[0624] 大腿前面筋エコー強度と1年後の運動器リスク出現との関係
Keywords:高齢者, エコー強度, 運動器
【はじめに,目的】本研究では,介護予防における運動器のリスクを評価するための新たな指標を開発するために,大腿前面の超音波画像から筋の繊維化の状態を筋エコー強度(大腿EI)によって評価し,1年後の運動器リスク出現との関係を検討した。
【方法】被験者は,東京都健康長寿医療センターにおいて実施した,包括的な生活機能検査「お達者健診2011」の受診者であった。受診者は,東京都板橋区のうちの9地区に在住する65歳~84歳の男女全員である7,162名を抽出し,施設入居者や,過去の健診受診者を除外した6,699名に対して案内状を発送し募集した。健診の受診者のうち898名が研究へのデータ使用に同意した(ベースライン調査)。これらの対象について,1年後に,追跡のための健診を実施した(追跡調査)。516名が受診し,このうち,ベースライン調査,追跡調査ともに基本チェックリストの回答を得ることができた502名を分析対象者とした。
大腿EIは,ベースライン調査時に超音波計測装置(みるキューブ,グローバルヘルス社製)を用いて撮影した超音波画像から,画像解析ソフトウェア(Adobe Photoshop Element 7.0)を用い,大腿四頭筋部の平均輝度を測定した。運動器リスクは,ベースライン調査および追跡調査において,基本チェックリストを自記式により実施し,厚生労働省の基準に従って運動器リスクの該当・非該当を判定した。
統計解析では,大腿EIの男女別の4分位をもとに分析対象者を4段階の区分に分け,各段階における1年後の運動器リスクの出現との関係をχ2検定にて検討した。また,運動器リスク出現への指標のオッズ比を求めるために,追跡調査時の運動器リスクの有無を従属変数,追跡調査時の運動器リスクと関連が認められた指標,ベースライン時の運動器リスクの有無を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。さらに,大腿EIの新規運動器リスク出現予測の感度・特異度をROC曲線にて求めた。統計にはIBM SPSS Statistics Version 19を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の参加者に対しては,「疫学研究に関する倫理指針」に基づき,研究の目的などについて明確に説明し,本人から書面による同意を得た。本研究は,所属機関の倫理委員会において審査され,承認を受けた。
【結果】ベースライン時の大腿EIの4段階と,追跡調査における運動器リスクの出現との関係は,大腿EIが高いほど運動器リスクの出現率が有意に高かった。
追跡調査における運動器リスクの出現を従属変数,年齢,大腿EI4区分,ベースライン時の運動器リスクの出現を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果,大腿EI,ベースライン時の運動器リスクの有無は追跡調査における運動器リスクの出現に有意に関連していた。大腿EIが最も高い段階の者では,最も低い段階の者に比べて,2.25倍(95%信頼区間(CI):1.05-4.84)運動器リスクの出現率が高かった。
分析対象者のうち,追跡調査において新規に運動器リスクの出現した者56名,該当なしの者390名について,大腿EIの新規運動器リスク出現予測に対する感度・特異度をROC曲線から求めると,新規運動器リスク出現予測に対する大腿EIの感度は0.679,特異度は0.579でカットオフ値は88.5であった。
【考察】大腿EIは,1年後の運動器リスク出現に関係しており,高齢期における運動器の機能低下には,筋の質の変化が影響していると考えられた。
さらに,1年後の運動器リスクの出現に対しては,ベースライン時の運動器リスクの有無を調整しても,大腿EIが高い者では運動器リスクの出現率が高まることが示され,大腿EIは運動器リスクの出現予測に活用できることが示唆された。
一方,新規運動器リスク出現予測に対する大腿EIの感度・特異度は,約60~70%であり,運動機能検査項目の移動能力制限などの識別力を求めた先行研究に比べると低いながらも,安全な形態測定としては十分活用できる精度ではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器リスクの評価指標には膝伸展筋力や歩行速度があるが,これらの指標の測定には,虚弱高齢者に対しては関節組織に損傷を与える危険性があることや,十分なスペースが確保できない場所では測定が困難であるなどの課題がある。虚弱高齢者に対して従来よりも安全に運動器リスクを評価できる方法を検討した本研究は,理学療法学研究として意義がある。
