[0684] 脳卒中片麻痺における至適歩行速度を基準とした歩行能力の分類
Keywords:片麻痺, 歩行速度, 歩行能力
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の歩行能力を表す指標として,最大歩行速度(MWS)を用いた研究は数多く存在する。しかし,臨床現場におけるMWSの測定は,転倒の危険性も高いために簡単ではない。それに対し通常の速さで歩かせたときの至適歩行速度(OWS)は,比較的容易に,かつ安全に測定可能である。本邦ではOWSを指標とした研究は少ないが,Holdenら(1984),Perryら(1995),Kollenら(2006)はOWSの有用性を強調している。さらに,Schmidら(2007)は,OWSを基準に歩行能力を分類し,脳卒中発症後屋内歩行レベルであった患者が屋外歩行レベルに改善した場合,QOLの移動と参加の項目が有意に向上したと報告している。脳卒中片麻痺患者の歩行能力を,OWSを用いて屋内歩行レベルと屋外歩行レベルに分類できれば,臨床現場における歩行の実用性評価として大きな意義がある。さらに,歩行能力の判別を具体的なOWSの値で表すことができれば臨床上の活用価値は高い。そこで本研究では,歩行能力分類の基準となるOWSのカットオフ値を見出せるか検討した。
【方法】
対象は,歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者31名(男性19名,女性12名,右麻痺15名,左麻痺16名,平均年齢63.4±12.2歳,平均身長159.8±9.6cm,平均体重58.5±10.8kg)を被検者とした。被検者は着衣で靴を履いた状態とし,ランドマーク部位(腓骨頭,外果の近位10cm部)に,衣服がずれない程度にゴム製のベルトを軽く巻き,その上から円形の赤色マーカー(直径2.5cm)を貼付した。三脚に取り付けたデジタルビデオカメラ(DVTR)から約4m離れた直線歩行路(DVTRの撮影画面に対して平行な4m歩行路,助走路2m以上)をOWSで3往復させた。日常的に使用している杖・装具の使用は認めた。撮影後,動画ファイルとしてパソコンに取り込んだ。まず,距離変数として,1歩行周期の踵間距離(重複歩距離)をImageJ(freeware)にて測定した。次に,時間変数として,1歩行周期の所要時間をVirtualDubMod(freeware)にて測定した。いずれの変数も,事前に高い測定精度が確認されている条件で測定を行った。また,測定の信頼性を保証するため,各変数につき6回分の測定データを平均した。そして,重複歩距離を1歩行周期の所要時間で除してOWS(m/min)を求めた。さらに,歩行能力の分類は,FIMの運動項目である移動(歩行)に基づいて判定した(歩行FIM)。歩行FIMが5~4点(屋内自立~監視)を屋内歩行群,7~6点(屋外自立)を屋外歩行群として分類した(歩行能力分類)。統計的解析方法は,歩行能力分類を従属変数とし,OWSを独立変数とした判別分析を実施した。統計的解析にはSPSS 12.0Jを使用した。さらに,R2.8.1(CRAN,freeware)にて歩行能力分類に対するOWSのカットオフ値を求め,そのカットオフ値を基に感度,特異度を推定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被検者には,研究の主旨を書面にて説明し,署名による同意を得た。なお,本研究は,演者が所属する組織の倫理審査委員会による承認を得て実施された。
【結果】
固有値の正準相関係数は0.806,Wilksのラムダ統計量による有意確率はp<0.01,判別的中率は90.3%であり,適合度は高いと判定した。そして,歩行能力分類に対するOWSのカットオフ値は27~28m/minで,感度・特異度は,いずれも100%に近い値(95%信頼区間1.00~1.00)であった。
【考察】
両群の境界となったカットオフ値は27~28m/minであった。稲坂ら(1982)は,100mを4分以内の速さ(25m/mim以上)で歩けば実用歩行速度になると報告している。また,Perryら(1995)も,平均25m/min以上を屋内歩行レベルと屋外歩行レベルとの境界としている。しかしこれらの報告は,平均値を指標として提示しているだけであり,具体的診断基準である感度・特異度・尤度比といった指標を用いた場合と単純比較できない,または実質的に有効な基準値と認めて良いかという点で疑問を持つ。さらに,この基準で分けた際の判別的中率は77%である。本研究で得られた27~28m/minという値は,判別的中率が90.3%であり,カットオフ値の感度・特異度はともに100%に近い値であった。よって,歩行能力分類の基準として,今回求めたカットオフ値の方が,より現実的であり適切な値であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では歩行能力分類の基準としてOWSを用いた。OWSをもとに屋内歩行レベルと屋外歩行レベルを分類することは可能であり,臨床現場におけるOWS測定の意義は大きい。
