[0520] 加齢に伴う健常者の歩行特性の変化
Keywords:Hybrid mass-spring pendulum model, 歩行, 加齢
【はじめに,目的】
本研究ではHybrid mass-spring pendulum model(以下,hybrid model)の概念を用いて加齢による健常者の歩行の変化を検討することを目的とした。hybrid modelは米国理学療法士のHoltによって提唱された歩行モデルで人間の歩行周期を予測し,身体要因から最適な歩行率を算出するものである(Holt,et al.,1996)。このモデルでは,歩行を行う人間の下肢は股関節を軸とする単振り子とみなされる。従って,膝関節の動きは考慮されない。下肢の筋を含む軟部組織をバネとみなし,バネから発生する力が歩行中の下肢の単振り子の推進力に加わる,バネ付き振り子を仮定するものである。
【方法】
協力者は整形外科的・脳神経的異常を伴わず,独歩可能な健常成人223名であった。協力者を年代により,20代,30代,40代,50代,60代,70代以上とグループ化した。これら協力者の身長・体重を測定した。次に靴底に絵の具を含んだスポンジを張り付けて足跡を測定するフットプリントメソッドを用い16mの模造紙による歩行路を歩行させた。歩行の際には日常生活での通常の歩行速度で歩行するよう指示した。両端の3mを除き,中間の10mをデータ取得領域とした。また,同時に歩行をビデオにて撮影し,歩幅(m)・歩行率(steps/min)・歩行速度(m/min)を測定した。また,hybrid modelを用いて,各協力者の歩行率の理論値を算出し,実測された歩行率との差を求めた。さらに,実測された歩幅を歩行率で除して歩行比を求めた。歩行比は歩行速度が変化しても変化しない不変項と言われている。そこで,各協力者の歩行比を用いて,各協力者が歩行率の理論値に相当する歩行率で歩行したと仮定した時の,歩幅および歩行速度を算出した。本抄録の以降の部分では,歩行率の理論値およびそれを用いて算出した歩幅,歩行速度をそれぞれの補正値と記す。統計解析にはIBM SPSS Statistics.ver.20を用い,歩幅,歩行率,歩行速度の各パラメータに対して,「年代グループ」と「補正の有無」を要因とする2要因分散分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆者の所属する施設の倫理委員会において承認を受けた計画に沿って実施した。また,研究内容に関して利益・不利益共に研究協力者に説明を行い,紙面にて同意を得た。
【結果】
分散分析の結果,「年代グループ」要因の主効果は見られなかった。歩行速度(df=1,F=22.65,p<0.01)と歩幅(df=1,F=21.90,p<0.01),歩行率(df=1,F=23.80,p<0.01)については「補正の有無」要因の主効果が有意であった。また,歩行速度(df=5,F=3.37,p<0.01)と歩行率(df=5,F=5.03,p<0.01)については2要因の交互作用が有意であった。そこで,下位検定として歩行速度,歩行率の実測値と補正値に対して,年代グループごとに対応のあるt検定を行った。結果として歩行速度,歩行率ともに60代で有意差がなくなり,実測値と補正値の近似が見られた。
【考察】
高齢者ではhybrid modelによって補正される値と補正前の値では差が減少した。hybrid modelでは,筋力や前庭・視覚機能といった歩行に影響を与える身体機能の変化について考慮していない。よって,hybrid modelの構成要素である身長や体重から想定される値によってその歩行周期が予測される高齢者では,歩行パラメータの決定に体格要因が大きな非常を占めている。つまり,高齢者では体格によって歩行パラメータが体格による制約を強く受け,他のパラメータを選択する冗長性が減弱していると言える。逆に,若年健常者では体格要因以外の要素にも歩行能力は依存している。これら事実を踏まえ,高齢者の歩行の冗長性の減弱を考慮することで適切な理学療法を提供できると考える。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の歩行は体格要因に依存する場合があるため,機能の変化に注意して理学療法を提供すべきであるということが再確認された。
