[0560] 急性期脳卒中患者における離床時の循環動態
Keywords:急性期脳卒中, 起立負荷, 急性期リハビリ
【はじめに,目的】
脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中の病型別に各々の循環器病に対する治療方針が詳述されている。また,その急性期リハビリテーションについては,できるだけ早期から積極的な座位・立位・歩行訓練を行うことが「グレードA」と強く推奨されている。
当院は急性期病院であり,ガイドラインの推奨に基づいて発症直後よりリハビリテーション処方があり,積極的に早期離床を行っている。その際のリスク管理は医師の監督下に行われているが,理学療法士の判断に委ねられる即時の対応では苦慮する場面も少なくない。
脳卒中患者における離床時の循環動態は,全身状態の安定した回復期・慢性期にける報告や症例報告などを散見するものの,急性期における報告は極めて少ない。
そこで,本研究では,急性期病院入院中の脳卒中患者の離床に関する実態調査を行い,さらに早期離床が可能であった脳卒中患者への起立負荷試験を行い,急性期脳卒中患者の離床時循環動態を調査することを目的とした。
【方法】
対象は平成24年2月から平成25年2月までの1年間に当院へ入院した脳卒中患者158名とした。
このうち,離床の状況から早期よりの離床が困難であった離床困難群,離床が可能であった離床群に分類した。さらに離床困難群では後方視的にカルテより病型や合併症などを調査し,離床が困難であった理由の実態を明らかにした。離床群に対しては,起立負荷試験(以下HUT)をリハビリ処方が出た数日内に実施した。HUTはティルトテーブルにて10分間の安静臥位後,60度起立負荷を5分間実施し,テルモ社製電子血圧計を用い,この間の収縮期血圧(SBP)・拡張期血圧(DBP)・脈拍(PR)を1分毎測定した。なお起立後,SBPが20mmHg以上変動した場合,意識レベルが低下した場合は起立を中止した。
統計処理は各群内を一元配置分散分析,及びScheffeの多重比較検定を用い,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
書面にて説明し,同意を得られた患者のみを対象とし,星城大学研究倫理専門委員会,鈴鹿回生病院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
離床困難群は35名でその全例に重度意識障害を認め,さらに循環器・心疾患(8名),イレウス(1名),肺炎・脱水・糖尿病・腎不全など(10名),尿路感染(4名),細菌などの感染(2名),水頭症(2名)の合併,および人工呼吸器管理(3名),重度脳幹症状(5名)などが離床困難の理由であった。
次に,離床群123名のうち30名においてHUTを実施した。そのうち5分間の起立負荷が継続できたもの(継続群)が20名,中断したもの(中止群)が10名であった。
HUTの結果,継続群のSBPはHUT(129.0±17.6→117.4±24.7,124.2±24.1,121.4±26.8,120.0±23.3,120.0±22.4mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。DBPはHUT(72.2±14.8→68.9±15.7,72.1±15.7,68.7±15.6,66.5±17.0,70.8±16.9 mmHg)による有意な変化を認めなかった。PRは,HUT(78.9±14.9→82.0±18.0,82.3±18.9,81.9±18.8,81.3±17.8,80.2±19.0 bpm)の際,初期時に上昇傾向を示した。
中止群のSBPはHUT(144.8±21.0→117.2±21.0,109.1±27.6 mmHg)の際,初期時に有意な低下を示した(P<0.05)。DBPはHUT(78.4±11.9→67.7±20.8,70.0±14.5mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。PRはHUT(72.1±16.9→71.7±20.7,80.2±21.5bpm)の際,初期時に大きな変化は認めなかった。
【考察】
急性期脳卒中患者158名のうち35名(22%)は離床困難群であり,その理由は早期リハビリテーション開始基準(意識障害の程度,神経症状の進行停止,全身状態の安定)を満たしていなかった。
離床群におけるHUTの結果から,30名中20名は循環応答に問題はなく10名において血圧低下を認めた。これは,従来知られている起立時循環応答のうち,心拍出量維持のための心拍応答の遅延によって血圧低下を生じた可能性が考えられた。
以上のことから,急性期脳卒中患者の離床におけるリスク管理は,リハビリテーション開始基準と起立時循環応答の理解が重要であることが確認された。
【理学療法学研究としての意義】
