下により引き起こされると予想される病院への受診や入院などをアウトカムにした縦断的研究を行う必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,地域在住高齢者の身体活動量の低下要因として,閉塞性換気障害が関与していることが明らかになった。本研究は,運動機能や身体活動量の維持・向上を推奨している健康日本21(第二次)を進めるうえで,有益な情報となることが期待できる。