[0626] 地域在住健常高年齢者における日常生活動作・生活関連動作の価値序列
キーワード:日常生活動作, 価値序列, 前期高齢者
【はじめに】リハビリテーションに携わる者は,その対象範囲が拡大するに従い幅広い特性の対象者と向き合わなくてはならない。また,近年の医療や社会事情により高年齢者を対象とする場合が多い。本研究では地域在住高年齢者の日常生活動作(ADL)・生活関連動作(APDL)の価値序列を調査し,属性による価値観の違いを明らかにすることで,個々のニーズに即したリハビリテーション提供の重要性を検討したので報告する。
【方法】対象は,社団法人姫路市シルバー人材センターの入会説明会に参加した健常高年齢者97名(男55名,女42名,平均年齢男65.5±4.4歳,女64.5±3.3歳)とした。自記式質問紙法を用いADL・APDL11項目の価値序列,対象者の特性を調査した。調査項目は,基本的属性(性別・年齢・家族構成・普段の外出頻度・交通手段),心理・社会的特性(介護が必要になった際の身近な介護者の有無・近隣との交際の有無・地域や家庭での仕事や役割の有無・趣味の有無・携帯電話の有無)とした。統計学的検討は,対象を10条件(全対象,性別,家族構成,介護者の有無,役割の有無,普段の交通手段,外出頻度の多寡,友人の有無,趣味の有無,携帯電話の有無)によって24グループに分類し,各条件内において,グループ間の一元配置分散分析およびt検定を行った。また,勝率の有意差は多重比較を用いて検定を行った。
【倫理的配慮】対象者には研究の趣旨を書面と口頭にて説明し,十分な理解と同意を得た。また,本研究は姫路獨協大学生命倫理委員会の承認(承認番号:姫獨生11-13)を得た。
【結果】全対象者の価値序列は,1位:排泄(82.1%),2位:食事(66.2%),3位:入浴(65.5%),4位:意志伝達(63.8%),5位:仕事・家事(55.5%),6位:屋内(50.5%),7位:更衣(41.2%),8位:屋外(36.8%),9位:趣味(36.3%),10位:交際(26.3%),11位:整容(25.9%)であった。このうち,排泄は全グループに共通して1位であり,食事・入浴・意志伝達は,多くのグループで2~4位のいずれかの順位であった。1~11位の順位を3群に大別することができ,上位項目群は排泄・食事・入浴・意志伝達,中位項目に,仕事(家事),下位項目群に,屋内移動・更衣・屋外移動・趣味・交際・整容となった。
【考察】本研究結果より各項目の重要性は3群に大別された。まず上位項目群は,生命維持に直接関与する項目が主に占め,各グループに共通して高い勝率であった。特に「排泄」は,介護を受けることに対して強い羞恥心を感じる項目であるため上位となった。中位項目の「仕事(家事)」は,社会参加により生きがいに繋がる重要な要因と考えられる。下位項目群のADL項目は,介護を受けても羞恥心を感じにくく,介護負担が少ない項目が占め,APDL項目は高次元の欲求を満たす項目であるため,順位が低くなったと考えられた。これらの結果より,地域在住健常高年齢者のADL・APDLに対する価値序列は,対象者の属性により相違があると考えられた。次に,勝率の相違がみられた対象者の特性として,「性別」・「介護者の有無」・「外出頻度の多寡」・「家族構成」が挙げられた。性別では男性の方が,また外出頻度が少ない者よりも多い者の方が「自分の思っていることが伝えられない」ことをより困ると考え,意志伝達を重要視していた。また,介護者がいない者の方がいる者よりも「一人で服が着替えられない」・「自分で身づくろいが出来ない」ことをより困ると考え,それとは反対に意志伝達を軽視している傾向がみられた。本研究対象者の特性を表すといえる「仕事(家事)」の勝率については,男女共に5位と高順位であった。対象者の多くは,定年退職等により仕事や役割の喪失を受け,再就労を希望する集合体であるためと考えられた。本研究対象の価値序列は,マズローの5段階欲求階層説に沿った段階的な発現方向と同様の傾向がみられた。しかし,仕事(家事)が中位項目となったのは,たとえ「生命を維持するための行為」と「対人を意識する行為(身だしなみ)」が自立していなくとも,地域あるいは社会を意識した行為を遂行できることが重要視されていることを意味する。このことは,対象者それぞれのQOLを踏まえたリハビリテーションが重要であることを示している。近年,文化・社会・医学が高度化し,「生活の質」が向上かつ多様化している。本研究結果より現代の高年齢者の価値序列は,個人的相違が大きいことが明らかになった。したがって理学療法士は,対象者個々の価値観を尊重したリハビリテーション提供の重要性を再認識する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法介入が個々の特性を考慮し,対象者の望む「生活」を目指すものであることの重要性が改めて示唆された。
