[0609] スプリット型フットスイッチを用いた,利き脚・非利き脚の違いによる歩行周期の特性
キーワード:歩行周期, 左右差, トレッドミル
【はじめに,目的】
歩行における利き脚・非利き脚の比較研究は,歩行時の床反力波形と下肢筋力や足趾の運動機能,歩行時間との関連を検討しているものが多く,歩行周期の違いからの検討は,我々の知る限り報告されていない。歩行周期の特定には,加速度計や床反力計内蔵型のトレッドミルが多く活用されているが,加速度計では運動の開始・終了の判断が困難であること,床反力計内蔵型のトレッドミルでは左右が分割したベルトを使用するため歩隔が広がるなどの問題が残されている。
臨床現場では,運動機能を簡便に,かつ正確に測定できる装置が要求される。我々は,靴裏に踵部と前足部を分けたスプリット型フットスイッチを使用することで,heel on-off,toe on-offを同定し,Rancho Los Amigos National Rehabilitation Center(RLANRC)方式に従って歩行周期を細分化して計測できるシステムを作成した。これを用いて,時間的因子の側面から,平地歩行とトレッドミル歩行における利き脚・非利き脚の違いについて検討した。
【方法】
対象は,健常成人18名(男性9名,女性9名,年齢26.8±3.1歳)。神経疾患,整形外科疾患の既往を有するものは除外した。実験課題は,自作のフットスイッチを靴底の踵部・前足部に装着し,平地とトレッドミル上での通常歩行課題とした。平地歩行課題は,速度を主観的快適速度とし,予備歩行路(3m)を通過した時点から10歩行周期分のデータを収集した。トレッドミル歩行課題では,平地歩行で得られた歩行速度と同速度で歩行中の10歩行周期分のデータを収集した。自作のフットスイッチは,踵部と前足部の靴底型に切り取ったマットセンサ(株式会社竹中エンジニアリング製M-68)を小型無線多機能センサTSND121(株式会社ATR-Promotions製)に取り付け,そこからBluetoothを通じて100Hzのサンプリング周波数でコンピュータに記録した。データ解析には,Chart5.56(ADInstruments)を用い,歩行周期時間を正規化し,平地歩行とトレッドミル歩行の歩行周期をRLANRC方式で各相に区分した。なお,利き脚・非利き脚の評価には,Jeanらによる評価表を用いた。解析は,各相について,歩行課題と利き脚に関してTwo- factor repeated measure ANOVAを行い,その後交互作用が得られた場合にTukey法による多重比較を行った。有意水準は,p<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者には事前に研究の主旨を文書にて説明し同意を得てから実験を行った。実験中は疲労や安全性への配慮を行った。
【結果】
平地歩行とトレッドミル歩行で,一歩行周期でかかる時間に主効果・交互作用を認めなかった。RLANRC方式の相ごとでみると,平地歩行とトレッドミル歩行で,利き脚のpre-swing(PSw.非利き脚では,initial contact[IC]とloading response[LR])の増加を認めた(p<0.01)。また,terminal stance(TSt)とterminal swing(TSw)で交互作用を認めた(p<0.05)。多重比較検定の結果,平地歩行に比べトレッドミル歩行で,利き脚のTSt,非利き脚のTSw増加を認めた(p<0.01)。
【考察】
連続的な動作の繰り返しである歩行は,一定のパターンによって下肢を交互に振り出すことで達成される。本研究において,平地歩行とトレッドミル歩行で,非利き脚に比べ,利き脚のPSw増加を認めた。PSwは,遊脚期に移行する時期にあたり,足関節底屈・股関節屈筋群の求心性収縮によって,脚の前方加速に関与するとされている。このことから,前方への推進力には,非利き脚よりも利き脚のPSwが関与し,同時に非利き脚のIC・LRで安定性を得ていることが示唆された。
平地歩行に比べトレッドミル歩行では,利き脚のTSt(非利き脚のTSw)の増加を認めた。このことから,ベルトが後方へ移動するような外環境下では,身体重心の前方加速を制御する時期にあたるTStが大きく関与し,特に,利き脚で優位に制御していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
スプッリト型フットスイッチを用いることで,歩行周期をRLANRC方式に区分することが可能で,時間的因子について簡便に把握することができた。今後,歩行障害を有する患者の歩行データを蓄積することで,治療効果判定に役立つと考えられた。