本研究ではHybrid mass-spring pendulum model(以下,hybrid model)の概念を用いて加齢による健常者の歩行の変化を検討することを目的とした。hybrid modelは米国理学療法士のHoltによって提唱された歩行モデルで人間の歩行周期を予測し,身体要因から最適な歩行率を算出するものである(Holt,et al.,1996)。このモデルでは,歩行を行う人間の下肢は股関節を軸とする単振り子とみなされる。従って,膝関節の動きは考慮されない。下肢の筋を含む軟部組織をバネとみなし,バネから発生する力が歩行中の下肢の単振り子の推進力に加わる,バネ付き振り子を仮定するものである。
【方法】
協力者は整形外科的・脳神経的異常を伴わず,独歩可能な健常成人223名であった。協力者を年代により,20代,30代,40代,50代,60代,70代以上とグループ化した。これら協力者の身長・体重を測定した。次に靴底に絵の具を含んだスポンジを張り付けて足跡を測定するフットプリントメソッドを用い16mの模造紙による歩行路を歩行させた。歩行の際には日常生活での通常の歩行速度で歩行するよう指示した。両端の3mを除き,中間の10mをデータ取得領域とした。また,同時に歩行をビデオにて撮影し,歩幅(m)・歩行率(steps/min)・歩行速度(m/min)を測定した。また,hybrid modelを用いて,各協力者の歩行率の理論値を算出し,実測された歩行率との差を求めた。さらに,実測された歩幅を歩行率で除して歩行比を求めた。歩行比は歩行速度が変化しても変化しない不変項と言われている。そこで,各協力者の歩行比を用いて,各協力者が歩行率の理論値に相当する歩行率で歩行したと仮定した時の,歩幅および歩行速度を算出した。本抄録の以降の部分では,歩行率の理論値およびそれを用いて算出した歩幅,歩行速度をそれぞれの補正値と記す。統計解析にはIBM SPSS Statistics.ver.20を用い,歩幅,歩行率,歩行速度の各パラメータに対して,「年代グループ」と「補正の有無」を要因とする2要因分散分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆者の所属する施設の倫理委員会において承認を受けた計画に沿って実施した。また,研究内容に関して利益・不利益共に研究協力者に説明を行い,紙面にて同意を得た。
【結果】
分散分析の結果,「年代グループ」要因の主効果は見られなかった。歩行速度(df=1,F=22.65,p<0.01)と歩幅(df=1,F=21.90,p<0.01),歩行率(df=1,F=23.80,p<0.01)については「補正の有無」要因の主効果が有意であった。また,歩行速度(df=5,F=3.37,p<0.01)と歩行率(df=5,F=5.03,p<0.01)については2要因の交互作用が有意であった。そこで,下位検定として歩行速度,歩行率の実測値と補正値に対して,年代グループごとに対応のあるt検定を行った。結果として歩行速度,歩行率ともに60代で有意差がなくなり,実測値と補正値の近似が見られた。
【考察】
高齢者ではhybrid modelによって補正される値と補正前の値では差が減少した。hybrid modelでは,筋力や前庭・視覚機能といった歩行に影響を与える身体機能の変化について考慮していない。よって,hybrid modelの構成要素である身長や体重から想定される値によってその歩行周期が予測される高齢者では,歩行パラメータの決定に体格要因が大きな非常を占めている。つまり,高齢者では体格によって歩行パラメータが体格による制約を強く受け,他のパラメータを選択する冗長性が減弱していると言える。逆に,若年健常者では体格要因以外の要素にも歩行能力は依存している。これら事実を踏まえ,高齢者の歩行の冗長性の減弱を考慮することで適切な理学療法を提供できると考える。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の歩行は体格要因に依存する場合があるため,機能の変化に注意して理学療法を提供すべきであるということが再確認された。