[0559] くも膜下出血患者に対する早期離床と術後合併症との関連
Keywords:くも膜下出血, 脳血管攣縮, 早期離床
【はじめに】
くも膜下出血の急性期リハビリテーションは,発症4~14日目のスパズム期における脳血管攣縮による脳虚血や,その後の水頭症などの術後合併症に対して,厳重なリスク管理のもとで介入する必要がある。近年,くも膜下出血に対する早期離床の効果に関する報告が散見されるが,早期離床と術後合併症との関連については十分に検証されていない。当院ではリスク管理に基づく主科の安静度指示に従い,ドレーン抜去後より血圧などのvitalが安定していれば積極的な離床開始を試みている。本研究の目的は,くも膜下出血後の早期離床が入院期間や転帰,合併症に及ぼす影響について明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年1月~2013年4月に動脈瘤破裂により当院に入院したくも膜下出血患者31例(男性8例・女性23例,60.6±14.0歳,クリッピング術21例・コイル塞栓術8例・トラッピング術2例・外減圧併用7例)とした。死亡症例や重症のため一度も離床できなかった症例は除外した。カルテより来院時の重症度,入院期間,転帰,ドレーン抜去日,座位開始日,歩行開始日,術後合併症の有無を調査した。ベッドサイドでの能動的な離床時点として,端座位練習の開始を座位開始と定義した。重症度の評価はGlasgow Coma ScaleによるWFNS分類を指標とし,自宅退院あるいは転院かを転帰として抽出した。術後に施行されたCT・MRI・MRA・血管造影によって,脳血管攣縮,水頭症,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞のいずれかを術後合併症として同定した。
来院時の重症度が離床開始日,入院期間,転帰,術後合併症に及ぼす影響を検討することを目的とし,WFNS分類でgrade I・IIを軽症群,III~Vを重症群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。また,離床開始の時期が入院期間,転帰,合併症に及ぼす影響を検討するために,スパズム期が終了となる発症14日目以内に端座位練習を開始した群を座位開始早期群,15日目以降に開始した群を座位開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。歩行の開始時期についても同様に,歩行開始早期群と歩行開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。統計解析にはMann-WhitneyのU検定,Pearsonのカイ2乗検定,Fisherの正確確率検定を使用し,有意水準5%未満を統計学的有意とした。
【倫理的配慮】
本研究は後方視的調査であり,個人情報は匿名化して管理し,データの扱いに十分配慮を払いヘルシンキ宣言に沿って実施した。
【結果】
WFNS分類で軽症群は16例,重症群は15例であり,外減圧併用は7例のうち6例が重症群であった。両群で年齢の差は認めず,ドレーン抜去(8.0 vs. 9.0日),座位開始(6.0 vs. 11.0日),歩行開始(9.5 vs. 17.0日)はいずれも軽症群の方が有意に早く,入院期間(28.0 vs. 58.0日)も有意に短かった(p<0.05)。水頭症の有無は重症度と有意に関連し,重症群での発症頻度が高かった(p<0.05)。転帰,脳血管攣縮の有無,遅発性脳虚血あるいは無症候性脳梗塞の有無については重症度との関連は認めなかった。
座位開始早期群は25例(6.0日,軽症群15例,重症群10例),座位開始遅延群は6例(20.0日,軽症群1例,重症群5例)であった。歩行開始早期群は9例(9.0日,軽症群7例,重症群2例),歩行開始遅延群は10例(18.5日,軽症群3例,重症群7例)であった。座位および歩行開始早期群では,入院期間が有意に短く(p<0.05),特に座位開始時期と転帰には有意な関連があり,座位開始早期群における退院の割合が高かった(p<0.05)。座位および歩行開始時期と水頭症の発症頻度には有意な関連があり,早期群での発症頻度が少なかった(p<0.05)。一方,座位および歩行開始時期と脳血管攣縮,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞の有無との関連は認めなかった。
【考察】
軽症群では早期離床が可能であり入院期間が短縮していたが,重症群では離床開始時期の遅延が認められ,これには水頭症による覚醒・動作レベルの低下が関係している可能性が推察された。重症度や離床開始時期は脳血管攣縮や遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞と関連しなかったことから,早期離床により入院期間の短縮を図り,シャント術や外減圧後の骨形成術により入院の長期化が予想される症例に対しても,リスク管理を行いながら離床を進め,廃用症候群を予防し,動作能力を向上させることが重要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はくも膜下出血の急性期リハビリテーションにおける早期離床の重要性と術後合併症との関連を明確にし,臨床での治療介入の指針となる有益な知見を与えるものである。
