第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

福祉用具・地域在宅2

Fri. May 30, 2014 6:05 PM - 6:55 PM 第6会場 (3F 304)

座長:金谷さとみ(菅間記念病院リハビリテーション科)

生活環境支援 口述

[0662] 目標設定における患者の意思決定の程度とADLや心理機能の変化量との関連性

尾川達也1,2, 大門恭平1, 森岡周1 (1.畿央大学大学院健康科学研究科, 2.西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部)

Keywords:回復期, 目標設定, 意思決定

【はじめに,目的】
リハビリテーション(以下,リハビリ)における目標設定は他職種チームと患者がどのようにリハビリを実行していくかを議論するプロセスと定義されており(Wade 2009),目標設定に患者を参加させることの重要性が強調されている。目標設定に患者を参加させる効果としては,入院患者の心理機能の改善や治療への関与の増大などが報告されている(McGrath 1999,Wressle 2002)。しかし,その効果の理由については十分に検討されていない。先行研究では,目標設定における患者の意思決定の程度で比較したものの他に,目標の達成度や患者の主観的な改善度に関連する要因を検討したものがあるが,ADLや心理機能の変化量とは関連がなかったと報告されている(Holliday 2007,Turner-Stokes 2010)。
一方,目標設定に関する心理学の研究では,個人が重要としている目標を達成することで主観的な改善につながり,心理機能が改善するとされるPersonal Goal(以下,PG)モデルが提唱されており(Brunstein 1993,1998),目標設定における患者の意思決定の程度と主観的な改善度の両方の必要性を示している。そこで今回,回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)の新規入院患者を対象に,目標設定における患者の意思決定の程度とADLや心理機能の変化量との関連性についてPGモデルを用いて検討することとする。
【方法】
対象は,当院の回リハ病棟の新規入院患者のうち重度な認知機能の低下や高次脳機能障害によりコミュニケーションが困難なものを除いた9名(男性2名,女性7名,平均年齢80.1±9.1歳)であり,疾患は脳血管疾患5名,運動器疾患3名,廃用症候群1名であった。初期評価は入院後10日以内に実施し,最終評価は初期評価終了4週後に実施した。評価項目は,認知機能としてMini Mental State Examination,ADLとしてFunctional Independence Measure,Barthel Index(BI),心理機能としてHospital Anxiety and Depression Scale(HADS;下位項目である不安,抑うつに分類),General Health Questionnaire-12を用いた。また,最終評価のみ目標設定における患者の意思決定の程度を4段階で評価するPatient Participation Scale(PPC)と入院時からの主観的な改善度を7段階で評価するClinical Global Impression(CGI)を追加で評価し,担当療法士からは各患者の目標の内容を聴取した。統計解析は,PPCとCGIの両方の評価で中央値以上(PPC≧2,CGI≧6)のものをPG群,それ以外のものを非PG群とし,目標設定における患者の意思決定の程度や主観的改善度,PGの有無とADLや心理機能の変化量との関連性をSpearmanの相関係数を用いて検討した。また,PG群と非PG群のADLや心理機能の変化量を比較するために各群の平均値を用いて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学の研究倫理委員会の承認(H25-27)を受けて実施された。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的や方法を説明し書面にて同意を得た。
【結果】
全対象者のうちPPCとCGIの両方で中央値以上であったPG群が3名,それ以外の非PG群が6名であった。PPCとADLや心理機能の変化量とは有意な相関が認められなかったが,CGIではBIの変化量と有意な相関が認められた(r=0.67,p<0.05)。また,PGの有無ではBIの変化量(r=0.84,p<0.01)とHADS(不安)の変化量(r=-0.75,p<0.05)の両方で有意な相関が認められた。PG群と非PG群のBIの変化量はPG群:28.3±2.9点,非PG群15.8±4.9点,HADS(不安)の変化量はPG群:-2.7±0.6点,非PG群:0.2±1.8点でありPG群でより変化量が大きい傾向であった。目標の内容に関しては,筋力や持久力などの心身機能,歩行やトイレ動作などのADLの内容が多く,家事動作や趣味活動などの目標は少なかった。
【考察】
目標設定における患者の意思決定の程度では,ADLや心理機能の変化量と相関がなく先行研究と同様の結果であったが,主観的改善度ではBIの変化量と相関があった。これは,今回の対象が回リハ病棟の新規入院患者であり,研究期間も入院後1ヵ月程度に限定しているため,目標内容で心身機能やADLが多くなり,主観的改善度とBIが相関したと考えられる。また,PGモデルの検討では目標設定における意思決定が高く,さらに主観的改善度も高かったものはBIだけでなくHADS(不安)の変化量も大きい傾向にあり,このモデルを支持する結果となった。今回の結果から,回リハ病棟の入院初期の患者において,目標設定に患者の意思決定を含めた上でADLを改善していくことで,心理機能の改善につながることが確認された。
【理学療法学研究としての意義】
今回少数ではあるが,目標設定に患者を参加させる効果の理由の1つとしてPGモデルの可能性が示せたことは,理学療法プロセスにとって意義のあることと考える。