[0547] 頚長筋の安静時形状評価
キーワード:超音波, 左右差, 筋断面積
【はじめに,目的】
頚部痛により頚部の運動制御方式に変化が起こり,頚部深層屈筋群の活動障害と同時に表層筋の活動が増加し,非運動時においてもこの状態が持続していると報告されている。頚部深層屈筋群の間接的テストとして,頭頚部屈曲テスト(Cranio-Cervical Flexion Test:以下CCFT)が開発され,その妥当性とトレーニング効果が実証されている。しかし,このテストの正確性のフィードバックは主観的評価に止まっており,リアルタイムに観察可能な超音波診断装置で表層筋と深層筋を同時にイメージングし,筋収縮時の形状変化を捉えることで臨床で活用できるものと思われる。超音波診断装置を用いた先行研究では,頚部痛群において頚部深層屈筋群である頚長筋の安静時の断面積が有意に小さく,その形状は平坦であることが示されているが,左右差や個体の属性との関連は明らかではない。またその評価は筋厚,断面積においてそれぞれ検証されており統一された方法はない。筋収縮時の形状変化を捉える前段階として,安静時の頚長筋の形状を筋厚,断面積の双方で評価し,その特性を検討することを本研究の目的とした。
【方法】
頚部の基礎疾患や頚部痛の既往のない健常成人男性10名(年齢:24.9±3.4歳,身長:176.3±5.6cm,体重:67.2±6.0kg)を対象とした。10名とも利き手は右側であった。測定はJavanshirらの方法に従い,被験者の後頭下にタオルを敷いて頭部がベッドより3~4cm高くなるようにした背臥位とし,甲状軟骨底部より2cm下方をランドマークに頚部長軸に対して垂直にプローブを当て,超音波診断装置(sonosite社)を用いて頚長筋,胸鎖乳突筋を静止画にてイメージングした。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて,頚長筋筋厚,筋幅,断面積,形状比(筋幅/筋厚),胸鎖乳突筋厚を測定した。胸鎖乳突筋厚は総頚動脈直上で測定した。また,腹臥位にてC6レベルの僧帽筋,頭板状筋の筋厚を測定した。属性項目は体組成(BMI,骨格筋量,体脂肪率),頚部周径とした。体組成の測定は,体組成計InBody(Biospace社)を用いた。頚部周径は超音波プローブと同じ高位でメジャーで測定した。得られた測定結果から,頚長筋の筋厚,筋幅,断面積,形状比の左右差をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。またSpearmanの順位相関係数を用いて各測定結果の相関関係を解析した。統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には事前に書面と口頭にて研究の目的と方法,個人情報の取り扱い,危険性などについて説明し,同意書への署名を得た。本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
頚長筋の各パラメータの平均値は,筋厚(右:0.82±0.09cm,左:0.96±0.18cm),筋幅(右:1.81±0.21cm,左:1.93±0.27cm),断面積(右:1.16±0.25cm2,左:1.42±0.31cm2),形状比(右:2.23±0.29,左:2.11±0.29)であった。筋厚,断面積において有意な左右差が認められ(p<0.05),筋幅,形状比では有意差はみられなかった。相関分析では,左頚長筋の断面積は筋厚(r=0.93,p<0.01),筋幅(r=0.76,p<0.05)との間に有意な正の相関がみられた。その他の項目間では相関はみられなかった。
【考察】
本研究の結果,安静時の頚長筋筋厚と断面積において,左側で有意に高い値を示した。筋幅においては有意差は認められなかったが,やはり左側で大きい傾向にあった。これは本研究における10名の被験者は全て右利きであることから,利き手の影響が関与していると考えられる。上肢の運動時に頚長筋はフィードフォワード機構として活動することが先行研究により報告されており,右上肢の活動を姿勢保持筋である左頚長筋が有意に制御している可能性が示唆される。また頚長筋は両側の対称的な収縮により頚椎の前弯を立て直す機能があり,こうした左右差がCCFTでの筋収縮時にどのような影響を及ぼすかは,今後の研究課題である。左頚長筋において断面積と筋厚,筋幅との間に有意な正の相関がみられたことに対し,右頚長筋ではその傾向がみられなかった。これは利き手側における超音波診断装置を用いた頚長筋の観察では,筋厚の測定が筋の大きさを反映するものではない可能性を示している。筋収縮時の撮像においても断面積を測定することでより正確な評価が行えるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
超音波診断装置を用いて頚長筋の筋収縮時の変化を捉えた報告は徐々に増えているが,本邦では筋厚での報告が多い。本研究では頚長筋の断面積を測定し左右差を検証したことで,利き手の影響と断面積の測定が有用であることを提示できた。これは今後の研究と臨床応用の一助となるものと思われる。
