[0579] 8週間の関節不動により変性した軟骨は,不動解除後に変性が助長される
Keywords:拘縮, 関節軟骨, 不動解除
【はじめに,目的】
長期間の関節の不動化は関節拘縮につながる。関節拘縮に伴う関節構成体変化の病態理解は理学療法介入の治療根拠確立には不可欠である。関節の不動化により軟骨細胞数や軟骨基質が変化することが明らかにされているが,不動解除後の軟骨に起こる変化は不明である。軟骨基質の主成分の一つであるヒアルロン酸(以下HA)は軟骨機能維持に重要な役割を担っており,我々は2013年同学術大会において,軟骨細胞HA受容体であるCD44の発現は不動に伴い軟骨深層から低下することを報告した。今回,一定期間膝関節を不動化させ関節拘縮を惹起させたラットに対し,不動解除が関節軟骨・軟骨細胞応答に及ぼす影響について,病理組織学的に検討することを目的とし実験を行った。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラットを用いた。実験群の左膝関節をK-wireとレジンを用いた創外固定により膝関節屈曲140±5度で8週間固定を行った後,固定具を除去し不動解除期間ごとに,3日,1,2,4,8週間の5グループ(n=5/group)に分けた。対照群(n=3/group)は固定せず左下肢にK-wireのみを挿入し実験群と同一期間の介入を行った。飼育終了後,安楽死させたのちフォースゲージで膝関節伸展可動域(ROM)測定を行った。その後,膝関節を採取し浸漬固定後,10%EDTA溶液にて脱灰し,中和,脱脂操作を経てパラフィン包埋した。6μmで薄切したのち,HE染色・サフラニンO(以下SO)染色を行い光学顕微鏡下で観察し,軟骨厚測定とModified Mankin’s score(以下スコア)を用いて軟骨変性評価を行った。観察部位は左膝関節内側中央部矢状面とし,さらに評価部位は膝関節屈曲固定状態での大腿骨・脛骨の接触部(以下,接触部),接触-非接触移行部(以下,移行部),前方非接触部(以下,非接触部)の3領域とし,大腿骨と脛骨の計6部位を評価部位とした。免疫組織化学的分析はMMP13により断片化したII型コラーゲンを検出する抗Col2-3/4cと抗CD44を一次抗体とし,ABC法にて行った。統計解析は一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行い有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
実験群では不動解除3日後からROMの増大を認め,8週後では約11度の伸展制限が残った。対照群の全観察部位と実験群の非接触部では,明らかな軟骨変性像は見られなかった。実験群の大腿骨及び脛骨接触部において核の萎縮像や細胞質の消失が確認され,脛骨移行部では不動解除8週間後に5個体中4個体で嚢胞様の軟骨変性像を認めた。軟骨厚(μm)は脛骨移行部337.7±29.2で接触部201.1±35.4よりも有意に増加した(P<0.05)。スコア(点)では,両骨接触部では14.1±1.0から改善は見られず,脛骨移行部では不動解除3日後は8.3±1.1,8週間後は18.0±3.0となり悪化がみられた(P<0.01)。両骨移行部ではSO染色性が見られたが,軟骨表層の不整や亀裂が進行し膨化した軟骨細胞の増殖が確認された。Col2-3/4c染色では,対照群はほぼ染色性がみられなかったのに対し,実験群の全評価部位で染色性がみられ,その染色性は不動解除期間の延長とともに表層で強くなった。CD44陽性細胞は,両骨接触部において不動解除3日では軟骨全層での発現がみられたが1週後から徐々に中間・深層で発現が低下し,8週後では顕著に低下した。移行部では4週以降から表層でも陽性細胞の減少がみられた。非接触部では陽性細胞発現に著明な変化は見られなかった。
【考察】
ROMの結果から,不動解除後の膝関節可動域の改善を確認した。しかしながら,実験群の両骨接触部で変性軟骨修復は確認されなかった。CD44発現が減少した結果からも,接触部における軟骨細胞の基質保持能力は,不動解除後も低下していることが考えられた。脛骨移行部では膨化軟骨細胞や軟骨厚の増加やSO染色性から軟骨基質の合成が進んでいると考えられるが,8週後に明らかな軟骨変性像が確認されたことから軟骨変性は接触部の周辺領域で進行することが明らかとなった。さらに,Col2-3/4cの染色性は全観察部位で確認されたことから,軟骨基質の分解は軟骨の広域で起きていることが考えられた。不動解除に伴う,急激な再荷重・関節運動による軟骨への剪断力などのメカニカルストレスの変化が一因となり,軟骨細胞の変性や軟骨基質変性が助長される可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より,関節不動後の軟骨に対して急激な再荷重・関節運動を行うことは,不動下で変性した軟骨の修復よりも変性を助長させうる可能性だけでなく,軟骨の部位により変性状態が異なることが示唆された。本結果は関節不動後の理学療法介入を行う際は,緩やかな負荷を行うこと,また荷重部位を考慮する根拠となると考えられる。
