[0673] 地域在住高齢者における睡眠関連因子と歩行指標との関係
Keywords:睡眠障害, 歩行, 介護予防
【はじめに,目的】
加齢による睡眠構造の変化などにより,高齢期には睡眠時間や夜間中途覚醒などの睡眠関連因子に対する訴え,つまり睡眠障害が多い反面,診断・治療がなされていない場合が多いとされている。高齢期の睡眠障害は,注意力の低下や反応時間の遅延,さらには後の認知機能低下及び認知症発症のリスクであると報告されている。また,高齢期の睡眠障害は,歩行速度の低下などの身体機能低下に加え,転倒のリスクであることがすでに報告されているが,転倒と関連のある歩行指標と睡眠関連因子との関連を検討したものは未だみられない。本研究の目的は,主観的な睡眠関連因子と歩行速度,及びばらつきの関連性を横断的に検討することである。
【方法】
解析対象者は,国立長寿医療研究センターが2011年8月~2012年2月に実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,歩行に影響を与える可能性がある脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつ病の既往がある者,Mini-Mental State Examinationが18点未満の者を除外し,さらに歩行計測において5試行,5ストライド未満の者を除外した4,252名(平均年齢72.2±5.7歳,女性2,248名,男性2,004名)とした。睡眠関連因子は,質問紙より起床時間,就寝時間,就床時間,睡眠薬・精神安定剤の服用,入眠困難,夜間・早朝の覚醒,起床時の疲労感,日中の眠気の有無の8項目とした。歩行指標は,ANIMA社製ウォークWay MV-1000を使用し,通常歩行速度にて5施行実施し得られた結果より,歩行速度及びストライド長のばらつきの大きさを表すstride length CV(Coefficient of Variation:変動係数)を算出し,2項目について四分位でカテゴリー化した。また,調整因子として,年齢,性別,BMIの一般情報に加え,睡眠と関連のある服薬数,併存疾患数,うつ傾向の有無(15-items Geriatric Depression Scale),喫煙習慣,飲酒習慣を聴取した。統計解析は以下の2つのモデルに対して多項ロジスティック回帰分析を実施した。モデル1は,従属変数に歩行速度またはStride length CV,独立変数に各睡眠関連因子と調整因子を強制投入した。モデル2は,歩行速度またはStride length CVごとにモデル1で有意な関連がみられた睡眠関連因子と調整因子を強制投入した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の趣旨・目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。
【結果】
モデル1の結果,歩行速度において,第1四分位点以下の者と比較し第4四分位点以上の者は,歩行速度の低下と就床時間の延長(Odds Ratio,以下OR:1.95),睡眠薬・精神安定剤の服用(OR:1.44),起床時の疲労感(OR:1.87),日中の眠気(OR:1.68)が有意な関連を認めた。Stride length CVにおいて,Stride length CVの上昇と,就床時間の延長(OR:1.54),入眠困難(OR:1.77),日中の眠気(OR:1.53)が有意な関連を認めた。モデル2の結果,歩行速度に対してはモデル1における起床時の疲労感を除く3項目(OR:1.98,1.44,1.68)が,Stride length CVに対してはモデル1における全項目(OR:1.52,1.69,1.51)において有意な関連を認めた。
【考察】
本研究の結果より,就床時間などの睡眠関連因子が歩行速度低下および歩行のばらつきの上昇に関連していることが示唆された。就床時間の延長と歩行速度低下の関係に対して,統一した見解が未だ得られていない一方で,夜間覚醒時間の延長や睡眠効率の低下によって歩行速度が低下することはすでに報告されている。つまり,本研究における就床時間の延長は,中途覚醒や入眠困難による睡眠の質の低下が背景にあると考えられる。また,歩行のばらつきを表すStride length CVは転倒者において高いことが示されており,睡眠関連因子が転倒リスクに影響を及ぼしている可能性が考えられる。しかし,本研究では睡眠の評価は各睡眠関連因子を主観的に評価したことにとどまっており,睡眠時間や睡眠の質などを正確に評価できていないことが本研究の限界として挙げられるため,睡眠の客観的な評価を含め,今後更なる検討が必要であると考えられる。しかし,大規模コホートにおいて,睡眠関連指標と歩行速度,歩行のばらつきにおいて関連性がみられたことは意味が大きいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は高齢期における睡眠関連因子に対する訴えが歩行速度の低下および歩行のばらつきの上昇と関連していることを示唆するものであり,リハビリテーションの実施における転倒などのリスク評価に対して有用な情報を提示するものであると考える。
