[0541] 正常妊婦の妊娠経過における嫌気性代謝閾値の変化
キーワード:正常妊婦, 嫌気性態代謝閾値, 運動処方
【はじめに,目的】
妊婦スポーツは,気分転換・体力維持を目的に広く行われ,水泳・ウォーキングなどの全身運動が推奨されている。開始は妊娠12週以降,終了時期は定められていない。近年,QOL向上に対する有効性が報告され,周産期合併症のリスクが高い妊娠高血圧・肥満の予防・対策へも適応が拡大されてきている。しかし,妊婦スポーツの問題点として,流産・早産,胎児発育障害の危険性も指摘されている。各妊婦に応じた運動処方をするため運動負荷試験の実施が必要とされているが,現状,実施している施設はほとんどなく,科学的根拠のないまま妊婦スポーツが行われている。さらに,運動処方に関する報告もほとんどない。一方,内部障害領域では心肺運動試験(CPX)により測定される嫌気性代謝閾値(AT)を運動耐容能指標として運動処方に利用され,多くの施設で実施されている。今回,妊婦1名のATを妊娠中期から後期にCPXを実施し,妊婦への運動処方に関する知見を得たので報告する
【方法】
30歳代の女性,妊娠が正常,単児,胎児の発育に異常なし。また,既往に早産や反復する流産なし。妊娠28週・35週・39週にCPXを実施し,ATを測定した。実施にあたり,「妊婦スポーツの安全な管理基準」に準拠し,実施前に産婦人科医による妊婦・胎児の診察およびCPX実施の許可を得た。実施時間は子宮収縮出現頻度が少ないとされる午前11時から午後0時とした。CPXは,自転車エルゴメーターを用いて,安静3分間,ウォーミングアップ20W4分間の10W/minのRamp負荷で行い,呼気ガス代謝モニターCpex-1(インターリハ社製)にてBreath by Breath法によりATを測定した。安全を期するため許容運動強度を,母体脈拍数150bpm,自覚的運動強度「ややきつい」とした。さらに,測定中に腹部緊満感出現の有無を確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従った。対象者に口頭および文章による十分な説明をし,同意を得て実施した。
【結果】
各時期とも運動終了は自覚的運動強度「ややきつい」であった。ATでの分時酸素摂取量・脈拍数は,妊娠28週で14.9ml/kg/watt・97beats/min,35週で13.2ml/kg/watt・106beats/min,39週で11.2ml/kg/watt・96beats/minであった。39週時においてのみ,測定終了時に腹部緊満感の出現を認めた。
【考察】
本研究の結果,妊娠28週・35週・39週と経過するにつれ,ATでの分時酸素摂取量が低下した。また,脈拍数は96beats/minから106beats/minであった。妊娠経過に伴いさまざまな身体変化が報告されている。その中には横隔膜の平底化,全血液量の増加,単位当たりの赤血球やヘモグロビン値の減少など,運動耐容能に影響する変化がある。現在,長時間の連続運動では母体心拍数135beats/min,自覚的運動強度「やや楽である」以下の運動強度が推奨されている。しかし,本研究の結果より,妊娠週数の経過ともに運動耐容能は低下する傾向を認め,徐々に負荷量を軽減する必要があると考えられた。つまり,一律の運動処方でなく,妊娠週数経過による身体変化に応じた運動処方・指導が必要であることが示唆された。今後,さらに対象を増やし,検討を重ねることが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
正常妊婦および妊婦高血圧・妊婦糖尿病などの疾病管理において,科学的根拠に基づいた運動指導・運動処方が求められる。さらに,本研究の結果,妊娠週数や身体変化に対応することも重要と考えられた。今後,産科領域において,妊娠経過による多様な身体変化に対応した運動指導が必要であり,そのニーズに理学療法士の職能を活用することができると思われる。
妊婦スポーツは,気分転換・体力維持を目的に広く行われ,水泳・ウォーキングなどの全身運動が推奨されている。開始は妊娠12週以降,終了時期は定められていない。近年,QOL向上に対する有効性が報告され,周産期合併症のリスクが高い妊娠高血圧・肥満の予防・対策へも適応が拡大されてきている。しかし,妊婦スポーツの問題点として,流産・早産,胎児発育障害の危険性も指摘されている。各妊婦に応じた運動処方をするため運動負荷試験の実施が必要とされているが,現状,実施している施設はほとんどなく,科学的根拠のないまま妊婦スポーツが行われている。さらに,運動処方に関する報告もほとんどない。一方,内部障害領域では心肺運動試験(CPX)により測定される嫌気性代謝閾値(AT)を運動耐容能指標として運動処方に利用され,多くの施設で実施されている。今回,妊婦1名のATを妊娠中期から後期にCPXを実施し,妊婦への運動処方に関する知見を得たので報告する
【方法】
30歳代の女性,妊娠が正常,単児,胎児の発育に異常なし。また,既往に早産や反復する流産なし。妊娠28週・35週・39週にCPXを実施し,ATを測定した。実施にあたり,「妊婦スポーツの安全な管理基準」に準拠し,実施前に産婦人科医による妊婦・胎児の診察およびCPX実施の許可を得た。実施時間は子宮収縮出現頻度が少ないとされる午前11時から午後0時とした。CPXは,自転車エルゴメーターを用いて,安静3分間,ウォーミングアップ20W4分間の10W/minのRamp負荷で行い,呼気ガス代謝モニターCpex-1(インターリハ社製)にてBreath by Breath法によりATを測定した。安全を期するため許容運動強度を,母体脈拍数150bpm,自覚的運動強度「ややきつい」とした。さらに,測定中に腹部緊満感出現の有無を確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従った。対象者に口頭および文章による十分な説明をし,同意を得て実施した。
【結果】
各時期とも運動終了は自覚的運動強度「ややきつい」であった。ATでの分時酸素摂取量・脈拍数は,妊娠28週で14.9ml/kg/watt・97beats/min,35週で13.2ml/kg/watt・106beats/min,39週で11.2ml/kg/watt・96beats/minであった。39週時においてのみ,測定終了時に腹部緊満感の出現を認めた。
【考察】
本研究の結果,妊娠28週・35週・39週と経過するにつれ,ATでの分時酸素摂取量が低下した。また,脈拍数は96beats/minから106beats/minであった。妊娠経過に伴いさまざまな身体変化が報告されている。その中には横隔膜の平底化,全血液量の増加,単位当たりの赤血球やヘモグロビン値の減少など,運動耐容能に影響する変化がある。現在,長時間の連続運動では母体心拍数135beats/min,自覚的運動強度「やや楽である」以下の運動強度が推奨されている。しかし,本研究の結果より,妊娠週数の経過ともに運動耐容能は低下する傾向を認め,徐々に負荷量を軽減する必要があると考えられた。つまり,一律の運動処方でなく,妊娠週数経過による身体変化に応じた運動処方・指導が必要であることが示唆された。今後,さらに対象を増やし,検討を重ねることが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
正常妊婦および妊婦高血圧・妊婦糖尿病などの疾病管理において,科学的根拠に基づいた運動指導・運動処方が求められる。さらに,本研究の結果,妊娠週数や身体変化に対応することも重要と考えられた。今後,産科領域において,妊娠経過による多様な身体変化に対応した運動指導が必要であり,そのニーズに理学療法士の職能を活用することができると思われる。