[0588] 廃用症候群患者の退院時歩行能力規定因子と予防のための至適活動量に関する研究
Keywords:廃用症候群, 至適活動量, 歩行回復因子
【はじめに,目的】
●研究背景
廃用症候群(以下:廃用)はリハビリテーション(以下リハ)の主要な対象障害のひとつであり,当院でも処方頻度の高い障害名である。当院の廃用患者の歩行能力に関する転帰は,自立群:47%に対し介助群:43%であり,全体の40%超と高い比率で退院時歩行能力に関して問題を抱えているという現状がある。Studenski1)らにより高齢者にとって歩行能力と生存年数に関しては高い相関があることが報告され「歩行」は生活の中での「移動手段」であり生活を営むために,歩けるか否かは非常にシビアな問題となることが推察される。過去の先行レビューより,廃用患者の退院時の歩行獲得に影響する因子としては,年齢や臥床期間,栄養状態,など様々な因子が考えられる。これらの先行研究により廃用患者の歩行能力回復/回復阻害因子について検討した事例は多数あるが,予防のための至適運動量・行動特性について追跡調査した報告はない。
●目的
今回,当院にて廃用に対しリハビリを行った患者の退院時歩行能力に影響を及ぼす因子と廃用予防のための至適活動量と行動特性について抽出することを目的として検討した。
【方法】
●対象 項目①
2010年1月~2013年3月までに廃用の診断名でリハ処方された434例中,介入時に自立歩行不可で退院時に自立歩行レベルまで回復した群202名(77.9±16.3歳)(死亡例,入院前から歩行不可例,意識障害遷延例,退院時自立歩行不可例を除く)を対象とした。
●対象 項目②
入院翌日からリハ依頼(待機日数がない)され,入院から7日以内に歩行経験をした21名(78±3.3歳)を対象とした。
●方法 項目①
診療記録より,廃用発症に関連する46項目について調査し,46項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として単変量解析を行い,ア)年齢70歳未満 イ)認知症なし ウ)入院前屋外歩行自立 エ)リハ依頼待機日数3日以内 オ)握力が標準以上という項目が抽出された。また,単変量解析で有意とされた項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。
●方法 項目②
身体活動量(パナソニック製 3軸加速度付センサー歩数計 アクティマーカーE4800を使用し1日あたりの総歩数を換算)と行動特性(5項目)とADL維持の指標としてのBarthel Indexの点数との関係を統計解析した。【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を計画するにあたり,対象者に与える負担を最小限に抑えるように配慮した。本研究を実施する際には,対象者に本研究の目的および方法などを十分に説明し,研究参加の同意を得た。なお,本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施された。
【結果】
●項目①
多重ロジスティック回帰分析の結果,入院前屋外歩行自立 リハ依頼待機日数3日以内 握力が標準以上 が歩行獲得群と有意な相関を認めた(P<0.05)。
●項目②
1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である「可能性」が示唆された。1500歩以下なら,歩けていても徐々にADLは下がる「可能性」あり。廃用予防のためには離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。
【考察】
歩行回復因子については入院前屋外歩行自立,リハ依頼待機日数が3日以内,握力が標準以上という項目が歩行獲得群と有意な相関を認められ,これは概ね先行研究と相違ない結果となった。廃用予防のための身体活動量としては1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である可能性が示唆され,廃用予防のための行動特性としては離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。1日あたり1500歩という歩数は健康づくりのための身体活動基準2013の中での65歳以上の活動量が男性7000歩/日,女性6000歩/日であり,比較しても決して多い活動量ではなく,1500歩という値がADL維持に寄与したとは考えにくい。むしろ離床も歩行開始も5日以内という早期離床・早期歩行という点の寄与が大きいのではと考えている。先行研究で明らかにされている廃用症候群に陥りやすい因子を保有する症例には予防的観点からリハ依頼までの待機日数を可能な限り短縮する,病棟との連携で早期離床を奨励するなどの伝統的に叫ばれてきた対処法の必要性が本研究を通じて科学的に立証されたと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
予防のための指標,新人理学療法士の介入内容の検討や目標活動量の指標,Evidence構築といった点で意義があるものと思われる。
【引用文献】