離床時の循環動態を調査することで,急性期リハビリテーション開始時のリスク管理の参考になりうる。
脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中の病型別に各々の循環器病に対する治療方針が詳述されている。また,その急性期リハビリテーションについては,できるだけ早期から積極的な座位・立位・歩行訓練を行うことが「グレードA」と強く推奨されている。
当院は急性期病院であり,ガイドラインの推奨に基づいて発症直後よりリハビリテーション処方があり,積極的に早期離床を行っている。その際のリスク管理は医師の監督下に行われているが,理学療法士の判断に委ねられる即時の対応では苦慮する場面も少なくない。
脳卒中患者における離床時の循環動態は,全身状態の安定した回復期・慢性期にける報告や症例報告などを散見するものの,急性期における報告は極めて少ない。
そこで,本研究では,急性期病院入院中の脳卒中患者の離床に関する実態調査を行い,さらに早期離床が可能であった脳卒中患者への起立負荷試験を行い,急性期脳卒中患者の離床時循環動態を調査することを目的とした。
【方法】
対象は平成24年2月から平成25年2月までの1年間に当院へ入院した脳卒中患者158名とした。
このうち,離床の状況から早期よりの離床が困難であった離床困難群,離床が可能であった離床群に分類した。さらに離床困難群では後方視的にカルテより病型や合併症などを調査し,離床が困難であった理由の実態を明らかにした。離床群に対しては,起立負荷試験(以下HUT)をリハビリ処方が出た数日内に実施した。HUTはティルトテーブルにて10分間の安静臥位後,60度起立負荷を5分間実施し,テルモ社製電子血圧計を用い,この間の収縮期血圧(SBP)・拡張期血圧(DBP)・脈拍(PR)を1分毎測定した。なお起立後,SBPが20mmHg以上変動した場合,意識レベルが低下した場合は起立を中止した。
統計処理は各群内を一元配置分散分析,及びScheffeの多重比較検定を用い,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
書面にて説明し,同意を得られた患者のみを対象とし,星城大学研究倫理専門委員会,鈴鹿回生病院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
離床困難群は35名でその全例に重度意識障害を認め,さらに循環器・心疾患(8名),イレウス(1名),肺炎・脱水・糖尿病・腎不全など(10名),尿路感染(4名),細菌などの感染(2名),水頭症(2名)の合併,および人工呼吸器管理(3名),重度脳幹症状(5名)などが離床困難の理由であった。
次に,離床群123名のうち30名においてHUTを実施した。そのうち5分間の起立負荷が継続できたもの(継続群)が20名,中断したもの(中止群)が10名であった。
HUTの結果,継続群のSBPはHUT(129.0±17.6→117.4±24.7,124.2±24.1,121.4±26.8,120.0±23.3,120.0±22.4mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。DBPはHUT(72.2±14.8→68.9±15.7,72.1±15.7,68.7±15.6,66.5±17.0,70.8±16.9 mmHg)による有意な変化を認めなかった。PRは,HUT(78.9±14.9→82.0±18.0,82.3±18.9,81.9±18.8,81.3±17.8,80.2±19.0 bpm)の際,初期時に上昇傾向を示した。
中止群のSBPはHUT(144.8±21.0→117.2±21.0,109.1±27.6 mmHg)の際,初期時に有意な低下を示した(P<0.05)。DBPはHUT(78.4±11.9→67.7±20.8,70.0±14.5mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。PRはHUT(72.1±16.9→71.7±20.7,80.2±21.5bpm)の際,初期時に大きな変化は認めなかった。
【考察】
急性期脳卒中患者158名のうち35名(22%)は離床困難群であり,その理由は早期リハビリテーション開始基準(意識障害の程度,神経症状の進行停止,全身状態の安定)を満たしていなかった。
離床群におけるHUTの結果から,30名中20名は循環応答に問題はなく10名において血圧低下を認めた。これは,従来知られている起立時循環応答のうち,心拍出量維持のための心拍応答の遅延によって血圧低下を生じた可能性が考えられた。
以上のことから,急性期脳卒中患者の離床におけるリスク管理は,リハビリテーション開始基準と起立時循環応答の理解が重要であることが確認された。
【理学療法学研究としての意義】
離床時の循環動態を調査することで,急性期リハビリテーション開始時のリスク管理の参考になりうる。