第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅1

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:小泉利光(北海道総合在宅ケア事業団登別訪問看護ステーション)

生活環境支援 ポスター

[0635] 訪問看護リハビリ利用の在宅療養生活者における自宅内転倒の実態

西田成々子, 吉川輝 (LE在宅・施設訪問看護ステーション)

キーワード:転倒, 在宅療養者, 訪問看護リハビリ

【はじめに,目的】
本邦における高齢社会において,転倒と要介護の関係については重要な課題になっている。介護保険制度の導入後,在宅で様々なサービスを利用しながらの療養生活者は今後も増加が見込まれている。平成22年における介護が必要になった原因の第5位は骨折・転倒となっており,ここからも転倒予防対策は重要な課題である。
現在,本邦における65歳以上の一般在宅高齢者の年間転倒率は約15~20%,そのうち約5~10%が骨折していると報告されている。しかし,これらの報告は一般地域在住高齢者が対象である事が多く,在宅療養生活者のみを対象にした転倒の実態についての報告は少ない。さらに既存の報告は,アンケート調査が基でアンケート聴取の対象者を高齢者自身とし過去数ヶ月~1年の記憶を遡ってもらっているため,実際の転倒より過小評価されていると指摘がある。
そこで本調査は,在宅療養生活者の自宅内転倒のより詳細な実態を把握する事を目的に訪問看護リハビリ利用者に着目し転倒調査を行った。
【方法】
平成24年4月1日~平成25年3月31日の1年間に訪問看護リハビリ利用者529名を対象に,訪問時に転倒の有無の聴取を行った。聴取は,前回の訪問後から当日の訪問時までの転倒の有無・回数・時間帯・場所等を本人及びKey Personから毎回聴取し転倒発生時は,その実態を利用者の基本情報も含め転倒調査表に入力し,その情報を集計した。
なお,転倒の定義は「本人の意思からではなく,同一平面上で足底以外の身体の一部が触れること」とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査は,個人情報の取り扱いに関する規約に基づき書面上で説明の上,同意を得ている。
【結果】
1年間での転倒発生率は19.3%(102名)で,転倒発生回数は256回だった。年齢別にみると,80~84歳で転倒報告が最も多く28.4%であった。要介護度別にみると,要支援1の利用者はおらず,要支援2:16.6%,要介護1:9.8%,要介護2:15.7%,要介護3:21.6%,要介護度4:25.6%,要介護5:10.7%,介護保険対象外:6.9%であり,要介護度に関わらず転倒が生じていた。利用者は複数疾患を有しているため全ての疾患を集計した結果,脳血管疾患:31.4%,パーキンソン病:17.6%,認知症:10.8%,難病:6.9%,整形外科疾患:66.7%,循環器疾患:70.6%,呼吸器疾患:9.8%,内分泌疾患21.6%,その他26.5%だった。転倒回数1回のみの転倒者は53.9%,2回以上の複数回転倒者は46.1%だった。転倒発生場所は,リビング:30.5%,寝室:27.0%であり,この2ヶ所が全体の転倒発生場所の約60%を占めていた。次いで,外出先:9.0%,トイレ:9.0%,台所:7.4%,玄関:4.7%,庭:3.9%,浴室:2.7%,洗面所:2.7%,廊下:1.6%,不明:1.6%であった。転倒発生時刻は,6時~9時で10.9%,9時~12時で17.6%と朝から午前中での転倒が多く認められた。転倒発生後は,自宅にて経過観察が89.5%だが,何らかの外傷により入院してしまったケースが3.1%あった。
【考察】
本調査は在宅療養生活を送っている訪問看護リハビリ利用者における自宅内転倒の実態を明らかにした。その結果,転倒場所はリビング・寝室など生活拠点となる場所で約60%を占めており,転倒の危険が懸念されているトイレ・浴室・玄関などADL場面での転倒はそれほど高値を示さなかった。その理由として,危険が懸念されている場所においてはポータブルトイレでの危険回避,入浴時の介助者導入等の対応,手すり等の福祉用具設置で対処しているためと考えられる。リビングや寝室での転倒発生が起床時や活動開始時間に多く転倒が生じていたことに対しては,起床直後に起因する身体能力の低下,早朝による介助サービスの導入困難が原因と推測される。
また今回の調査では,80~84歳での転倒割合が一番多かった。しかし,転倒による外傷は3%程度であったが,骨折をはじめとする外傷に至る可能性が高い。加えて,転倒による外傷は無くとも転倒恐怖感などの精神心理面の低下,身体機能ADL低下が認められる転倒後症候群に陥る危険性が高い。さらに転倒後症候群は,本人だけなく家族を含めた介護者の負担増大に繋がる恐れがある。
再転倒に関しては,パーキンソン病を有する利用者で最も多く,何らかの特化した対策を講じていく必要があると分かった。
以上より今後は,本調査を基に疾患別・要介護度別・認知度別などの転倒の傾向及び相関関係について詳細に分析し転倒予防・転倒後症候群予防に努めていく。
【理学療法学研究としての意義】
本調査結果より,在宅療養生活者の自宅内転倒の実態が明らかになった。本調査は訪問に携わる者が,家族指導も含めた転倒予防活動を実施する上で有益な情報になり,在宅療養生活者が安心・安全に過ごしていくための一旦を担えると期待できる。