くも膜下出血の急性期リハビリテーションは,発症4~14日目のスパズム期における脳血管攣縮による脳虚血や,その後の水頭症などの術後合併症に対して,厳重なリスク管理のもとで介入する必要がある。近年,くも膜下出血に対する早期離床の効果に関する報告が散見されるが,早期離床と術後合併症との関連については十分に検証されていない。当院ではリスク管理に基づく主科の安静度指示に従い,ドレーン抜去後より血圧などのvitalが安定していれば積極的な離床開始を試みている。本研究の目的は,くも膜下出血後の早期離床が入院期間や転帰,合併症に及ぼす影響について明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年1月~2013年4月に動脈瘤破裂により当院に入院したくも膜下出血患者31例(男性8例・女性23例,60.6±14.0歳,クリッピング術21例・コイル塞栓術8例・トラッピング術2例・外減圧併用7例)とした。死亡症例や重症のため一度も離床できなかった症例は除外した。カルテより来院時の重症度,入院期間,転帰,ドレーン抜去日,座位開始日,歩行開始日,術後合併症の有無を調査した。ベッドサイドでの能動的な離床時点として,端座位練習の開始を座位開始と定義した。重症度の評価はGlasgow Coma ScaleによるWFNS分類を指標とし,自宅退院あるいは転院かを転帰として抽出した。術後に施行されたCT・MRI・MRA・血管造影によって,脳血管攣縮,水頭症,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞のいずれかを術後合併症として同定した。
来院時の重症度が離床開始日,入院期間,転帰,術後合併症に及ぼす影響を検討することを目的とし,WFNS分類でgrade I・IIを軽症群,III~Vを重症群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。また,離床開始の時期が入院期間,転帰,合併症に及ぼす影響を検討するために,スパズム期が終了となる発症14日目以内に端座位練習を開始した群を座位開始早期群,15日目以降に開始した群を座位開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。歩行の開始時期についても同様に,歩行開始早期群と歩行開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。統計解析にはMann-WhitneyのU検定,Pearsonのカイ2乗検定,Fisherの正確確率検定を使用し,有意水準5%未満を統計学的有意とした。
【倫理的配慮】
本研究は後方視的調査であり,個人情報は匿名化して管理し,データの扱いに十分配慮を払いヘルシンキ宣言に沿って実施した。
【結果】
WFNS分類で軽症群は16例,重症群は15例であり,外減圧併用は7例のうち6例が重症群であった。両群で年齢の差は認めず,ドレーン抜去(8.0 vs. 9.0日),座位開始(6.0 vs. 11.0日),歩行開始(9.5 vs. 17.0日)はいずれも軽症群の方が有意に早く,入院期間(28.0 vs. 58.0日)も有意に短かった(p<0.05)。水頭症の有無は重症度と有意に関連し,重症群での発症頻度が高かった(p<0.05)。転帰,脳血管攣縮の有無,遅発性脳虚血あるいは無症候性脳梗塞の有無については重症度との関連は認めなかった。
座位開始早期群は25例(6.0日,軽症群15例,重症群10例),座位開始遅延群は6例(20.0日,軽症群1例,重症群5例)であった。歩行開始早期群は9例(9.0日,軽症群7例,重症群2例),歩行開始遅延群は10例(18.5日,軽症群3例,重症群7例)であった。座位および歩行開始早期群では,入院期間が有意に短く(p<0.05),特に座位開始時期と転帰には有意な関連があり,座位開始早期群における退院の割合が高かった(p<0.05)。座位および歩行開始時期と水頭症の発症頻度には有意な関連があり,早期群での発症頻度が少なかった(p<0.05)。一方,座位および歩行開始時期と脳血管攣縮,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞の有無との関連は認めなかった。
【考察】
軽症群では早期離床が可能であり入院期間が短縮していたが,重症群では離床開始時期の遅延が認められ,これには水頭症による覚醒・動作レベルの低下が関係している可能性が推察された。重症度や離床開始時期は脳血管攣縮や遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞と関連しなかったことから,早期離床により入院期間の短縮を図り,シャント術や外減圧後の骨形成術により入院の長期化が予想される症例に対しても,リスク管理を行いながら離床を進め,廃用症候群を予防し,動作能力を向上させることが重要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はくも膜下出血の急性期リハビリテーションにおける早期離床の重要性と術後合併症との関連を明確にし,臨床での治療介入の指針となる有益な知見を与えるものである。