頚部痛により頚部の運動制御方式に変化が起こり,頚部深層屈筋群の活動障害と同時に表層筋の活動が増加し,非運動時においてもこの状態が持続していると報告されている。頚部深層屈筋群の間接的テストとして,頭頚部屈曲テスト(Cranio-Cervical Flexion Test:以下CCFT)が開発され,その妥当性とトレーニング効果が実証されている。しかし,このテストの正確性のフィードバックは主観的評価に止まっており,リアルタイムに観察可能な超音波診断装置で表層筋と深層筋を同時にイメージングし,筋収縮時の形状変化を捉えることで臨床で活用できるものと思われる。超音波診断装置を用いた先行研究では,頚部痛群において頚部深層屈筋群である頚長筋の安静時の断面積が有意に小さく,その形状は平坦であることが示されているが,左右差や個体の属性との関連は明らかではない。またその評価は筋厚,断面積においてそれぞれ検証されており統一された方法はない。筋収縮時の形状変化を捉える前段階として,安静時の頚長筋の形状を筋厚,断面積の双方で評価し,その特性を検討することを本研究の目的とした。
【方法】
頚部の基礎疾患や頚部痛の既往のない健常成人男性10名(年齢:24.9±3.4歳,身長:176.3±5.6cm,体重:67.2±6.0kg)を対象とした。10名とも利き手は右側であった。測定はJavanshirらの方法に従い,被験者の後頭下にタオルを敷いて頭部がベッドより3~4cm高くなるようにした背臥位とし,甲状軟骨底部より2cm下方をランドマークに頚部長軸に対して垂直にプローブを当て,超音波診断装置(sonosite社)を用いて頚長筋,胸鎖乳突筋を静止画にてイメージングした。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて,頚長筋筋厚,筋幅,断面積,形状比(筋幅/筋厚),胸鎖乳突筋厚を測定した。胸鎖乳突筋厚は総頚動脈直上で測定した。また,腹臥位にてC6レベルの僧帽筋,頭板状筋の筋厚を測定した。属性項目は体組成(BMI,骨格筋量,体脂肪率),頚部周径とした。体組成の測定は,体組成計InBody(Biospace社)を用いた。頚部周径は超音波プローブと同じ高位でメジャーで測定した。得られた測定結果から,頚長筋の筋厚,筋幅,断面積,形状比の左右差をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。またSpearmanの順位相関係数を用いて各測定結果の相関関係を解析した。統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には事前に書面と口頭にて研究の目的と方法,個人情報の取り扱い,危険性などについて説明し,同意書への署名を得た。本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
頚長筋の各パラメータの平均値は,筋厚(右:0.82±0.09cm,左:0.96±0.18cm),筋幅(右:1.81±0.21cm,左:1.93±0.27cm),断面積(右:1.16±0.25cm2,左:1.42±0.31cm2),形状比(右:2.23±0.29,左:2.11±0.29)であった。筋厚,断面積において有意な左右差が認められ(p<0.05),筋幅,形状比では有意差はみられなかった。相関分析では,左頚長筋の断面積は筋厚(r=0.93,p<0.01),筋幅(r=0.76,p<0.05)との間に有意な正の相関がみられた。その他の項目間では相関はみられなかった。
【考察】
本研究の結果,安静時の頚長筋筋厚と断面積において,左側で有意に高い値を示した。筋幅においては有意差は認められなかったが,やはり左側で大きい傾向にあった。これは本研究における10名の被験者は全て右利きであることから,利き手の影響が関与していると考えられる。上肢の運動時に頚長筋はフィードフォワード機構として活動することが先行研究により報告されており,右上肢の活動を姿勢保持筋である左頚長筋が有意に制御している可能性が示唆される。また頚長筋は両側の対称的な収縮により頚椎の前弯を立て直す機能があり,こうした左右差がCCFTでの筋収縮時にどのような影響を及ぼすかは,今後の研究課題である。左頚長筋において断面積と筋厚,筋幅との間に有意な正の相関がみられたことに対し,右頚長筋ではその傾向がみられなかった。これは利き手側における超音波診断装置を用いた頚長筋の観察では,筋厚の測定が筋の大きさを反映するものではない可能性を示している。筋収縮時の撮像においても断面積を測定することでより正確な評価が行えるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
超音波診断装置を用いて頚長筋の筋収縮時の変化を捉えた報告は徐々に増えているが,本邦では筋厚での報告が多い。本研究では頚長筋の断面積を測定し左右差を検証したことで,利き手の影響と断面積の測定が有用であることを提示できた。これは今後の研究と臨床応用の一助となるものと思われる。