脳卒中片麻痺患者の歩行能力を表す指標として,最大歩行速度(MWS)を用いた研究は数多く存在する。しかし,臨床現場におけるMWSの測定は,転倒の危険性も高いために簡単ではない。それに対し通常の速さで歩かせたときの至適歩行速度(OWS)は,比較的容易に,かつ安全に測定可能である。本邦ではOWSを指標とした研究は少ないが,Holdenら(1984),Perryら(1995),Kollenら(2006)はOWSの有用性を強調している。さらに,Schmidら(2007)は,OWSを基準に歩行能力を分類し,脳卒中発症後屋内歩行レベルであった患者が屋外歩行レベルに改善した場合,QOLの移動と参加の項目が有意に向上したと報告している。脳卒中片麻痺患者の歩行能力を,OWSを用いて屋内歩行レベルと屋外歩行レベルに分類できれば,臨床現場における歩行の実用性評価として大きな意義がある。さらに,歩行能力の判別を具体的なOWSの値で表すことができれば臨床上の活用価値は高い。そこで本研究では,歩行能力分類の基準となるOWSのカットオフ値を見出せるか検討した。
【方法】
対象は,歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者31名(男性19名,女性12名,右麻痺15名,左麻痺16名,平均年齢63.4±12.2歳,平均身長159.8±9.6cm,平均体重58.5±10.8kg)を被検者とした。被検者は着衣で靴を履いた状態とし,ランドマーク部位(腓骨頭,外果の近位10cm部)に,衣服がずれない程度にゴム製のベルトを軽く巻き,その上から円形の赤色マーカー(直径2.5cm)を貼付した。三脚に取り付けたデジタルビデオカメラ(DVTR)から約4m離れた直線歩行路(DVTRの撮影画面に対して平行な4m歩行路,助走路2m以上)をOWSで3往復させた。日常的に使用している杖・装具の使用は認めた。撮影後,動画ファイルとしてパソコンに取り込んだ。まず,距離変数として,1歩行周期の踵間距離(重複歩距離)をImageJ(freeware)にて測定した。次に,時間変数として,1歩行周期の所要時間をVirtualDubMod(freeware)にて測定した。いずれの変数も,事前に高い測定精度が確認されている条件で測定を行った。また,測定の信頼性を保証するため,各変数につき6回分の測定データを平均した。そして,重複歩距離を1歩行周期の所要時間で除してOWS(m/min)を求めた。さらに,歩行能力の分類は,FIMの運動項目である移動(歩行)に基づいて判定した(歩行FIM)。歩行FIMが5~4点(屋内自立~監視)を屋内歩行群,7~6点(屋外自立)を屋外歩行群として分類した(歩行能力分類)。統計的解析方法は,歩行能力分類を従属変数とし,OWSを独立変数とした判別分析を実施した。統計的解析にはSPSS 12.0Jを使用した。さらに,R2.8.1(CRAN,freeware)にて歩行能力分類に対するOWSのカットオフ値を求め,そのカットオフ値を基に感度,特異度を推定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被検者には,研究の主旨を書面にて説明し,署名による同意を得た。なお,本研究は,演者が所属する組織の倫理審査委員会による承認を得て実施された。
【結果】
固有値の正準相関係数は0.806,Wilksのラムダ統計量による有意確率はp<0.01,判別的中率は90.3%であり,適合度は高いと判定した。そして,歩行能力分類に対するOWSのカットオフ値は27~28m/minで,感度・特異度は,いずれも100%に近い値(95%信頼区間1.00~1.00)であった。
【考察】
両群の境界となったカットオフ値は27~28m/minであった。稲坂ら(1982)は,100mを4分以内の速さ(25m/mim以上)で歩けば実用歩行速度になると報告している。また,Perryら(1995)も,平均25m/min以上を屋内歩行レベルと屋外歩行レベルとの境界としている。しかしこれらの報告は,平均値を指標として提示しているだけであり,具体的診断基準である感度・特異度・尤度比といった指標を用いた場合と単純比較できない,または実質的に有効な基準値と認めて良いかという点で疑問を持つ。さらに,この基準で分けた際の判別的中率は77%である。本研究で得られた27~28m/minという値は,判別的中率が90.3%であり,カットオフ値の感度・特異度はともに100%に近い値であった。よって,歩行能力分類の基準として,今回求めたカットオフ値の方が,より現実的であり適切な値であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では歩行能力分類の基準としてOWSを用いた。OWSをもとに屋内歩行レベルと屋外歩行レベルを分類することは可能であり,臨床現場におけるOWS測定の意義は大きい。