[0594] 変形性股関節症患者における段差昇段時の運動学的・運動力学的特徴
キーワード:変形性股関節症, 昇段動作, 関節モーメント
【はじめに】階段昇降は日常生活の中でも行われることが多い動作のひとつである。変形性股関節症(以下,股OA)は様々な日常生活動作の低下をきたす進行性の関節変性疾患であるが,その動作解析を行った研究では主に歩行解析を扱った報告が多く,段差昇段動作を解析した報告は見当たらない。段差昇段時には歩行時よりも大きい筋活動を必要とすることから,下肢筋力低下を呈する股OA患者の段差昇段では関節モーメント低下や関節運動異常といった運動学的・運動力学的変化が生じている可能性がある。本研究の目的は,股OA患者における段差昇段動作の運動学的・運動力学的特徴を,健常者との比較により明らかにすることである。
【方法】対象は,地域に在住している進行期または末期の股OA女性患者15名(平均年齢54.8±6.3歳,身長156.7±4.3cm,体重52.9±6.4kg,以下OA群)および健常女性10名(55.9±4.8歳,157.3±3.3cm,54.7±4.1kg,以下健常群)とした。解析対象側はOA群では患側,健常群では非利き脚側とした。段差昇段動作の開始肢位は両上肢を体幹の前で組んだ立位とし,前方の高さ17cmの段上に対象側下肢から昇段する動作を自由速度で実施した。解析には3次元動作解析装置(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用し,反射マーカーはplug in gait full bodyモデルに準じて貼付した。対象側下肢が段上に接地してから反対側下肢が段上に接地するまでの所要時間(秒)を求めた。この区間の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈の内的モーメントと,これらの総和であるサポートモーメント(Nm/kg)を求めた。サポートモーメントがピーク値となった時の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈のモーメント値を求め,さらにサポートモーメントに対するそれぞれの比率を算出した。またこの時の体幹屈曲,股関節屈曲,膝関節屈曲および足関節底屈角度(°)を求めた。試行回数は3回とし,平均値を分析に用いた。統計学的検定として,対応のないt検定を用いて,各測定項目の群間比較を行った。また,Friedman検定およびWilcoxon検定(Bonferroni補正)を用いて,股関節伸展,膝関節伸展と足関節底屈のモーメント比率の群内比較を行った。統計の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究内容の説明を行い,書面にて参加の同意を得た。
【結果】段差昇段の所要時間は,OA群が1.21±0.33秒,健常群が1.04±0.20秒であり,有意ではないがOA群が長い傾向を示した(p=0.09)。サポートモーメントのピーク値はOA群(1.30±0.22Nm/kg)が健常群(1.58±0.17Nm/kg)よりも有意に低かった(p<0.01)。各関節のモーメントは,股関節伸展(OA群0.39±0.13Nm/kg,健常群0.43±0.18Nm/kg)と膝関節伸展(OA群0.56±0.21Nm/kg,健常群0.56±0.20Nm/kg)では群間の有意差がなかったが,足関節底屈(OA群0.35±0.12Nm/kg,健常群0.59±0.18Nm/kg)ではOA群が有意に低かった(p<0.05)。サポートモーメントに対する股関節伸展,膝関節伸展,足関節底屈モーメントの比率は,OA群では30%,43%,27%であり,膝関節伸展と比較し足関節底屈が有意に低かったが(p<0.05),健常群では27%,36%,37%であり,有意差はなかった。また関節角度は,足関節背屈角度(OA群17.3±3.6°,健常群20.4±4.8°,p<0.05)ではOA群が有意に小さかったが,股関節屈曲,膝関節屈曲と体幹屈曲角度では群間の有意差はなかった。
【考察】本研究の結果,OA群のサポートモーメントは健常群よりも小さかったことから,股OA患者は段差昇段動作を行うにあたっての下肢伸展モーメントの発揮が不十分であり,所要時間が延長していることが示唆された。またこのサポートモーメントの低下には,股関節や膝関節の伸展モーメントよりも足関節底屈モーメントの低下による影響が大きいこと明らかとなった。OA群の足関節背屈角度は健常者と比べ小さかったことから,股OA患者は段差昇段時において足関節背屈に伴う足関節底屈モーメントの発揮が困難であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】臨床上,股OA患者は階段昇降動作の制限を強いられることが多い。本研究は股OA患者の段差昇段動作の評価や治療には股関節や膝関節だけでなく足関節にも着目する必要があることを運動学的・運動力学的に示したものであり,理学療法学の発展のための意義は大きい。