【方法】被験者は,東京都健康長寿医療センターにおいて実施した,包括的な生活機能検査「お達者健診2011」の受診者であった。受診者は,東京都板橋区のうちの9地区に在住する65歳~84歳の男女全員である7,162名を抽出し,施設入居者や,過去の健診受診者を除外した6,699名に対して案内状を発送し募集した。健診の受診者のうち898名が研究へのデータ使用に同意した(ベースライン調査)。これらの対象について,1年後に,追跡のための健診を実施した(追跡調査)。516名が受診し,このうち,ベースライン調査,追跡調査ともに基本チェックリストの回答を得ることができた502名を分析対象者とした。
大腿EIは,ベースライン調査時に超音波計測装置(みるキューブ,グローバルヘルス社製)を用いて撮影した超音波画像から,画像解析ソフトウェア(Adobe Photoshop Element 7.0)を用い,大腿四頭筋部の平均輝度を測定した。運動器リスクは,ベースライン調査および追跡調査において,基本チェックリストを自記式により実施し,厚生労働省の基準に従って運動器リスクの該当・非該当を判定した。
統計解析では,大腿EIの男女別の4分位をもとに分析対象者を4段階の区分に分け,各段階における1年後の運動器リスクの出現との関係をχ2検定にて検討した。また,運動器リスク出現への指標のオッズ比を求めるために,追跡調査時の運動器リスクの有無を従属変数,追跡調査時の運動器リスクと関連が認められた指標,ベースライン時の運動器リスクの有無を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。さらに,大腿EIの新規運動器リスク出現予測の感度・特異度をROC曲線にて求めた。統計にはIBM SPSS Statistics Version 19を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の参加者に対しては,「疫学研究に関する倫理指針」に基づき,研究の目的などについて明確に説明し,本人から書面による同意を得た。本研究は,所属機関の倫理委員会において審査され,承認を受けた。
【結果】ベースライン時の大腿EIの4段階と,追跡調査における運動器リスクの出現との関係は,大腿EIが高いほど運動器リスクの出現率が有意に高かった。
追跡調査における運動器リスクの出現を従属変数,年齢,大腿EI4区分,ベースライン時の運動器リスクの出現を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った結果,大腿EI,ベースライン時の運動器リスクの有無は追跡調査における運動器リスクの出現に有意に関連していた。大腿EIが最も高い段階の者では,最も低い段階の者に比べて,2.25倍(95%信頼区間(CI):1.05-4.84)運動器リスクの出現率が高かった。
分析対象者のうち,追跡調査において新規に運動器リスクの出現した者56名,該当なしの者390名について,大腿EIの新規運動器リスク出現予測に対する感度・特異度をROC曲線から求めると,新規運動器リスク出現予測に対する大腿EIの感度は0.679,特異度は0.579でカットオフ値は88.5であった。
【考察】大腿EIは,1年後の運動器リスク出現に関係しており,高齢期における運動器の機能低下には,筋の質の変化が影響していると考えられた。
さらに,1年後の運動器リスクの出現に対しては,ベースライン時の運動器リスクの有無を調整しても,大腿EIが高い者では運動器リスクの出現率が高まることが示され,大腿EIは運動器リスクの出現予測に活用できることが示唆された。
一方,新規運動器リスク出現予測に対する大腿EIの感度・特異度は,約60~70%であり,運動機能検査項目の移動能力制限などの識別力を求めた先行研究に比べると低いながらも,安全な形態測定としては十分活用できる精度ではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器リスクの評価指標には膝伸展筋力や歩行速度があるが,これらの指標の測定には,虚弱高齢者に対しては関節組織に損傷を与える危険性があることや,十分なスペースが確保できない場所では測定が困難であるなどの課題がある。虚弱高齢者に対して従来よりも安全に運動器リスクを評価できる方法を検討した本研究は,理学療法学研究として意義がある。