第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防7

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM 第6会場 (3F 304)

座長:横川吉晴(信州大学医学部保健学科理学療法学専攻)

生活環境支援 口述

[0674] 積雪寒冷地域に在住する後期高齢者における冬期間の外出行動と身体機能および生活機能との関係

安田圭佑1, 井平光2, 水本淳3, 牧野圭太郎3, 宮部瑶子2, 古名丈人2 (1.JA北海道厚生連帯広厚生病院医療技術部理学療法技術科, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座, 3.札幌医科大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:後期高齢者, 積雪地域, 外出行動

【はじめに,目的】
北海道の積雪寒冷地域に在住する高齢者にとって,冬期間の積雪は外出機会の減少や閉じこもりの増加など,さまざまな健康状態への影響が報告されている。一方で,積雪した雪を除去するための除雪作業(雪かき)が日常生活と密接に関係しており,作業動作による身体活動や運動の増加が身体機能や健康関連要因に関与している可能性がある。しかしながら,高齢者の外出行動を目的別に調査した報告はなく,冬期間の外出行動の特性をより詳細に調査する必要がある。本研究では,積雪寒冷地域に在住する75歳以上の高齢者における冬期間の外出行動に着目し,身体機能および生活機能との関係を調査することを目的とした。
【方法】
対象は,北海道A市で行われた調査に参加した75歳以上の地域在住高齢者275名のうち,ベースライン調査とフォローアップ調査の両方に参加した231名とした。このうち,データに不備があった1名を除外した230名(男性91名,女性139名)を分析対象とした。本調査は積雪前の2012年11月にベースライン調査を行い,厳冬期である2013年2月にフォローアップ調査行った検診方式を用いた悉皆調査である。取り込み基準は独歩または歩行補助具を利用し歩行が自立している者とした。対象者に対し専門のスタッフが運動機能検査および生活機能の聴取を行った。運動機能については,等尺性最大膝伸展筋力(以下,膝伸展筋力)および最大歩行速度,握力,Timed Up & Go test(以下,TUG)を測定した。生活機能については,質問紙法にて1年間の転倒の有無,休まず歩ける距離,ソーシャルサポート,老研式活動能力指標を聴取した。さらにフォローアップ時に1週間の外出頻度および雪かきの有無について聴取した。統計解析では,外出頻度をカテゴリ化(0-3日/週を低外出頻度,4-7日/週を高外出頻度)し,外出頻度と雪かきの有無をもとに外出行動を4群に分類した(低外出頻度+雪かきなし群,低外出頻度+雪かきあり群,高外出頻度+雪かきなし群,高外出頻度+非雪かきあり群)。さらに,4群間の運動機能と生活機能を比較するために年齢および性別で調整した共分散分析によって主効果を検討し,事後検定としてBonferroniによる多重比較検定を行った。統計解析にはSPSS17.0を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
外出行動の違いによって4群に分類した結果,低外出頻度+雪かき無し群20名(9%),低外出頻度+雪かきあり群51名(22%),高外出頻度+雪かき無し群28名(12%),高外出頻度+雪かきあり群131名(57%)であった。共分散分析を行った結果,最大歩行速度,TUG,休まず歩ける距離,ソーシャルサポート,および老研式活動能力指標に主効果を認めた。多重比較検定の結果,最大歩行速度,TUG,休まず歩ける距離において高外出頻度+雪かきあり群が低外出頻度の2群と比較して有意に良好な値を示した。また,ソーシャルサポートについては低外出頻度+雪かき無し群と低外出頻度+雪かきあり群の間に有意な差が認められ,老研式活動能力指標については高外出頻度+雪かきあり群が他の群と比較して有意に高値であった。
【考察】
外出頻度と外出行動を組み合わせて検討した結果,高外出頻度+雪かきなし群では外出する機会の少ない低外出頻度の2群と比べて運動機能に有意な差は認められなかった。また,積雪寒冷地域在住の後期高齢者の外出行動の特徴として,外出頻度が多いことに加えて,雪かきのような作業活動を日常的に行っている高齢者は運動機能や生活機能が高いことが示された。これらのことから,積雪寒冷地域に在住する高齢者を対象として調査を行う場合,外出頻度だけではなく外出行動の内容についても検討していく重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
外出頻度を増加させる介入手段が,身体機能の向上や良好な健康状態と関連していることは多くの報告によって明らかにされている。しかしながら,これらの報告は外出する環境に制約がない場合が多く,特に積雪寒冷地域の外出行動に着目した報告は少ない。積雪のなかでも積極的に外出機会を設けようとする通常の外出と,作業として行うことが求められる外出(雪かき)を区別して高齢者の外出行動を適切に評価することは,環境に制約のある場合の外出頻度を高める介入策を講じるためには必要な視点であると考えられる。本研究では,積雪寒冷地域に在住する高齢者を対象として検討を行う場合,外出頻度だけではなく外出行動の内容についても検討していく重要性が示唆された。