長期間の関節の不動化は関節拘縮につながる。関節拘縮に伴う関節構成体変化の病態理解は理学療法介入の治療根拠確立には不可欠である。関節の不動化により軟骨細胞数や軟骨基質が変化することが明らかにされているが,不動解除後の軟骨に起こる変化は不明である。軟骨基質の主成分の一つであるヒアルロン酸(以下HA)は軟骨機能維持に重要な役割を担っており,我々は2013年同学術大会において,軟骨細胞HA受容体であるCD44の発現は不動に伴い軟骨深層から低下することを報告した。今回,一定期間膝関節を不動化させ関節拘縮を惹起させたラットに対し,不動解除が関節軟骨・軟骨細胞応答に及ぼす影響について,病理組織学的に検討することを目的とし実験を行った。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラットを用いた。実験群の左膝関節をK-wireとレジンを用いた創外固定により膝関節屈曲140±5度で8週間固定を行った後,固定具を除去し不動解除期間ごとに,3日,1,2,4,8週間の5グループ(n=5/group)に分けた。対照群(n=3/group)は固定せず左下肢にK-wireのみを挿入し実験群と同一期間の介入を行った。飼育終了後,安楽死させたのちフォースゲージで膝関節伸展可動域(ROM)測定を行った。その後,膝関節を採取し浸漬固定後,10%EDTA溶液にて脱灰し,中和,脱脂操作を経てパラフィン包埋した。6μmで薄切したのち,HE染色・サフラニンO(以下SO)染色を行い光学顕微鏡下で観察し,軟骨厚測定とModified Mankin’s score(以下スコア)を用いて軟骨変性評価を行った。観察部位は左膝関節内側中央部矢状面とし,さらに評価部位は膝関節屈曲固定状態での大腿骨・脛骨の接触部(以下,接触部),接触-非接触移行部(以下,移行部),前方非接触部(以下,非接触部)の3領域とし,大腿骨と脛骨の計6部位を評価部位とした。免疫組織化学的分析はMMP13により断片化したII型コラーゲンを検出する抗Col2-3/4cと抗CD44を一次抗体とし,ABC法にて行った。統計解析は一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行い有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
実験群では不動解除3日後からROMの増大を認め,8週後では約11度の伸展制限が残った。対照群の全観察部位と実験群の非接触部では,明らかな軟骨変性像は見られなかった。実験群の大腿骨及び脛骨接触部において核の萎縮像や細胞質の消失が確認され,脛骨移行部では不動解除8週間後に5個体中4個体で嚢胞様の軟骨変性像を認めた。軟骨厚(μm)は脛骨移行部337.7±29.2で接触部201.1±35.4よりも有意に増加した(P<0.05)。スコア(点)では,両骨接触部では14.1±1.0から改善は見られず,脛骨移行部では不動解除3日後は8.3±1.1,8週間後は18.0±3.0となり悪化がみられた(P<0.01)。両骨移行部ではSO染色性が見られたが,軟骨表層の不整や亀裂が進行し膨化した軟骨細胞の増殖が確認された。Col2-3/4c染色では,対照群はほぼ染色性がみられなかったのに対し,実験群の全評価部位で染色性がみられ,その染色性は不動解除期間の延長とともに表層で強くなった。CD44陽性細胞は,両骨接触部において不動解除3日では軟骨全層での発現がみられたが1週後から徐々に中間・深層で発現が低下し,8週後では顕著に低下した。移行部では4週以降から表層でも陽性細胞の減少がみられた。非接触部では陽性細胞発現に著明な変化は見られなかった。
【考察】
ROMの結果から,不動解除後の膝関節可動域の改善を確認した。しかしながら,実験群の両骨接触部で変性軟骨修復は確認されなかった。CD44発現が減少した結果からも,接触部における軟骨細胞の基質保持能力は,不動解除後も低下していることが考えられた。脛骨移行部では膨化軟骨細胞や軟骨厚の増加やSO染色性から軟骨基質の合成が進んでいると考えられるが,8週後に明らかな軟骨変性像が確認されたことから軟骨変性は接触部の周辺領域で進行することが明らかとなった。さらに,Col2-3/4cの染色性は全観察部位で確認されたことから,軟骨基質の分解は軟骨の広域で起きていることが考えられた。不動解除に伴う,急激な再荷重・関節運動による軟骨への剪断力などのメカニカルストレスの変化が一因となり,軟骨細胞の変性や軟骨基質変性が助長される可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より,関節不動後の軟骨に対して急激な再荷重・関節運動を行うことは,不動下で変性した軟骨の修復よりも変性を助長させうる可能性だけでなく,軟骨の部位により変性状態が異なることが示唆された。本結果は関節不動後の理学療法介入を行う際は,緩やかな負荷を行うこと,また荷重部位を考慮する根拠となると考えられる。