加齢による睡眠構造の変化などにより,高齢期には睡眠時間や夜間中途覚醒などの睡眠関連因子に対する訴え,つまり睡眠障害が多い反面,診断・治療がなされていない場合が多いとされている。高齢期の睡眠障害は,注意力の低下や反応時間の遅延,さらには後の認知機能低下及び認知症発症のリスクであると報告されている。また,高齢期の睡眠障害は,歩行速度の低下などの身体機能低下に加え,転倒のリスクであることがすでに報告されているが,転倒と関連のある歩行指標と睡眠関連因子との関連を検討したものは未だみられない。本研究の目的は,主観的な睡眠関連因子と歩行速度,及びばらつきの関連性を横断的に検討することである。
【方法】
解析対象者は,国立長寿医療研究センターが2011年8月~2012年2月に実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,歩行に影響を与える可能性がある脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつ病の既往がある者,Mini-Mental State Examinationが18点未満の者を除外し,さらに歩行計測において5試行,5ストライド未満の者を除外した4,252名(平均年齢72.2±5.7歳,女性2,248名,男性2,004名)とした。睡眠関連因子は,質問紙より起床時間,就寝時間,就床時間,睡眠薬・精神安定剤の服用,入眠困難,夜間・早朝の覚醒,起床時の疲労感,日中の眠気の有無の8項目とした。歩行指標は,ANIMA社製ウォークWay MV-1000を使用し,通常歩行速度にて5施行実施し得られた結果より,歩行速度及びストライド長のばらつきの大きさを表すstride length CV(Coefficient of Variation:変動係数)を算出し,2項目について四分位でカテゴリー化した。また,調整因子として,年齢,性別,BMIの一般情報に加え,睡眠と関連のある服薬数,併存疾患数,うつ傾向の有無(15-items Geriatric Depression Scale),喫煙習慣,飲酒習慣を聴取した。統計解析は以下の2つのモデルに対して多項ロジスティック回帰分析を実施した。モデル1は,従属変数に歩行速度またはStride length CV,独立変数に各睡眠関連因子と調整因子を強制投入した。モデル2は,歩行速度またはStride length CVごとにモデル1で有意な関連がみられた睡眠関連因子と調整因子を強制投入した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の趣旨・目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。
【結果】
モデル1の結果,歩行速度において,第1四分位点以下の者と比較し第4四分位点以上の者は,歩行速度の低下と就床時間の延長(Odds Ratio,以下OR:1.95),睡眠薬・精神安定剤の服用(OR:1.44),起床時の疲労感(OR:1.87),日中の眠気(OR:1.68)が有意な関連を認めた。Stride length CVにおいて,Stride length CVの上昇と,就床時間の延長(OR:1.54),入眠困難(OR:1.77),日中の眠気(OR:1.53)が有意な関連を認めた。モデル2の結果,歩行速度に対してはモデル1における起床時の疲労感を除く3項目(OR:1.98,1.44,1.68)が,Stride length CVに対してはモデル1における全項目(OR:1.52,1.69,1.51)において有意な関連を認めた。
【考察】
本研究の結果より,就床時間などの睡眠関連因子が歩行速度低下および歩行のばらつきの上昇に関連していることが示唆された。就床時間の延長と歩行速度低下の関係に対して,統一した見解が未だ得られていない一方で,夜間覚醒時間の延長や睡眠効率の低下によって歩行速度が低下することはすでに報告されている。つまり,本研究における就床時間の延長は,中途覚醒や入眠困難による睡眠の質の低下が背景にあると考えられる。また,歩行のばらつきを表すStride length CVは転倒者において高いことが示されており,睡眠関連因子が転倒リスクに影響を及ぼしている可能性が考えられる。しかし,本研究では睡眠の評価は各睡眠関連因子を主観的に評価したことにとどまっており,睡眠時間や睡眠の質などを正確に評価できていないことが本研究の限界として挙げられるため,睡眠の客観的な評価を含め,今後更なる検討が必要であると考えられる。しかし,大規模コホートにおいて,睡眠関連指標と歩行速度,歩行のばらつきにおいて関連性がみられたことは意味が大きいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は高齢期における睡眠関連因子に対する訴えが歩行速度の低下および歩行のばらつきの上昇と関連していることを示唆するものであり,リハビリテーションの実施における転倒などのリスク評価に対して有用な情報を提示するものであると考える。