歩行における利き脚・非利き脚の比較研究は,歩行時の床反力波形と下肢筋力や足趾の運動機能,歩行時間との関連を検討しているものが多く,歩行周期の違いからの検討は,我々の知る限り報告されていない。歩行周期の特定には,加速度計や床反力計内蔵型のトレッドミルが多く活用されているが,加速度計では運動の開始・終了の判断が困難であること,床反力計内蔵型のトレッドミルでは左右が分割したベルトを使用するため歩隔が広がるなどの問題が残されている。
臨床現場では,運動機能を簡便に,かつ正確に測定できる装置が要求される。我々は,靴裏に踵部と前足部を分けたスプリット型フットスイッチを使用することで,heel on-off,toe on-offを同定し,Rancho Los Amigos National Rehabilitation Center(RLANRC)方式に従って歩行周期を細分化して計測できるシステムを作成した。これを用いて,時間的因子の側面から,平地歩行とトレッドミル歩行における利き脚・非利き脚の違いについて検討した。
【方法】
対象は,健常成人18名(男性9名,女性9名,年齢26.8±3.1歳)。神経疾患,整形外科疾患の既往を有するものは除外した。実験課題は,自作のフットスイッチを靴底の踵部・前足部に装着し,平地とトレッドミル上での通常歩行課題とした。平地歩行課題は,速度を主観的快適速度とし,予備歩行路(3m)を通過した時点から10歩行周期分のデータを収集した。トレッドミル歩行課題では,平地歩行で得られた歩行速度と同速度で歩行中の10歩行周期分のデータを収集した。自作のフットスイッチは,踵部と前足部の靴底型に切り取ったマットセンサ(株式会社竹中エンジニアリング製M-68)を小型無線多機能センサTSND121(株式会社ATR-Promotions製)に取り付け,そこからBluetoothを通じて100Hzのサンプリング周波数でコンピュータに記録した。データ解析には,Chart5.56(ADInstruments)を用い,歩行周期時間を正規化し,平地歩行とトレッドミル歩行の歩行周期をRLANRC方式で各相に区分した。なお,利き脚・非利き脚の評価には,Jeanらによる評価表を用いた。解析は,各相について,歩行課題と利き脚に関してTwo- factor repeated measure ANOVAを行い,その後交互作用が得られた場合にTukey法による多重比較を行った。有意水準は,p<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者には事前に研究の主旨を文書にて説明し同意を得てから実験を行った。実験中は疲労や安全性への配慮を行った。
【結果】
平地歩行とトレッドミル歩行で,一歩行周期でかかる時間に主効果・交互作用を認めなかった。RLANRC方式の相ごとでみると,平地歩行とトレッドミル歩行で,利き脚のpre-swing(PSw.非利き脚では,initial contact[IC]とloading response[LR])の増加を認めた(p<0.01)。また,terminal stance(TSt)とterminal swing(TSw)で交互作用を認めた(p<0.05)。多重比較検定の結果,平地歩行に比べトレッドミル歩行で,利き脚のTSt,非利き脚のTSw増加を認めた(p<0.01)。
【考察】
連続的な動作の繰り返しである歩行は,一定のパターンによって下肢を交互に振り出すことで達成される。本研究において,平地歩行とトレッドミル歩行で,非利き脚に比べ,利き脚のPSw増加を認めた。PSwは,遊脚期に移行する時期にあたり,足関節底屈・股関節屈筋群の求心性収縮によって,脚の前方加速に関与するとされている。このことから,前方への推進力には,非利き脚よりも利き脚のPSwが関与し,同時に非利き脚のIC・LRで安定性を得ていることが示唆された。
平地歩行に比べトレッドミル歩行では,利き脚のTSt(非利き脚のTSw)の増加を認めた。このことから,ベルトが後方へ移動するような外環境下では,身体重心の前方加速を制御する時期にあたるTStが大きく関与し,特に,利き脚で優位に制御していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
スプッリト型フットスイッチを用いることで,歩行周期をRLANRC方式に区分することが可能で,時間的因子について簡便に把握することができた。今後,歩行障害を有する患者の歩行データを蓄積することで,治療効果判定に役立つと考えられた。