第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法13

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (神経)

座長:松尾篤(畿央大学健康科学部理学療法学科)

神経 ポスター

[0649] 脳卒中片麻痺患者の麻痺側上肢末梢循環動態に関する横断的検討

照井駿明1,2, 皆方伸1, 吉田英樹2 (1.秋田県立脳血管研究センター, 2.弘前大学大学院保健学研究科)

Keywords:脳卒中, 末梢循環, 麻痺側上肢

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺(片麻痺)患者は,麻痺側上肢の運動麻痺や感覚障害に加え,浮腫などの循環障害を呈することが多い。この原因としては諸説あるが,運動麻痺により筋のポンプ作用や血管運動が低下することが挙げられる。この他に,脳卒中後の複合性局所疼痛症候群では,交感神経活動の亢進により末梢血管が収縮し,末梢循環が低下することが指摘されている。しかし,片麻痺患者の麻痺側上肢末梢循環動態の特徴については未だに不明な点が多く,関連する先行研究も少ないのが現状である。そこで本研究では,片麻痺患者の麻痺側上肢末梢循環動態について横断的に検討することを目的とした。
【方法】
本研究への参加に同意の得られた回復期病棟に入院中の片麻痺患者31名(男性18例,女性13例,平均年齢64.7歳,発症からの平均期間87.0日)を対象とした。上肢運動麻痺の重症度の内訳は,Brunnstrom stage(Brs)1が1例,2が9例,Brs3が4例,Br4が4例,Br5が7例,Brs6が6例であった。なお,両片麻痺や小脳梗塞,及び小脳出血,重度の糖尿病患者など末梢循環に障害をきたす合併症を有する患者は除外した。上肢末梢循環動態に関する評価項目については,麻痺側上肢の浮腫に関する指標として,麻痺側および非麻痺側中指の遠位指節間(DIP)関節部での周径を測定した。さらに,麻痺側および非麻痺側上肢の末梢血流量に関する指標として,手関節部橈骨動脈での最高血流速度と中指のDIP関節手掌側中央部での皮膚温を超音波血流計(ES-100V3,Hadeco)とデジタルサーモメーター(Model 4100,abbott diagnostics)を用いてそれぞれ測定した。なお各評価において,自律神経活動に影響を及ぼす可能性のある食後や入浴後,訓練後などは避け評価を実施した。分析では,各評価項目に関する麻痺側と非麻痺側間での比較の他,運動麻痺重症例(重症例:Brs2~3)と運動麻痺軽症例(軽症例:Brs4~6)との間での比較を対応のないt検定もしくはMann-WhitneyのU検定を用いて行った。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への同意および同意の撤回の自由,プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明し同意を得た。
【結果】
中指DIP関節部の周径(平均値)については,麻痺側は5.4cm,非麻痺側は5.0cmであり,非麻痺側と比較して麻痺側での有意な増加を認めた。一方,重症例は5.3cm,軽症例は5.5cmであり,軽症例での増加傾向を認めたものの有意差は認めなかった。手関節部橈骨動脈での最高血流速度(平均値)については,麻痺側は23.1cm/s,非麻痺側は21.3cm/sであり,麻痺側での増加傾向を認めたものの有意差は認めなかった。一方,重症例は22.7cm/s,軽症例は22.8cm/sであり,明らかな違いを認めなかった。中指DIP関節手掌側中央部での皮膚温(中央値)については,麻痺側は34.2℃,非麻痺側は33.7℃であり,麻痺側での上昇傾向を認めたものの有意差は認めなかった。また,重症例は34.4℃,軽症例は34.3℃であり,明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究結果をまとめると,片麻痺患者の麻痺側上肢では運動麻痺の重症度に関わらず非麻痺側上肢と比較して末梢の浮腫を認めるとともに,橈骨動脈での最高血流速度が増加し,かつ皮膚温も上昇する傾向を認めた。麻痺側上肢末梢の浮腫については,運動麻痺が軽度であっても麻痺側上肢の使用量は減少するため,麻痺側上肢の筋活動が低下し,筋のポンプ作用による静脈還流の減少が関与していた可能性が考えられる。一方,麻痺側上肢末梢の最高血流速度の増加や皮膚温の上昇は,麻痺側上肢末梢循環の促進を示唆するものであり,麻痺側上肢では動脈血の流入量が非麻痺側上肢よりも増加している可能性も考えられる。この原因は不明であるが,浮腫が存在している状況下では,弾性に乏しい静脈が圧迫されることで静脈還流量が制限され,浮腫がさらに悪化する可能性も考えられる。本研究は片麻痺患者の麻痺側上肢末梢循環動態の一側面を横断的に検討したものである。肩手症候群に関するこれまでの報告では,発症後間もなくは麻痺側上肢において浮腫を呈するものの,経過するにつれ浮腫が軽減することが指摘されている。よって麻痺側末梢上肢循環動態の詳細を検討するためには症例数を増やした縦断的な研究が今後必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,運動麻痺の重症度に関わらず,麻痺側手指皮膚温の上昇と浮腫が生じることが示唆され,脳卒中片麻痺患者における拘縮予防などのリスク管理に対する方策を検討する上で極めて意義深いと考える。