【方法】対象は,地域に在住している進行期または末期の股OA女性患者15名(平均年齢54.8±6.3歳,身長156.7±4.3cm,体重52.9±6.4kg,以下OA群)および健常女性10名(55.9±4.8歳,157.3±3.3cm,54.7±4.1kg,以下健常群)とした。解析対象側はOA群では患側,健常群では非利き脚側とした。段差昇段動作の開始肢位は両上肢を体幹の前で組んだ立位とし,前方の高さ17cmの段上に対象側下肢から昇段する動作を自由速度で実施した。解析には3次元動作解析装置(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用し,反射マーカーはplug in gait full bodyモデルに準じて貼付した。対象側下肢が段上に接地してから反対側下肢が段上に接地するまでの所要時間(秒)を求めた。この区間の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈の内的モーメントと,これらの総和であるサポートモーメント(Nm/kg)を求めた。サポートモーメントがピーク値となった時の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈のモーメント値を求め,さらにサポートモーメントに対するそれぞれの比率を算出した。またこの時の体幹屈曲,股関節屈曲,膝関節屈曲および足関節底屈角度(°)を求めた。試行回数は3回とし,平均値を分析に用いた。統計学的検定として,対応のないt検定を用いて,各測定項目の群間比較を行った。また,Friedman検定およびWilcoxon検定(Bonferroni補正)を用いて,股関節伸展,膝関節伸展と足関節底屈のモーメント比率の群内比較を行った。統計の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究内容の説明を行い,書面にて参加の同意を得た。
【結果】段差昇段の所要時間は,OA群が1.21±0.33秒,健常群が1.04±0.20秒であり,有意ではないがOA群が長い傾向を示した(p=0.09)。サポートモーメントのピーク値はOA群(1.30±0.22Nm/kg)が健常群(1.58±0.17Nm/kg)よりも有意に低かった(p<0.01)。各関節のモーメントは,股関節伸展(OA群0.39±0.13Nm/kg,健常群0.43±0.18Nm/kg)と膝関節伸展(OA群0.56±0.21Nm/kg,健常群0.56±0.20Nm/kg)では群間の有意差がなかったが,足関節底屈(OA群0.35±0.12Nm/kg,健常群0.59±0.18Nm/kg)ではOA群が有意に低かった(p<0.05)。サポートモーメントに対する股関節伸展,膝関節伸展,足関節底屈モーメントの比率は,OA群では30%,43%,27%であり,膝関節伸展と比較し足関節底屈が有意に低かったが(p<0.05),健常群では27%,36%,37%であり,有意差はなかった。また関節角度は,足関節背屈角度(OA群17.3±3.6°,健常群20.4±4.8°,p<0.05)ではOA群が有意に小さかったが,股関節屈曲,膝関節屈曲と体幹屈曲角度では群間の有意差はなかった。
【考察】本研究の結果,OA群のサポートモーメントは健常群よりも小さかったことから,股OA患者は段差昇段動作を行うにあたっての下肢伸展モーメントの発揮が不十分であり,所要時間が延長していることが示唆された。またこのサポートモーメントの低下には,股関節や膝関節の伸展モーメントよりも足関節底屈モーメントの低下による影響が大きいこと明らかとなった。OA群の足関節背屈角度は健常者と比べ小さかったことから,股OA患者は段差昇段時において足関節背屈に伴う足関節底屈モーメントの発揮が困難であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】臨床上,股OA患者は階段昇降動作の制限を強いられることが多い。本研究は股OA患者の段差昇段動作の評価や治療には股関節や膝関節だけでなく足関節にも着目する必要があることを運動学的・運動力学的に示したものであり,理学療法学の発展のための意義は大きい。