1)Studenski S et al:Gait speed and Survival in older Adults.JAMA.2011;305(1):50-58
●研究背景
廃用症候群(以下:廃用)はリハビリテーション(以下リハ)の主要な対象障害のひとつであり,当院でも処方頻度の高い障害名である。当院の廃用患者の歩行能力に関する転帰は,自立群:47%に対し介助群:43%であり,全体の40%超と高い比率で退院時歩行能力に関して問題を抱えているという現状がある。Studenski1)らにより高齢者にとって歩行能力と生存年数に関しては高い相関があることが報告され「歩行」は生活の中での「移動手段」であり生活を営むために,歩けるか否かは非常にシビアな問題となることが推察される。過去の先行レビューより,廃用患者の退院時の歩行獲得に影響する因子としては,年齢や臥床期間,栄養状態,など様々な因子が考えられる。これらの先行研究により廃用患者の歩行能力回復/回復阻害因子について検討した事例は多数あるが,予防のための至適運動量・行動特性について追跡調査した報告はない。
●目的
今回,当院にて廃用に対しリハビリを行った患者の退院時歩行能力に影響を及ぼす因子と廃用予防のための至適活動量と行動特性について抽出することを目的として検討した。
【方法】
●対象 項目①
2010年1月~2013年3月までに廃用の診断名でリハ処方された434例中,介入時に自立歩行不可で退院時に自立歩行レベルまで回復した群202名(77.9±16.3歳)(死亡例,入院前から歩行不可例,意識障害遷延例,退院時自立歩行不可例を除く)を対象とした。
●対象 項目②
入院翌日からリハ依頼(待機日数がない)され,入院から7日以内に歩行経験をした21名(78±3.3歳)を対象とした。
●方法 項目①
診療記録より,廃用発症に関連する46項目について調査し,46項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として単変量解析を行い,ア)年齢70歳未満 イ)認知症なし ウ)入院前屋外歩行自立 エ)リハ依頼待機日数3日以内 オ)握力が標準以上という項目が抽出された。また,単変量解析で有意とされた項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。
●方法 項目②
身体活動量(パナソニック製 3軸加速度付センサー歩数計 アクティマーカーE4800を使用し1日あたりの総歩数を換算)と行動特性(5項目)とADL維持の指標としてのBarthel Indexの点数との関係を統計解析した。【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を計画するにあたり,対象者に与える負担を最小限に抑えるように配慮した。本研究を実施する際には,対象者に本研究の目的および方法などを十分に説明し,研究参加の同意を得た。なお,本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施された。
【結果】
●項目①
多重ロジスティック回帰分析の結果,入院前屋外歩行自立 リハ依頼待機日数3日以内 握力が標準以上 が歩行獲得群と有意な相関を認めた(P<0.05)。
●項目②
1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である「可能性」が示唆された。1500歩以下なら,歩けていても徐々にADLは下がる「可能性」あり。廃用予防のためには離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。
【考察】
歩行回復因子については入院前屋外歩行自立,リハ依頼待機日数が3日以内,握力が標準以上という項目が歩行獲得群と有意な相関を認められ,これは概ね先行研究と相違ない結果となった。廃用予防のための身体活動量としては1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である可能性が示唆され,廃用予防のための行動特性としては離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。1日あたり1500歩という歩数は健康づくりのための身体活動基準2013の中での65歳以上の活動量が男性7000歩/日,女性6000歩/日であり,比較しても決して多い活動量ではなく,1500歩という値がADL維持に寄与したとは考えにくい。むしろ離床も歩行開始も5日以内という早期離床・早期歩行という点の寄与が大きいのではと考えている。先行研究で明らかにされている廃用症候群に陥りやすい因子を保有する症例には予防的観点からリハ依頼までの待機日数を可能な限り短縮する,病棟との連携で早期離床を奨励するなどの伝統的に叫ばれてきた対処法の必要性が本研究を通じて科学的に立証されたと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
予防のための指標,新人理学療法士の介入内容の検討や目標活動量の指標,Evidence構築といった点で意義があるものと思われる。
【引用文献】
1)Studenski S et al:Gait speed and Survival in older Adults.JAMA.2011;305(1):50-58