[0561] 「脳卒中患者の早期自立度予後予測基準」の妥当性の検討
キーワード:急性期脳卒中, 予後予測, 妥当性
【はじめに,目的】脳卒中の予後予測について検証した報告として,1982年に発表された二木による脳卒中患者の早期自立度予後予測基準(以下,二木による基準)が知られており,脳卒中治療ガイドライン2009にも引用されている。しかし近年はより早期に充実したリハビリテーション(以下,リハ)医療を開始することの重要性が啓発され,急性期病院での在院日数は短縮化している。また2005年にはt-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベータ)が脳梗塞急性期の治療薬として認可され,治療方法も変化してきている。そこで,本研究はリハ開始時期や在院日数,治療法などが変化している近年においても,二木による基準によって脳卒中患者の予後予測が可能かを検討することを目的とした。
【方法】脳卒中発症後当院に入院し,2009年4月から2012年3月に退院した205名(平均年齢75.5±12.1歳,男性98名,女性107名)を対象に,後方視的に二木による基準にて自立度の予測が可能であるかを,二木による基準と当院のデータの母比率(個々のカテゴリーが母集団で占めるであろう割合)の95%信頼区間を比較し,検討した。二木による基準と比較し,信頼区間に有意差があった予測基準については二木による予測が合致した群(以下合致群)と予測が合致しなかった群(以下非合致群)に群分けし,比較,検討した。なお,統計学的手法はχ2検定,Fisherの正確確率検定を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。後方視的研究となるため,個人情報の取り扱いに十分配慮し,ヘルシンキ宣言に沿って行った。
【結果】二木の基準と母比率信頼区間を比較し,有意な差があった予測基準は,「入院時に全介助でも基礎的ADLの内2項目以上が実行なら歩行自立(以下I群:n=61)」,「入院時に全介助でも運動麻痺が軽度なら歩行自立(以下II群:n=27)」,「入院2週間時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下III群:n=68)」,「入院1か月時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下IV群:n=4)」であった(p<0.05)。その他の予測基準については有意差がみとめられなかった。さらに,I~IV群内の合致群と非合致群について,統計学的に検討した結果,有意な差がみられたのは,年齢,認知機能,発症前の歩行自立度であった。年齢はII群に有意な差があり(p<0.01),59歳以下,60~69歳において歩行自立が多く,80歳以上は全員が,最終的に自立歩行不能であった。認知機能はIII群に有意な差がみられ(p<0.05),中等度~重度認知機能低下した患者の多くが最終的に自立歩行困難であった。発症前の歩行自立度はI群,II群,III群に有意な差があり(p<0.01),発症前より自立歩行困難な患者は最終的に自立歩行困難な患者が多い傾向にあった。IV群はn=4と少数であり,統計学的解析は困難であった。
【考察】二木の報告と本研究を比較した結果,4つの予測基準は自立度の予測が困難であった。二木の報告では対象者の平均年齢が67.0歳であるのに対し,本研究では対象の平均年齢が75.5歳と,患者の高齢化が認められた。予測困難であった要因としては,I群は発症前の歩行自立度,II群は発症前の歩行自立度と年齢,III群は発症前の歩行自立度と認知機能低下であった。一般的に高齢になるほど認知症の発症率は高くなるとの報告や加齢による身体機能の低下は不可避的な現象であり,日常生活動作に障害を抱えている患者も少なくないとの報告があり,そのため本研究では加齢によって発症前より自立歩行が困難な患者や認知機能が低下した患者が多くみられたと考えられた。また,最終自立度予測基準が「歩行自立」では「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」の場合のみ,「自立歩行不能」および「全介助」ではすべての条件下において医療が変化してきた現時点においても妥当性が認められた。しかしながら,「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」を除く「歩行自立」の基準では,年齢や発症前の自立度,認知機能を考慮する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】近年においても,二木における脳卒中の早期予後予測基準は妥当性があると考えられた。しかし,年齢・認知機能・発症前歩行自立度を考慮して二木による基準を改訂することにより,現在でも有用な脳卒中の予後予測の指標となり得ると考えられた。
【方法】脳卒中発症後当院に入院し,2009年4月から2012年3月に退院した205名(平均年齢75.5±12.1歳,男性98名,女性107名)を対象に,後方視的に二木による基準にて自立度の予測が可能であるかを,二木による基準と当院のデータの母比率(個々のカテゴリーが母集団で占めるであろう割合)の95%信頼区間を比較し,検討した。二木による基準と比較し,信頼区間に有意差があった予測基準については二木による予測が合致した群(以下合致群)と予測が合致しなかった群(以下非合致群)に群分けし,比較,検討した。なお,統計学的手法はχ2検定,Fisherの正確確率検定を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。後方視的研究となるため,個人情報の取り扱いに十分配慮し,ヘルシンキ宣言に沿って行った。
【結果】二木の基準と母比率信頼区間を比較し,有意な差があった予測基準は,「入院時に全介助でも基礎的ADLの内2項目以上が実行なら歩行自立(以下I群:n=61)」,「入院時に全介助でも運動麻痺が軽度なら歩行自立(以下II群:n=27)」,「入院2週間時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下III群:n=68)」,「入院1か月時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下IV群:n=4)」であった(p<0.05)。その他の予測基準については有意差がみとめられなかった。さらに,I~IV群内の合致群と非合致群について,統計学的に検討した結果,有意な差がみられたのは,年齢,認知機能,発症前の歩行自立度であった。年齢はII群に有意な差があり(p<0.01),59歳以下,60~69歳において歩行自立が多く,80歳以上は全員が,最終的に自立歩行不能であった。認知機能はIII群に有意な差がみられ(p<0.05),中等度~重度認知機能低下した患者の多くが最終的に自立歩行困難であった。発症前の歩行自立度はI群,II群,III群に有意な差があり(p<0.01),発症前より自立歩行困難な患者は最終的に自立歩行困難な患者が多い傾向にあった。IV群はn=4と少数であり,統計学的解析は困難であった。
【考察】二木の報告と本研究を比較した結果,4つの予測基準は自立度の予測が困難であった。二木の報告では対象者の平均年齢が67.0歳であるのに対し,本研究では対象の平均年齢が75.5歳と,患者の高齢化が認められた。予測困難であった要因としては,I群は発症前の歩行自立度,II群は発症前の歩行自立度と年齢,III群は発症前の歩行自立度と認知機能低下であった。一般的に高齢になるほど認知症の発症率は高くなるとの報告や加齢による身体機能の低下は不可避的な現象であり,日常生活動作に障害を抱えている患者も少なくないとの報告があり,そのため本研究では加齢によって発症前より自立歩行が困難な患者や認知機能が低下した患者が多くみられたと考えられた。また,最終自立度予測基準が「歩行自立」では「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」の場合のみ,「自立歩行不能」および「全介助」ではすべての条件下において医療が変化してきた現時点においても妥当性が認められた。しかしながら,「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」を除く「歩行自立」の基準では,年齢や発症前の自立度,認知機能を考慮する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】近年においても,二木における脳卒中の早期予後予測基準は妥当性があると考えられた。しかし,年齢・認知機能・発症前歩行自立度を考慮して二木による基準を改訂することにより,現在でも有用な脳卒中の予後予測の指標となり得ると考えられた。