【方法】対象は,社団法人姫路市シルバー人材センターの入会説明会に参加した健常高年齢者97名(男55名,女42名,平均年齢男65.5±4.4歳,女64.5±3.3歳)とした。自記式質問紙法を用いADL・APDL11項目の価値序列,対象者の特性を調査した。調査項目は,基本的属性(性別・年齢・家族構成・普段の外出頻度・交通手段),心理・社会的特性(介護が必要になった際の身近な介護者の有無・近隣との交際の有無・地域や家庭での仕事や役割の有無・趣味の有無・携帯電話の有無)とした。統計学的検討は,対象を10条件(全対象,性別,家族構成,介護者の有無,役割の有無,普段の交通手段,外出頻度の多寡,友人の有無,趣味の有無,携帯電話の有無)によって24グループに分類し,各条件内において,グループ間の一元配置分散分析およびt検定を行った。また,勝率の有意差は多重比較を用いて検定を行った。
【倫理的配慮】対象者には研究の趣旨を書面と口頭にて説明し,十分な理解と同意を得た。また,本研究は姫路獨協大学生命倫理委員会の承認(承認番号:姫獨生11-13)を得た。
【結果】全対象者の価値序列は,1位:排泄(82.1%),2位:食事(66.2%),3位:入浴(65.5%),4位:意志伝達(63.8%),5位:仕事・家事(55.5%),6位:屋内(50.5%),7位:更衣(41.2%),8位:屋外(36.8%),9位:趣味(36.3%),10位:交際(26.3%),11位:整容(25.9%)であった。このうち,排泄は全グループに共通して1位であり,食事・入浴・意志伝達は,多くのグループで2~4位のいずれかの順位であった。1~11位の順位を3群に大別することができ,上位項目群は排泄・食事・入浴・意志伝達,中位項目に,仕事(家事),下位項目群に,屋内移動・更衣・屋外移動・趣味・交際・整容となった。
【考察】本研究結果より各項目の重要性は3群に大別された。まず上位項目群は,生命維持に直接関与する項目が主に占め,各グループに共通して高い勝率であった。特に「排泄」は,介護を受けることに対して強い羞恥心を感じる項目であるため上位となった。中位項目の「仕事(家事)」は,社会参加により生きがいに繋がる重要な要因と考えられる。下位項目群のADL項目は,介護を受けても羞恥心を感じにくく,介護負担が少ない項目が占め,APDL項目は高次元の欲求を満たす項目であるため,順位が低くなったと考えられた。これらの結果より,地域在住健常高年齢者のADL・APDLに対する価値序列は,対象者の属性により相違があると考えられた。次に,勝率の相違がみられた対象者の特性として,「性別」・「介護者の有無」・「外出頻度の多寡」・「家族構成」が挙げられた。性別では男性の方が,また外出頻度が少ない者よりも多い者の方が「自分の思っていることが伝えられない」ことをより困ると考え,意志伝達を重要視していた。また,介護者がいない者の方がいる者よりも「一人で服が着替えられない」・「自分で身づくろいが出来ない」ことをより困ると考え,それとは反対に意志伝達を軽視している傾向がみられた。本研究対象者の特性を表すといえる「仕事(家事)」の勝率については,男女共に5位と高順位であった。対象者の多くは,定年退職等により仕事や役割の喪失を受け,再就労を希望する集合体であるためと考えられた。本研究対象の価値序列は,マズローの5段階欲求階層説に沿った段階的な発現方向と同様の傾向がみられた。しかし,仕事(家事)が中位項目となったのは,たとえ「生命を維持するための行為」と「対人を意識する行為(身だしなみ)」が自立していなくとも,地域あるいは社会を意識した行為を遂行できることが重要視されていることを意味する。このことは,対象者それぞれのQOLを踏まえたリハビリテーションが重要であることを示している。近年,文化・社会・医学が高度化し,「生活の質」が向上かつ多様化している。本研究結果より現代の高年齢者の価値序列は,個人的相違が大きいことが明らかになった。したがって理学療法士は,対象者個々の価値観を尊重したリハビリテーション提供の重要性を再認識する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法介入が個々の特性を考慮し,対象者の望む「生活」を目指すものであることの重要性が改めて示唆された。