第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

福祉用具・地域在宅2

2014年5月30日(金) 18:05 〜 18:55 第6会場 (3F 304)

座長:金谷さとみ(菅間記念病院リハビリテーション科)

生活環境支援 口述

[0664] 高齢入院患者におけるトイレ動作自立に必要な身体機能水準

石山大介1, 森尾裕志2, 堅田紘頌2, 小山真吾3, 井澤和大2, 松永優子1, 松下和彦1 (1.川崎市立多摩病院リハビリテーション科, 2.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 3.聖マリアンナ医科大学東横病院リハビリテーション室)

キーワード:トイレ動作, 自立度, 身体機能

【はじめに,目的】
排泄は,社会生活を送るうえで自立すべき行為である。排泄行為には,対象者が尿意や便意を感知してからのトイレへの移動,便座への移乗,下衣の着脱,排尿や排便,後始末を行うまでの一連の動作が含まれる。これらの動作は,機能的自立度評価法(FIM)で,排泄コントロール,トイレ移乗,トイレ動作に分類されている。その中で,下衣の着脱から後始末で構成されるトイレ動作は,介護負担感(仲山ら,2011)や対象者のQOL(澤ら,2003),自宅退院との関連(大賀ら,2006)が報告されており,自立することが重要である。排泄行為の自立に関連するものとして,身体機能が報告されている(池添ら,1997)。しかし,トイレ動作の自立に限定して身体機能を検討されたものは,対象が中枢神経疾患患者である報告を除いては極めて少ない。
本研究の目的は,高齢入院患者を対象に,トイレ動作自立に必要な身体機能水準を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年8月から2013年6月の間に当院に入院加療となった65歳以上の高齢患者のうち,下記の調査項目が測定可能であった120例(年齢82.9±7.4歳,男性50.8%)である。除外基準は,中枢神経疾患や認知症,関節痛を有する例と病棟内ADL自立例である。
調査項目は,基本属性,身体機能,トイレ動作であり,後方視的に調査された。基本属性は,基礎疾患,年齢,身長,体重,BMIであり,診療録より調査された。身体機能は,筋力指標として握力[kgf]と膝伸展筋力[kgf/kg]が,関節可動域指標として足関節背屈可動域[度]が,バランス能力指標として前方リーチ距離[cm]と片脚立位時間[秒]が測定された。トイレ動作は,FIMの下位項目の判定基準が採用され,自立度を検者が採点した。対象者は,FIM6点以上に該当する者を自立群に,FIM5点以下に該当する者を非自立群に分類された。
統計学的手法は,自立群と非自立群の基本属性および身体機能の差異の判定に,Mann-WhitneyのU検定を用いた。トイレ動作自立に影響する因子の抽出には,ロジスティック回帰分析を用いた。その後,受信者動作特性曲線を用いて,トイレ動作自立群を判別する身体機能の閾値を判定した。なお,統計学的判定の基準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認(承認番号:第130号)を得て行った。また,ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究の趣旨を説明し,同意を得た。
【結果】
トイレ動作におけるFIMの採点結果は,7点が32例,6点が34例,5点が45例,4点が9例であり,自立群が66例,非自立群が54例に分類された。
非自立群は,自立群に比し,握力(12.7 vs 15.5kgf,p=0.019),膝伸展筋力(0.26 vs 0.36kgf/kg,p<0.001),前方リーチ距離(21.5 vs 32.8cm,p<0.001),片脚立位時間(1.0 vs 6.5秒,p<0.001)で低値を示し,年齢(84.9 vs 81.1歳,p=0.004)では高値を示した。
ロジスティック回帰分析の結果,トイレ動作自立に影響する因子として,前方リーチ距離が抽出された(p<0.001)。
受信者動作特性曲線での曲線下面積は0.859であり,前方リーチ距離は,トイレ動作自立群を有意に判別することが可能な因子であった(p<0.001)。トイレ動作自立群を判別する閾値は,前方リーチ距離26.8cmであり,感度は84.8%,特異度は77.8%,正診率は81.7%であった。
【考察】
本研究では,トイレ動作自立に必要な身体機能水準を検討した。
筋力指標である握力や膝伸展筋力,バランス能力指標である前方リーチ距離や片脚立位時間は,トイレ動作非自立群に比し自立群で有意に高値を示した。以上のことから,トイレ動作が自立するためには,より高い筋力水準とバランス能力が必要であると考えられた。
また,ロジスティック回帰分析により,トイレ動作自立に影響する因子を抽出したところ,前方リーチ距離のみが選択された。この結果は,前方への重心移動が伴う下衣の着脱の特性を反映しているものと思われた。
さらに,受信者動作特性曲線により,トイレ動作自立群を判別する前方リーチ距離の閾値を求めたところ,26.8cmにおいて,高い感度,特異度,正診率を示した。以上のことから,前方リーチ距離26.8cmの値は,トイレ動作自立を判定するための指標になるものと考えられた。
本研究の新奇性は,高齢入院患者において,排泄行為の中からトイレ動作に限定して,自立に必要な身体機能水準が示されたことであった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究成果は,高齢入院患者のトイレ動作における自立度の判定や身体機能の目標設定および理学療法プログラム立案の一助になる可能性がある。